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150/517

150 余裕だろ?


「まず新聞配達は想像以上にしんどいという事です。そしてほぼ毎朝業務があります」


 は?なんだ、そんな事か。

 俺は、取るに足らん!と思ったがすぐさまルナはまた鋭い目つきに戻り釘を刺してきた。


「今もしかしたら、なんだそんな事か……と思われたかも知れませんが。あなた方に配達していただく部数は一人当たり300部です」


「300部!……結構多いな」


「え、カイトさん、そうなんすか?」


 俺はミルコに向かってうなずく。


 昔新聞配達のバイトをしていた事があったが、250部とかでも多い方だったと思う。

 まあここと現代とは色々違うだろうが……。



 次にルナは机の下から一枚の紙を取り出して机の上に置いた。


「配るのはこういった新聞で、一件一件新聞受けにちゃんと配ってもらいます。1部では軽い新聞も300部あればかなりの重量になりますが、夜明けまでに配り終える契約ですので歩いてだと間に合いません。()()()()回って下さい!」



 え?……は、走る!?

 俺はここで俺達とルナとの間で、仕事上の前提にズレがあると気付いた。


 これにいち早く反応したのは予想通りガスパルだった。


「小走りってなんだよ!?そんなもんカブで――」

「ガスパル!!」


 俺は大声でガスパルの話を遮った。そして黙るように目で訴えた。


「……」


 何かを感じ取ったらしいガスパルは下を向きそのまま押し黙ったので俺は安心した。


 隣のミルコを見ると、真剣な表情の中にうっすらと笑みが浮かんでいる。コイツは俺の思惑おもわくを理解しているな……。ふふ。


 そしてミルコはわざとらしくこう言った。


「いやー、確かに想像してみると300部も()()()配るのは大変じゃないですかー。しかも毎日でしょ?いやーこれは大変だぞー」


 なんという棒読みだ!俺は隣で笑いを必死にこらえた。



 ルナは俺達が配達のしんどさを理解したと思ったのか、ニッコリ笑って話を続けた。


「分かっていただけたようで何よりです!では、その上で――」


 ルナはより真剣な表情を見せて決断を迫った。


「やっていただけるというのならあなた方に仕事を委託します。今ここで決めて下さい!無理なら他に入札している業者に回します」


 本当に他の業者の入札があるのかどうか不明だが、俺は即答した。



「やるぜ!ただ、その仕事量じゃ効率が悪い。配る量を倍にして賃金も倍にしてくれ。俺達なら必ず出来るから!!」



 俺がそう答えると、ルナは困ったように眉をひそめた。


「いや、ちょっと待ってください。本気で言ってます?ちょっと、……今のであなた達に仕事を頼めなくなるかもしれない……」


 ん?


「な、何でだよ!?なあ、お前ら出来るよなあ?」


 俺はミルコとガスパルの二人を向いて聞いた。


「はい!」

「もちろんだ!っつーか余裕だろ?」



 するとルナは頬杖をつき、さっきまでとはちょっと変わった雰囲気を醸し出した。


「……なんだ?キャット側としても俺達の仕事量が多い方が助かるんじゃないのか?」


「フーッ……」

 やれやれと言った感じでルナはため息をつく。そしてこう続けた。


「いやね、今の私の話を聞いた上で仕事量倍にしろだなんて、本当に理解してらっしゃるのかなって……」


 気だるげに失笑混じりにそう話すルナにガスパルがブチギレた!


「んだとゴラァ!俺達がちゃんと仕事出来るかどうかなんてテメーに分かんのかよ!?つかお前んトコだって俺らみてえな業者に委託したかったからこうやって話し合ってんだろ!?そんな状況で俺らが仕事を多く引き受ける事の何が不満なんだ!?ああ!?」


 ガシッ……。


「ガスパルさん……抑えて」


 隣に座るミルコに肩を押さえられ「フンッ」と鼻息を鳴らして再び席につく。言葉は悪いがガスパルの言うことは最もだ。


 ルナはガスパルに怒鳴られても全く意に介さない様子で鋭い目つきで俺を見つめている。

 とりあえず質問してみよう。


「……俺もアンタがそこまで仕事の量に文句が出る理由がちょっと分かんねーわ」


 俺の問いに答えるために、ルナは再び真面目な表情に戻った。



「……ここからはあくまで私の経験上でのお話なんですが、よろしいですか?」

「ああ」


 それを聞いてルナは一呼吸置いてから話始める。


「私達が外部に仕事を頼みたいのは事実です。ですが、こういった外注を請け負う業者の中にも()()()()()というのは、やはり存在します」


「……」


「例えば、予想より仕事がハードだったという理由で業務を完遂出来なかったとか……、それはまだマシな方で途中で投げ出して配達途中でどこかへ消えてしまったり、配達物を盗んで逃げる――、なんて事もありました。まあ最後のは論外ですがね……」


 ルナの口調に少し怒りが滲んでいる。

 その時思った。……なるほど、コイツはコイツで真剣なんだな、と。



「で、ハズレ業者の特徴として、仕事を請け負う時に考えもせず業務を軽く引き受ける……というのがあります、経験上。ちょうど今のあなたのように」


 ルナは少し侮蔑ぶべつ混じりに俺を見た。ふーむ、そういうことか……。



 少し間を開けて俺は口を開いた。


「なるほど、分かった。あんたの懸念けねんも最もだ。配達を倍にする話は無しでいい。配達でトラブルがあったら元請けのキャットの評判にも影響するもんな」


「いえ、それは大丈夫です」


「ん?」


「後で誓約書を書いてもらいますが、我々キャットは下請け業者に対して必要以上に介入しません。トラブルは全てそちらで解決して頂きます。そしてその損害は全てそちらで補償して下さい」


 ここまで言ってルナはまたあの笑顔を見せ、

「当然ですよね?配達するのはあなた方、その中でミスをするのもあなた方。当然それを補償するのもあなた方。そうでしょう?『スーパーカブ』さん」

 ……と、したり顔で言い放った。


 俺はちょっと腹が立ったが、もう少し言わせておく事にした。


「しかし我々も新聞社から信用されて配達を依頼されていますので、仕事自体はしっかりやりとげたいのです。なので――」


 ルナは立ち上がり俺達に向けて腕を広げ、まるで聖職者かのような笑顔を作った。


「困ったら言って下さいね。人をつかわしますから。……ただ人材派遣費は頂きますが」


 うわー出たー。



 ここで、今まで黙っていたミルコが釘を差した。

「ルナさん、まるで僕達がミスする前提で話してませんか?なんか怖いなあ」


 ルナは笑顔のままでミルコに返した。


「安心して下さい。ワザとミスを誘発させるようなマッチポンプみたいな真似はしませんから!絶対にね」


 ルナの目は自信に溢れている。そうか分かった。


 俺は少し挑発してやろうと思い立ち上がる。



「ルナさんよ。さっきの理屈なら逆によ、俺達がアンタらを助けた場合も人材派遣料払ってくれるんだよな?」



 するとルナは一瞬で顔を強張らせ、何やら口をパクパクさせてから怒り出した。



「ふ、ふざけないで下さい!そんな事起こるわけないでしょう!!」


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