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139 ミルコの闇


 その日は家に帰って資料を確認したり、ターニャやバンと庭で遊んだりして過ごした。


 夜になるとギルドにセシルを迎えに行って、帰って寝るといういつもの生活パターンで一日が終わった。



 ――次の日、俺は一階の居間で目を覚ました。

 横にはターニャが、その隣にはセシルが並んで寝ている。


 昨日この部屋でターニャに本を読み聞かせていたらターニャがそのまま寝てしまったので、どうせなら俺とセシルもここで一緒に寝るか……となって今この状態だ。


「……ん、腕が重い……あ、やっぱりコイツか」


 俺は目をパチパチさせながら腕に抱きついていたターニャを引っがした。

 自慢じゃないが俺の腕は太めなので抱きつきやすいんだろう。


「よっと、……今日はミルコとバダガリ農園行って、ついでに荷車が数台欲しいとバダガリに伝えて……」


 トイレで用を足しながら独り言をつぶやく。


 しかし俺の頭は明日のバイク納車の事でいっぱいだった。




 ――ドゥルルルルー。


それから俺達は朝食を済ませ、セシルの自転車指導を終えてセシルを職場近くまでカブで送っている所だった。


「ここからは歩くね」


 というセシルと別れそのままカブで事務所(仮)に行くと、事務所の前で準備体操のような動きをしているミルコがいた!



「おはようミルコ。準備は出来てるみてーだな!」


「あ、カイトさん!おはようございます。今日も僕が運転しますんで!」



 進んで運転を買って出るミルコのやる気を評価しつつ俺はカブを降りた。


 その瞬間カブの表情が少し曇ったのを俺は見逃さなかった。

 やはりまだミルコの運転には不安があるらしい。


「じゃあキルケーまで頼むな。キルケーからバダガリ農園までは俺が運転するわ」


「了解です!」




 ――ドゥルルルルー。


 早速キルケーに到着した俺は取引を済ませ、ミルコから運転を代わり俺達はまた走り出した。


 ここで俺は思い出したようにミルコに『ガスパル』の話をした。



「えー、元山賊の人ですか!?よくそんな人雇いましたねカイトさん、俺だったら絶対雇わないっすよ……」


「いやまあ、普段なら俺もそうなんだけど……あの時はなんでか分からんが『ウチで仕事しねーか?』って声掛けちまったんだ。お前やウチのお客さんとケンカにならなきゃいいけどな……」



「……」


 ミルコから何か言ってくると思ったが何も返答はなかった。ん?


「……」


「ミルコ?……お、おじ、ミルコがおかしい!!」


 その時、ターニャの叫び声に似た声色にビックリした俺は思わずカブを止めて後ろを振り返った。


「ど、どうしたターニャ!?」


 俺はターニャに問い掛けるとともに荷車の上のミルコを見た。

 そこにはいつもの爽やかな顔はなく、人を寄せ付けないような暗い目をしたミルコが座っていた。


 なんかただ事じゃない感じがして俺はカブを降り、どこを見つめているのか分からいない状態のミルコの背中をパン!と叩いた。


「あ!……す、すいませんカイトさん。ちょっと()()()()思い出しまして」


 俺はあえて我に返ったミルコの顔から目を背け、独り言のようにつぶやいた。


「まあ、誰でも嫌なことぐらいある。多分それ、考えてもどうにもならないことだろ?……今は忘れとけ」


 そう言ってちょっと間を置いてからミルコを見ると、その顔に明るさが戻っているように見えた。

 ターニャはそんなミルコをじーっと不思議そうに見つめていた。


「大人、よくわからん!」


「はははっ。お前も大人になったら色々見えてくるさ。見たくないもんまでな!」


「むー……」

 ターニャは唇を尖らせて釈然としない様子だ。



 そこにいきなりカブがしゃしゃり出てきた。どうもさっきから話に入りたくてウズウズしていたようだ。


「いやー、皆さんは歳を取ったら知恵がついたり体力がついたりすると思いますが、僕なんか劣化する一方なんですよ!?パーツは痛むし、バッテリーは劣化するし、フレームは錆びるし……いやー、人間っていいなー!!」


「いや、そもそもお前に感情があるのがおかしいんだぞ?」


 カブを見てミルコは爆笑した。


「あっはははは!確かに。当たり前すぎて忘れちゃいますけどカブ君車ですからね。でも面白い性格だと思いますよ」

「あ、ありがとうございます!」

「カブのかお、おもしろい!ターニャはすき!」

「え?顔?……えへへ、ターニャちゃんありがとう……」


 二人から褒められて照れ笑いするカブ。


 発売当初、ヘッドライトがヤギの目みたいだと一部から不評だったみたいだが今はもう慣れてしまった。何事も慣れだな。


 ……っていうか冷静に考えたらコイツとんでもない奴なんだ。家をこの異世界と繋げてるなんて芸当、俺の知る限りコイツしか出来ねえ。

 今後もしっかりメンテしてやるぞ!




 ――さて、気を取り直してバダガリ農園へと向かう。

 数十分ほど経つと巨大な畑が見えてきた。バダガリ農園である。



 キキッ……。


 俺はいつもの物置小屋前にカブを止め中に入ると、珍しくバダガリが中にいた!相変わらずデケェなあ。


 そして隣にはイヴもいて、バダガリと一緒に野菜を()()()()に詰めていた。



「おっす!」


「おおっ!カイトさん」


 バダガリはやはりでかい声で挨拶してきた。


「こんにちはーカイトさん、ミルコさん。ターニャちゃんも!」


「こんにちは!」


「ういーー!」


 イヴは二人に挨拶を交わした後、笑顔で俺に駆け寄ってきて俺の手を握った。

 コイツ、まーた色っぽくなってんな……。


「今日はたくさん出ますねー!」


 耳元で吐息がかかるぐらいの位置で、イヴはささやくように話してきた。


 う、うん、もちろん野菜の出荷の話だぞ?


「あ、ああ、今日はいつもの倍の量だから大変そうだな……上に高く積み上げるから、荷車の安定感も悪くなるしな」


 ここでバダガリが段ボールを宙にかかげながら俺を見て笑った。


「しっかしカイトさん。この段ボールってのはよく出来てんなー。コレあんたのアイディアなんだろ?キルケーの奴らから聞いたぜ」


「え!?そうだったの?」


 それを聞いたイヴも驚いている。


 二人とも興味深そうに俺を見るのでなんか気恥ずかしくなった。


「いやー、まあな……。ちょっと思いついた事を伝えただけだ。しっかし紙とノリだけで上手く作ってんなー……」


 などとワザとらしく感心してみせた。


 実際にいい出来で、やや無駄な部分もあるもののその分頑丈で、南瓜かぼちゃやらを入れても底が抜けたりはしなかった。素晴らしい!


 荷車に全ての野菜を積み込み終えた時、俺は一つ思い出した。


「あ、そうだ!ウチの会社『スーパーカブ』に一人配送員が増えるかも知れねえ。よろしくしてやってくれ」


「おお社員が増えるのか!カイトさんとこも繁盛してんなー。どんな奴だい?」



うーん、アイツの事なんて紹介しよう……。


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