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148 ミルコとガスパル


 ミルコは笑顔のまま口をポカンと開けて、どういう事だろうと考えているようだった。


「し、仕事を奪うって……何するんですか!?」


 俺は得意げな顔をして話を続けた。


「新聞ってあるだろ?今後ヤマッハでも号外みたいな形じゃなく、朝刊配達って形で各家のポストに配られるらしい」


「あ、俺も聞いたことあります。もしかしてセシルさんから聞いたんですか?」


「ああ、そんで配達は大手の配送系の会社に委託されたようだが、奴らあんまりやりたがってないらしくてな」


「……でしょうね。売上単価安そうですもん。あ!だから俺らが!?」


 俺はミルコをビシッと指さした。


「そう、大手の車は長距離用のデカい車しかないから、町中の細かい配達は全部人力みたいなんだ。だが俺達には――」


「カブがある!」

「僕がいます!」


 俺とカブはほぼ同時に宣言した。


 その時ミルコは俺の乗っているカブをよく見て、初めてカブが2台いる事に気付いたようだった。


「うわっ!カブ君がもう一台!?こ、これ、……この前カイトさんが僕の家まで乗って来たセローとはまた別っすよね!?へー……」


 ミルコは近寄ってカブをマジマジと眺めている。


「僕の後輩です!仲間が増えたみたいでなんか嬉しいですー。ちなみに新聞配達は今カイトさんの乗っている90の方で配るみたいです!」


「まあまだ未定だがな。交渉もしてないし……あ、それと配達員はミルコかガスパルのどっちか、もしくは両方に任せようと思ってる」


 そう言った瞬間ミルコの顔が雲った。


「は、はあ……」


 俺は構わず続けた。


「で、今からガスパルんとこ行くからお互い軽く挨拶してくれ。ちょっとガラの悪い奴ではあるけど意外と気が合うかも知れんぞ?」


 楽観的な俺に対し、やや俯きながら顔をしかめるミルコ。そんなにガスパルが嫌なんだろうか?


「まあそういうわけでミルコ、お前はこのカブ90に乗ってくれ」


「あ、はい。分かりました。……ちょっとカブ君より細い感じっすね……へー!」


 ミルコは新たなカブに乗れる事でテンションが少しは回復したようだ。


「じゃ、行きましょう!」



 ――ギャギャッ、ドゥルルルルー。ドゥルルルルー。



 2台のカブが縦に並んで広い道を走っている。

 ミルコはカブ90、俺はカブにそれぞれ乗っている。

 行き先はもちろんガスパルのいるカターナの手前の並木道だ。



「あー、やっぱりカイトさんが乗ってくれてるとなんか安心します!」


 カブが笑顔でそう話してきた。


「ほーん、そういうもんか?」

「はい……まああんまり言いたくないですけど、ミルコさんはまだ下手クソですし、ガスパルさんはセンスはありそうですけど乗り方荒すぎて壊されそうで嫌です。あ、あのっ、これ二人には内緒ですよ!」

「……お前ってたまに毒舌だよな」


 俺は苦笑いしながら答えた。


「ま、まあ……。でも二人共まだ乗り始めて少ししか経ってません。コレから立派なカブ主になってくれれば良いんですよ!」


「だな!」


「ターニャもカブ主なる!芋売りにいくー!」


「おう、お前も頑張れよターニャ」

「ターニャちゃんは今自転車に乗れてますから、大きくなったらすぐ乗れますよ!」

「うふふー。楽しみー!」



 ――などと話しながら、俺達は並木道へと辿り着いた。


 しばらく進むと見覚えのある人影が見えてきた。


「おっ、ガスパルだ!おーい」


 俺はカブで近づきながら手を振った。

 するとガスパルは俺達に気付き、ニカッと笑った。



「待ってたぜェ!!この瞬間をよォ!!」



 ガスパルは向こうからダッシュしてこちらち近づいてくる。いや怖いぞ。


 ザザザザッ。


「おおっ!なんだよカイト。カブが2台になってるじゃねーか!――んん?コイツ誰だ?」


 ガスパルはカブ90に乗ったミルコを鋭い眼光で睨むように数秒眺めてから聞いてきた。相変わらず口が悪い。


「バイク増台するって前言ってただろ?あと、そいつはウチの会社のミルコな。お前にとってはほぼ同期の仕事仲間になる。上手くやってくれよ!」


 ミルコを見ると、ちょっと顔が険しくなっていた。ガスパルを相当警戒しているようだ。しかしようやく口を開いた。


「ミルコです……。よ、よろしく……」

「おい、お前ミルコって名前か?なんかショボそうだな?んん!?」


 早速挑発するような物言いをかましながらカブ90に乗るミルコに近づくガスパル。

 大丈夫か!?


 ミルコは一旦息を整えるようにして、鋭い視線を向けてガスパルに尋ねた。


「ガスパルさん、……あなたは今はもう物を盗んだりはしていないんですよね?」


 ガスパルは不愉快そうに口を斜めに歪ませる。

「だったらなんだ、お前に関係あんのか!?ああっ?」


「あります!盗みを働くような人間と一緒に仕事なんてしたくないんで!!」

「おいちょっとお前カブ降りろ!!」


 ああ、なんかやばいぞこりゃあ。しかしまだ俺は静観しておくことにした。


 ガスパルはカブ90から降りたミルコに詰め寄った。

「生意気だなお前」

「はい?何すか!?」


 ガスパルは少し首を傾けミルコを睨む。

 ミルコも意外とガスパルに負けず劣らずで、眉間にしわを寄せてガスパルを睨み返している。

 えーっと困ったな……。


 ここでミルコの身なりを見たガスパルはそこに突っ込んだ。


「お前、見た感じ金持ってそうだな?んん?」


「……不自由はしてない」


 貴族の彼女がいるぞそいつには!

 俺は心の中でそう叫んだ。


「はっ、何不自由なく生活してる奴ってムカつくんだわ。つい盗みに入りたくなっちまうぜ!」

 

 ミルコは拳を握りしめて怒りをあらわにした。


「ふ、……ふざけるな。奪われる方はたまったもんじゃない!盗賊なんてこの世からいなくなればいいんだ!!」


 ガッ!!


 ミルコがそう言った瞬間、ガスパルがミルコの襟首を掴んだ。


「上からモノ言ってんじゃねーぞコラァ!!好きで盗ってるとでも思ってんのか!?」

「そんなの関係ない!どんな理由があっても盗みは悪だ!アンタでも盗んでるとこ見つけたら即憲兵に突き出してやる!」

「ぶっ殺すぞてめ……」



 ――ブォオオオオン!!



「や、やめてくださーい!!」


「うわっ!?」

「ぎゃー!?」


 突如カブが二人に向かって突進した!!

 乗っていた俺もターニャも何が起きたか分からず混乱し、俺はブレーキが遅れる!


 ドガッ!!


「ぎゃあああああああ!」


 カブはそのままガスパルにぶち当たりガスパルは地面を転げ回った。


 カブは泣きながら訴えた。


「ぼ、暴力はダメですー!!」


「いや人身事故だぞお前!!」


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