141 爆買い爆食!
――パッ!
それは一瞬だった。
「はい、転移完了しましたよー!」
……無駄に明るいカブの声が聞こえると共に、俺は玄関のドアを開けた。
そして外を覗くと――。
「うおおっ!真っ暗だ!」
「はい、ちょっと時間がズレちゃいましたけど転移は完璧なハズです!」
電波を受信したらしいスマホを見ると、早朝4時を示していた。そりゃまだ暗いわけだ。
スズッキーニは朝だっただけに時差ボケが心配だな。
「わー、夜だーー!?すごいすごいー!!」
ターニャは興奮して飛び跳ねている。
取り敢えずカブを褒めてやろう。
「しっかし、同じ異世界転移だけど世界樹でドゥカテーに転移する時より大分スマートだなカブ。意識も飛ばないし……正直ありがてえわ」
「いやー、カイトさん。これが僕の実力というか。いつも通りのパフォーマンスというかー。ねっ!ははは」
案の定調子に乗るカブ。俺は話を聞き流しすぐに外に出た。
アマ○ンなどの通販サイトで注文しておいた品々が宅配ボックスに入っているハズだ!
ガチャ……。
「うおおっ!やっぱり、めちゃくちゃ入ってるじゃねーか」
ボックスにはチェーンやオイル、バッテリーなどのバイク用品が大量に入っていた。
もちろん今日納車するバイクの分も買ってある。
「おじ、夜なのになんか明るい!!」
ターニャは電柱の街灯や住宅街の外灯の光に驚いていた。まあ、スズッキーニの家の場所は山ん中だったから無理もない。
「そうだろ?ここはカブのヘッドライトみたいな装置が色んなところに取り付けられてるんだ」
それを聞いたカブがまたヘッドライトをパッシングさせた。
「そう、コレですよターニャちゃん!」
「おおー。ぶんめい……」
ターニャは街灯の灯りを見上げながら、少し恍惚とした表情で呟いている。
よく文明なんて言葉知ってたな。
「よし、ひとまず宅配ボックスの中身を全部家の中に移すぞ!」
「ういー!」
――俺達はものの数分で荷物を全て運び込んだ。
「さーて、後はレンタカー屋が開くまで何もする事ねーな」
――ドゥルルルルー!
「あっ!今カブの音したー!!」
「ああ、あれは新聞の朝刊配達の音だ……ん!?」
ここで俺はふと思った。
スズッキーニには新聞ってないのかな?
紙もペンもタイプライターもあるんだ、新聞があっても不思議じゃねーよな?
帰ったらセシルに聞いてみよう。
「ね、おじ。探検しよう!このせかい」
ターニャがもの凄く興奮している。
興奮しすぎてぴょんぴょん飛び跳ねているぐらいだ。ちょっと落ち着け。
「よし、じゃあその辺のコンビニにでも行ってみっか」
「こんびにー?おじ、行こう!」
「そうだな、……まあ今やる事もないしな。カブ、ちょっと行ってくるわ」
「はい。でも大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「深夜に子供連れて町を歩いてて警察に職質とかされません?」
うおっ!なんかカブにしてはまともな事を言われてしまったぞ……。
確かにそれは怖い。ターニャについて聞かれたら説明出来ねえ……。
「そ、そうだな。今は辞めとくか。ターニャよ。もうすぐ夜が開けるから、それからコンビニとか色んな所行こうな」
「うー……うん」
ターニャは少し渋っていたがやがて納得してくれた。
そしていよいよレンタカーを借りに行ける時刻がきた!
「カイトさん。僕に乗って行きます?」
今回は俺も冷静に考えた。
「……いや、お前になんかあったら二度と向こうに行けないし。ターニャのヘルメットもないし。家に入っててくれ」
「りょ、了解です……。くぅー残念!久しぶりにアスファルトの上を走りたかったですよー。行ってらっしゃい!」
「すまんな」
「カブ、またねー!」
レンタカー屋でデカめのバンを借りて、助手席にターニャを乗せた。
もちろんチャイルドシートを忘れずに借りている。最近特にうるさいからな。
助手席のターニャはもう挙動不審なほどにキョロキョロと周りを見回している。落ち着け!
「おじ!ここはなんかすごい!でも……」
「ん?」
「なんかみんなくらい、かおが……」
「うむ、あれがこれから会社に向かう人間の顔だぞ。俺もそう言えば一月前は表情が死んでた……。唯一会社からカブで帰る瞬間だけ生き生きとしてた気がするわ」
「……ふーん」
ターニャにしては無表情でそう答え、それからはしばらく大人しく座っていた。
さて、俺達がレンタカーを走らせどこに向かうかというと、初めはバイク屋ではなくここ――。
ホームセンターである!
「よっしゃー、米をいっぱい買うぞー!あと玄米も健康にいいからついでに。あ、あとカレールーも買っちゃうぜー!」
「うぇーい!」
俺は店頭に置いてあるデカいカートを引っ張り出してターニャと小走りで買い物を始める!
日持ちして必要そうな食材は片っ端からカートに突っ込む。
ふはははははは!コレが正しいお金の使い方だぁ!
食材を買い込んだらお次はDIYに使えそうな木材やセメント、あと野営した時とかに使えるキャンプ用品も買っておく!
もちろんガスボンベも大量購入だ!
「うおおおお!」
ドサッ……!
セメント袋や米袋がクソ重てえが何とかハイエースに全てぶち込む事ができた。
ターニャはそれ以外のカップ麺やらを載せてくれている。いいぞいいぞー!
……よし、食料と日用品類はコレでオッケー!
俺達は再びハイエースに乗り込んだ。
後はバイク……と言いたい所だが――。
ぐぅううう……。
「おじ、おなかへったー」
「そうだなー。……よし、せっかく日本に来たんだ、寿司食ってくか!ちょうど11時ぐらいで平日だし並ぶ事もない」
「すしー?」
ターニャにとっては聞いたこともない料理の名前だろう。
ニヤニヤしながら話す俺につられてターニャも同じくニヤニヤしている。
よっぽど美味い食い物を想像しているようだ。ふふ、寿司は最高だぜ?
「寿司は魚とか貝とかが握り飯の上に乗せてある料理でな……まあ見た方が早い。行くぞ」
「は、はやくいこ!はやくいこ!」
楽しみすぎて慌てふためくターニャ。焦るな焦るな。
俺達はそれから大衆回転寿司屋に行き、腹が一杯になるまで注文して食いまくった。
「あー食った食ったー……うめー」
満腹になった俺の目の前には、ミニしゃりのセットを平らげ一つだけ頼んだ大トロに手を伸ばすターニャがいた。
大トロを口に入れたターニャは目を見開いた。
「く、口の中っ……と、とける!!○×△くわwせdrftgyfgkrpーーーー!!!!」
もはや言葉が追いついていない。
あ、そうだ。セシルにもお土産に持ち帰り買っとこう。
……それから俺達は家に帰り、買ったものを全部玄関の通路に下ろし、寿司を冷蔵庫に入れた。
さあ、お次はバイクとご対面だぜ!!