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153 ケイちゃん


「ふっ、現金な奴め」


 この時俺は笑い事のように思っていたが、ガスパルは真剣だったようだ。


「カイト、アンタの嫁さん……?にも謝りに行かせてくれ」


 これは意外だった……。ガスパルの奴ちゃんと覚えてたのか。



「……分かった。セシルにもお前が反省している事は伝えとくからな」


 ガスパルはそれを聞くと俺に頭を下げ、またダッシュでカターナの方へと帰って行った。



 その後ろ姿を見て、俺はほんの少し安心感を覚えるのだった。




 ――さて、そんなこんなでミルコにも報酬を渡してから別れ、俺達は家まで帰ってきた。


「ふうっ、今日も仕事したなー」

「カイトさん、ターニャちゃん。お疲れ様でした!また明日も頑張りましょう!」

「おう、明日は辺境の村に営業かけにいくぞ!」

「ういーー!」


 といった会話の後、俺とターニャは玄関の扉に手を掛けたその時……!



 誰もいないハズの家の中から誰かの気配がした。人の声のような音が聞こえてくる……!



 ――「中に誰かいる!!」



 ターニャに掌を向けて警戒を促し、俺は少しずつ玄関の引き戸を開けていく……。



「テンテテンテテンテンテテン♩天才〜天才〜わたしはてん〜さい〜〜魔法の〜力で〜悪を討つ〜テンテンテテンテンテンテテン♪」


 薄く開けた扉の向こうでは俺のよく知る少女がこちらを背にして歌い踊っている。


「わた〜しは〜だぁれ〜〜♫上級魔術師ィ〜なのかな〜〜?否!宮廷魔術師ィ〜なのかな〜〜?否!!大〜魔術師のケイちゃんです〜♬イェイイェイ」


 肩までかかる長い金髪をかびかせながら踊る少女――魔法使いのケイだった。


 やべぇ、めっちゃノリノリで歌ってる……。しかもアレおそらくオリジナルソングだ。うわー……。



「♪火山が爆発ゥ〜それは天災――」


 ――ガラッ。


 俺は何も考えずとりあえず戸を開けた。


「よう、……ケイちゃん」


 ケイはちょうどこっちを向いた所だったようで、俺と真正面から目が合ってしまった。

 これでもかというぐらい目を見開いて固まっている。


 非常に気まずいが俺は苦笑いしながら語りかけた。


「う、うん。いい歌だな。うん」


 するとケイは天を仰ぎながら崩れ落ちるようにペタンと座り込んでしまった。

 そして半笑いの顔で奇妙な声を上げ始めた。


「うひっ……ひっ……」


「いや、ノッてる所悪いな。その、……お前()()()踊ってたもんだからさ」


「あ、あああああーー!」


 ケイは両手で頭を抱え込んでうずくまってしまった。

 確かにあれを見られていたというのは恥ずかしい!

 まさに羞恥しゅうちの極み!!


「ケイーー!!」


 ターニャの声に反応し顔を上げるケイ。


「……あ、ターニャ……」


「ケイ、あの変な歌うたってー!ターニャも隣でおどる!」


「変な歌言うなぁ!ああーーもぉおおおやだーーっ!ゔゔーっ」


 しばらくケイに同情していたがやがて我に帰って疑問が湧き出てきた。



「……あれ?そう言えば何でお前ここにいるんだ?この前『こっちの世界は魔法使えないからめっちゃ怖い』みたいな事言ってなかったか?」


 ケイは一旦呼吸を整え、ゆっくり顔を上げてさっきまでとは打って変わって真剣な表情で話し始めた。



「……カイトおじ、実はね、ウチの国……ドゥカテーのお尋ね者がこっちに逃げてきたのよ!」


「ええ!?お、お尋ね者って……犯罪者か何かか!?」


「犯罪者って程じゃないけど、変なものばっかり作る魔法技師の人で、なんかやらかして牢屋に入れられてたらしいんだけど、なんか脱走したんだって」


 俺はちょっと怖くなった。


「いや怖えな。……待てよ、もしかしてそいつ、この家の横の()から出てきたって事か!?」


「だと思うよ?だってここの木に繋がる世界樹の門番のゴーレムが倒されて破壊されてたもん」


「じゃ、じゃあ今ソイツこの辺うろついてるかも知れねえって事か!?」


 ケイは少し上を向き、頬に人差し指を当てながら答えた。

「どーかなー……逃げ出したの何日か前らしいから遠くに行っちゃってるかもね」



「失礼します。私も心当たりがあります」


 後ろから低い声がした。

 外を見ると、人語をあやつる犬の「バン」が座っていた。


「数日前、怪しげなローブをまとった人物が山を下りて行くのを目撃しました。ですが、それ以降全く姿を見ておりません」



 怪しげなローブ……なんか身に覚えがあるような……。


「カイトさん!アレじゃないですか!?日本に帰る前日に、ギルドで村のデータを見た後家に帰る途中で追いかけてきたストーカーがいたでしょう?」


「あ!あいつか……、確かに怪しいマントみたいなローブを着てたような気がする!」


 ケイを見ると、何かを考えるような表情で顎に手を当てて考えていた。


「でも不思議なのよねー。こっちに来ちゃったら魔法が使えないんだから絶対不便だし、あの強いゴーレムをワザワザ倒してまでこっちに来るなんて変なの……まあ変わり者で有名だったらしいけどねーその人」


「え?ゴーレムって強かったっけ?」


 俺はいつもカブとのコンビアタックで一撃で粉砕していたのでそんな強いイメージがないのだが。


「いや、それはカイトおじさんとカブが異常なだけで普通は破壊できないんだから!……あ、私は出来ると思うよ、多分ね。ふふっ」


 得意げな顔で指で髪の毛をクルクル巻いて話すケイだった。


「ケイもつよい!」

 隣でターニャが拍手している。


「なるほどな。で、お前はそいつを追いかけて来たってわけか?」


「まあね。こっちに来た事あるの私だけだったし。でもここじゃ私も魔法が使えないからカイトおじさんやカブにも協力してもらおうと思ったの。見つけたら捕まえてね!」


「ふーむ。しかしどこにいるか分からんから難航しそうだな。顔も見たわけじゃねーし……」



 ……と、ここでカブが一つ提案してきた。


「カイトさん。その人は以前僕らを追ってきましたよね?」


「ん、ああ」


「じゃあヤマッハをブラついていれば、もしかしたらまた追いかけて来るかもしれませんよ!」


 な、なんかおとり捜査みたいだな。


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