140 いざ日本へ!
俺はガスパルの事をどう紹介するか悩んだが、ひとまず奴の特性をややマイルドに説明する事にした。
「ソイツ、ちょっとヤンチャな奴でな、言葉遣いとか荒っぽい所もあるけど仕事はちゃんとする……と思われる……奴だ」
バダガリは思わず苦笑していた。
「ぎゃははっ!何だよそれ?なんか問題ありそうな感じだな?」
「ま、まあ……正直俺もちょっと不安なんだよ。アイツに関しては」
俺がそう言うと、バダガリは拳で胸をドン!と叩いた。
「まあ任せとけ。無礼な奴には俺がしっかり教育してやるぜ!俺は女にゃ弱いが男には滅法強いぞー!はっはっはっはー」
隣にいたイヴがバダガリに鋭い視線を送っている。
「最初に会ったときのあなたの情けない姿、……私ずっと忘れないからね」
「イヴ!ア、アレは昔の俺であって……今は大丈夫だってー。こんな風によ!!」
突然バダガリはイヴを後ろから抱きしめた!
「ぅぐぐ、ちょっ……く、苦しいってばー!もうっ……」
そんな二人を微笑ましく見守る俺達。
ターニャもミルコも笑っていた。ホント良かったなイヴ!
――あれ?なんか忘れてるような……あ、そうだ。
「バダガリ、言い忘れる所だった。この荷車あと2〜3台欲しいんだ!あるか?」
カブの後ろの荷車を指さしてバダガリに尋ねると、バダガリはニカッと笑って首を縦に振った。
「あと何台かあったはずだ。それと同じ24000ゲイルでよかったら売るぜ!」
俺は安心して答えた。
「よっしゃー!また今度来る時買うわ。この荷車にはマジで世話んなってるからな。色々と助かってるぜ」
今度はイヴが俺に聞いてきた。
「え?もしかして……、カブの他にも車が手に入ったってこと?カイトさん」
「ふっ、まあそんなところだ。納車はまだだけどな」
「僕の子供みたいなもんです!」
ここでいきなりカブが口を挟んだ。
――ピカッ、ピカッ!
そしてヘッドライトをパッシングさせながら得意になっている。
「子供って言ってもセローは排気量250ccでお前よりデカいぞ?あとカブ90の方がよっぽど歳は上だ」
「は、排気量とか製造日は関係ありませんよ!ここでは僕が先輩ですから!」
「なあカイトさん。その新しい車もカブみたいに喋ったりすんのか?」
とバダガリ。
「いやいやいや、それは無い!!他のバイクまでコイツみたいに喋りだしたら俺の気が狂っちまうわ」
「はっはっはっ!」
ここにいるカブ以外の全員が笑っていた。
「あ、そうだ。カイトさんよ、本格的に冬に入る前に軽油買い込んどきたいから、また今度頼むかも知れねえ」
「おう、いつでもいいぞ。じゃあぼちぼち出発すっか二人共!」
「はい!」
「ういーー!」
……という訳で、バダガリ農園からキルケーまでは最初の方は俺が運転して、大丈夫そうならミルコに交代するという事にした。
――ドゥルルルルゥゥゥゥ……。ガラガラ……。
「うはっ……、流石に重いな!」
「こ、これはニンジャーからの帰り道を思い出しますね……」
カブは貿易輸送の事を思い出したようにそう話す。
まあアレよりはましだな。
「がんばれーカブー!」
ターニャもリアボックスの中から応援している。
本当は降りてカブを押したいみたいだが、後タイヤに荷重をかけないとタイヤが空転する可能性があったのでリアボックスに入ってもらっていた。
「な、なかなかに狭いですね……」
荷車の中は野菜の段ボールがほとんどの場所を占め、ミルコはかろうじて空いた20センチぐらいのスペースにダンボールにもたれるように乗っていた。
――ドゥルルルー。
重たいが何とか走れそうだったので、坂の緩い所でミルコと運転を交代した。
「ミルコさん。が、頑張って下さいね!」
「はい!……重たっ!うわーっ、コレはキツイ……」
ドゥルルゥゥゥゥ……。
恐る恐るカブを発進させるミルコ。カブの表情も緊張感に溢れている。
しかし、若干ふらつきながらも何とかミルコはキルケーまでの道を無事に走り切った!よっしゃー!
「ふぅー……」
「お疲れさんミルコ!」
「お疲れ様です!」
カブも安心したようにミルコを労った。
「いやー、何とか走れて良かったっす!」
それから俺達はフランクの家まで行って野菜を納品し、送料3200ゲイルを貰った。
「はいよ、4割の1280ゲイルな!」
ミルコは笑顔で俺から給料を受け取った。
「あざっす!」
銀行振込に慣れた俺にとってはやはり新鮮なやり取りだ。
一応ウチの会社の利益は1920ゲイル。
6日に1回だとあまり大した稼ぎにはならないが、ミルコ一人に任せられるようになったら俺の手が空く!それがかなり大きいのだ。やる事はいくらでもあるからな。
ここで給料の受け渡しの現場を見たターニャがまた面白い発言をした。
「ターニャしごとする!お金かせぐー!」
このとき、俺はなんと返そうかちょっと迷った。
ターニャはこういう事をたまーに言い出すのだが、いつでも本人は本気なのだ。
だから子どもの戯言と断じて「お前にはまだ早い」などと突き放すのもイマイチな対応に思える。
なので俺はこう答えた。
「あーそうだな……。よし、じゃあお前家で『芋』育ててるだろ?あれをちゃんと育てて売るってのはどうだ?」
その瞬間ターニャは目を輝かせた。
「おー!それおもしろそう。で、でもターニャ自分でも……食べるよ!」
「お、おう。それは自分で決めろ。食って余った分を売ればいい。頑張れよ!」
「わかったーー!」
……という感じで今日の仕事は一段落した。
ミルコともヤマッハで別れ、俺とカブとターニャは自宅へと帰り着いた。
「さて、明日の準備でもするか!カブ、確認だが明日ちゃんと現代に戻れるんだろうな?」
「はい!バッチリです。ただ一箇所に固まっててくれると無駄なエネルギーを使わずに済むので助かりますね!」
「分かった。ちなみに現代の日本の俺の家はそのままなんだよな?」
「はい!だって日本でいきなりこんな大きな家が消えたら大騒ぎですからね。実は今のこの家は精巧なコピーです!」
玄関前でそう語るカブをみて、俺は改めてコイツすげーと感心した。
それからいよいよ明日の朝を迎えた。
「じゃ、行ってくるね。カイト、故郷のお土産よろしく」
「おう、仕事頑張れよセシル!今日は夜迎えに行けねーかも知れん」
「分かった」
という感じで、セシルの見送りを終わらせ自宅へ帰り、俺、ターニャ、カブの三人は自宅の玄関に集まった。
「じゃあ行きます!二人共準備はいいですか?」
「おう!」
「うん!」