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151 ターニャが消えた……


 目を釣り上げて俺をにらむルナ。


「新聞配達なんてアンタらもやるの初めてなんだろ?困った時はお互い様ってヤツだ。それにその方が安心だぜ。()()()()な」


 俺はちょっと首を傾げてわざとらしく皮肉を放った。


 ルナはしばらく唇を噛み締めるような仕草をしていたが、やがて力を抜き、無理やり笑顔を作って返事をした。


「ま、まあその時はお願いしますね。そんな機会があ、れ、ば、ですけど」


「おう!」



 ……。



 それからは普通に仕事内容の話に戻り、配達範囲の地図をもらった。


 驚いたのが、ここで「懐中時計かいちゅうどけい」を貸し出された事だ!何でも配達は深夜の4時かららしい。


 この世界にも時間って概念があったのか!と俺は少し感心した。……というかうちの家にもアナログの腕時計があったような……。




「じゃ、そういうことでよろしくお願いしますね」

「あいよ」


 別れ際の最後まで、ルナは俺をジッと見ていた。

 そんなに睨まんでもいいだろうに……。




「しかしカイトはよく怒らねーよな。俺ならブチギレてる」


 カブを停めていた所まで帰る途中にガスパルがそんな事をつぶやいた。

 実際キレてただろ、お前。


「本当ですよ。僕でも正直結構イラッとしましたもん。でもカイトさん、あんまり怒りを抑えてる感じでもなさそうだったし……」


 と、ミルコも似たようなことを漏らす。


「いやー、全く腹が立ってなかった訳じゃねーけど……まああっちも下手な業者に仕事させる訳にいかねーからあんな感じになるんだろ?」


「へー、そう考えるんすね」


「ああ、それにルナはキャットの利益のためにやってるだけで人間的にそんな嫌な奴でもないと思うしな。むしろ結構やり手だと思うぜ」


「いや、どこがだ!?ムカつき度マックスだったわ!奴は俺達をナメてるぜ!!」

「はっはっは!」


 ガスパルの言い方に俺は苦笑した。


「まあいいさ。一応これで安定した仕事が舞い込んできたわけだ。お前ら朝早くなるけど起きてくれよ!スーパーカブの仕事ぶりを見せてやろうぜ!!」


「おう!」

「はい!」



 ――あれ?何か忘れてるような……。あっ!!



「タ、ターニャ忘れてきた……!」


 俺はここでやっと思い出した。

 さっきまでターニャも一緒にいた事に……。仕事の交渉の事で頭が一杯ですっかり忘れてた!


「ちょっとさっきの事務所見てくるわ」


 俺はすぐさま駆け足で引き返した。


「あ、俺も行きます!」

「俺も行く!いなかったら手分けして探そうぜ!」


 二人の声を後ろに聞きながら、俺は急にターニャの身の上が心配になってきた。



 確か事務所に入ったところまではあいつも一緒だったはずだ。それからしばらく部屋の中をうろうろしていたような記憶はあるが……。


 うーーん、分からん!

 いや、アイツのことだ。あの部屋のどっか隅っこで寝転んでる可能性もある!



 ――ダッ。


 建物に戻りさっきの部屋に入った俺は早速隅々までくまなく探す。



 ……しかし見当たらない!



「ターニャどこだー!?もう帰るぞー!早く出てこいよー!おーーいぃ!!」


 俺の中で不安はどんどん大きくなっていった。


 ――はあっはあっ。嫌な汗が出てくる……。


 俺は部屋から飛び出し走って探し回った。途中でキャットの従業員にも何人か聞いてみたが子供は見ていないという。


 俺の脳裏に「誘拐」という認めたくない言葉が浮かんでは消えた。



 しょ、正直このスズッキーニに転移してからこんなに不安になったことはない……!

 不安が大きすぎて冷静に何かを考える事が出来ないレベル!


 うわああああっ……。



 そんな中、同じ様にターニャを探してくれていたガスパルと鉢合わせた。


「いたか!?」


「いや、いねえ……、でも多分遠くには行ってねえんじゃねえかな!少なくともこのキャットの敷地内だろ!?」


 俺はますます青ざめて吐きそうな気分になった、その時――!



「うまーー!!」



 どこか遠くで聞き覚えのある声がかすかに聞こえた。ア、アイツだ!!!!


 俺は声のした方を懸命に探し当てようとしたがどの方角か分からない。しかしガスパルを見ると、なぜかとある方角を指さしていた。


「多分あっちだカイト!」


「え!?わ、分かったのかガスパル??」


 ガスパルは少し得意気に鼻の下を指でこすりながら話した。


「諜報員時代に鍛えた耳のおかげだ。早く行こうぜ」


「ありがとうガスパル!」



 ――ダダッ。


 ガスパルに感謝しつつ後についていくと、俺は倉庫の裏手へと誘導されるのだった。


「ターニャ!!」


 倉庫の裏手に回った瞬間思わず叫んだ。するといつも俺が見ていたターニャが確かにそこにいた!


「あ、おじ!ういーー!」


 などと、いつもの叫び声と共にターニャはこちらに駆け寄ってくる。その手に芋を持って……。



 不安のどん底から解放された俺は思わず脚の力が抜け、その場にへたり込みそうになった。


「おまえ……、心配したじゃねーか!」


 俺はターニャを抱きしめ、その小さな体からしっかりと体温を感じる事が出来てホッとする。


 改めて感謝した。


 コイツが生きている事に。


「お、おじ……!?」


 初めは少し動揺していたターニャだったが、俺が本気で心配している事を悟ったようで軽く謝ってきた。


「おじ、すまん。芋、たべて」


 芋……。


 あれ?なんでお前焼芋なんか持ってんだ?



 ここで初めて俺は周りを見回した。


 するとそこには数人のキャットの従業員らしき人物が俺とターニャを眺めていた。


「お、お父さんかな?」


 そのうちの一人が言った。ん?なんか聞き覚えのある声だな。


 俺は顔を上げると、そこには以前ヤマッハのギルドで見たキャットの二人組のうちの一人の顔があった。


「あ!カイトさん!?あなただったんですか……」


「お?ああ、ギルドにいた……」


「コリーといいます。いやー、焼き芋してたらいつの間にかその子がずっとジーっと見てたもんだから……」


 するとここで当のターニャが芋を頬張りながら説明してくれた。


「外あるいてたら芋のにおいがしてここに来たよ。うまい!」


 なるほど。


 コリーの他にも従業員らしき人物が二人いて、それぞれ手には芋を持っていた。


 へー、仕事仲間で焼き芋してたんだな。俺は急に悪い気がしてきた。


「いやー皆さんすまねえな、休憩中邪魔しちまって」


「いや、それほどでもないです……。この子美味そうに芋食ってるもんだからこちらも和みましたよ。はは」


 見ると他の二人も笑っていた。


 ここでコリーが思い出したように聞いていた。


「そういえばカイトさんはなんでここに?仕事か何かで?」


「ああ。そう、仕事の事で来たんだ。さっきまでルナってねーちゃんと商談してた」


 俺がそう言うとコリーも含めた3人が一斉にこちらを向いて目を見開いていた。



「ル、ルナさんと!?」


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