137 新しいビジネスアイディア
俺はやっと当日にバイクが買える店を見つけて安堵した。
「セローと古いカブ90が2台。合計3台欲しいんだけど、置いてるかい?」
「えーっと……ウチは中古カブの台数が多いので確か90ccもあったはずです……あ、ありますね!」
「お、おっけー。セローはある?」
「セローも最近下取りした状態の良いのがありますよ」
「ちょ、ちょっとそれ。明後日買いに行くから残しといてくれねーか?車体だけ引き取りたいんだ。明後日しか日本……地元に帰れなくてな!」
「……分かりました。ではお名前とお電話番号をお願いします」
……。
という感じで何とかバイクを買える店を確保出来た。ふぅーっ。良かったー。
「カイトさん。どうですか?僕の仲間達は購入出来そうですか?」
「おう、カブ90とセロー両方ともあったわ。でも場所が遠いから当日はレンタカーも借りないとな」
「なんか楽しみっていうか、ワクワクしてきますねぇ!」
カブは本当に興奮しているらしく、表情もイキイキとしている。
ここで俺は今後俺がやろうとしている計画についてカブに話しておこうと思った。
「なあカブ」
「はい?」
「このスズッキーニもこれから寒くなるらしい、つまり冬が来るんだ」
「はい、寒いのイヤですねー……僕の燃費もリッター3~4キロ悪化します!」
カブは悩ましげな表情を浮かべた。
俺はカブを正面から見て、両手を広げた。
「そこで必要なものっていやあ何だ?」
「え?……そりゃあもう除雪機でしょ!雪道は僕らバイクの天敵です!」
そ、そうきたか……。
「いや、そうじゃない。人間の話だ」
カブは上を向いて少し考えてから答えた。
「うーん、やっぱりあったかい服とかストーブとかですかね?」
「そう、ストーブ!それにはやっぱり燃料がいる訳だ」
「ストーブ?」
いつの間にかターニャが家の中からやって来て口を挟んだ。
「おう、お前も寒いの嫌だろ?ターニャ」
するとターニャは自分で体を抱きしめるようにしながら「寒いのきらーい!」と正直な感想を述べる。
俺は語気を強めて説明した。
「つまりこれから軽油の需要は爆発的に増える訳だ!それに俺達が乗らない手はねーよな!?」
「ま、まあ……そうですね」
「けーゆ、必要!」
二人ともコレには文句なく同意してくれた。
「でもカイトさん。僕らのお客さんってバダガリ農園以外大口ってないですよね?個人宅に一つ一つ配達ってなんかしんどくないですか?」
「そこだよ!」
俺はビシッとカブを指差した。
「セシルの話では、このスズッキーニにはロービム村やハイビム村みてーな小規模な村が15村ほど存在するらしい」
「へー。そんなにあったんですね!」
「ああ、でもそんな村の一軒一軒に軽油を届けてたら流石に効率悪いだろ?だから――」
俺は一瞬タメを作った。
カブとターニャは見入ったように俺を見つめている。
「個人じゃなくて村長とか……その『村』に軽油をまとめて大量に納品するんだ!!各家庭は軽油が欲しくなったらその村長から購入すればいい。送料なんかも国に運んでもらうより俺達の方が絶対安い自信がある!!」
カブは口をパックリ開けていた。
ターニャはあまり意味が分からなかったらしく、首を傾げている。
「……た、確かにそれが出来れば凄く効率良いですけど……出来るんですか?」
「それを村ごとに交渉しにいくんだ!……多分嫌な顔はされないと思うんだがな」
カブは目を閉じて考え込んでいる。
ターニャはよく分からず「おじ、なんかよく分からん!」とクレームを付けてきた。
「俺達の仕事が増えるかもって話だ」
「しごとふえる?……お金もふえる?」
俺はニカッと笑い、ターニャの目の前で親指と人差し指でコインのマークを作った。
「そう!コレが増えるぞコレが!!金があったら色んな飯が食えるぜ」
ターニャはニッコリして喜びを露わにした。
「うふふーっ!お金!飯!」
「とりあえず今日はヤマッハの給油所へ行って軽油の大量購入が出来るかどうか?それとそれを入れるデカいタンクがあるかどうかを聞きにいこう!」
「はい!」
――という訳で俺達は給油所までやってきた。
カブの後ろにはいつもの荷車を付けてある。巨大なタンクが積めるかどうかも確かめてやる。
いつもはミルコがいるんだが奴はもう辞めていないので代わりに所長っぽい人物に話しかけた。
「おっす、ちょっと聞きたいんだけど、軽油の大量購入って出来るかい?あと大きいタンクもあれば欲しい」
60代ぐらいに見える所長はゆっくり振り向くとしばし俺とカブを見つめて返事をした。
「……ん?あれ?もしかしてあんた……たまーに軽油を買ってくれるカイトさんかな?」
「そうそう俺がカイトだ」
俺の名前はミルコから聞いたのだろうか?
「あーやっぱりそうか!どっか大口顧客が見つかったのかな?ちょうどいい、新しい素材の軽くて大容量のタンクが出回ってきたんだ。軽油とセットで買っていくかい?」
所長が見せてくれたそのタンクは確かに巨大で、容量も従来のタンクの20倍だそうだ。すげぇな。ちょうど風呂場の縦長の浴槽ぐらいのサイズだ!
そしてそのタンクは俺が現代で扱っていたポリタンクとほぼ同じ材質で出来ていて軽く、その巨大さに関わらず俺が一人で持ち上げる事も出来るぐらいだった!
「デカい!そして軽い!……こりゃいいや。しかもコレ、もしかして俺の荷車にピッタリ収まるんじゃねーか!?」
興奮しながら俺は所長に尋ねてみた。
「ちょっとコレ……あの荷車に積んでみていいか?」
「どうぞどうぞ」
よっ!さ、流石に重い……と思っていたら……。
「ふんっ!」
なんとターニャが下に入って背中で支えてくれた!
「おお、ナイスターニャ!ってか大丈夫か!?」
「うぎぎ……だいじょうぶ……」
「よし、そのままこっちに動いてくれ……」
俺は反対側のターニャをカブの荷車に誘導しつつタンクを載せた。
――ゴロン……!
「うおおおっ!ピッタリじゃねえか!!」
ターニャもちょっと息を切らせつつ笑顔を見せていた。
「カイトさん、ちょっ……と動かしてみていいですか?」
というカブの言葉に所長は「どうぞどうぞ」と手振りをして快く許可してくれた。
――ギャギャギャッ、ドゥルルルン!ドゥルルルル……。
カブはゆっくり動き出しその辺をぐるっと旋回した。
しかしそのタンクは紐で固定したわけでもないのに、その巨大さにも関わらずほとんど荷車の上で安定していた!!
俺は思わず叫んだ。
「うおおおお!こりゃあいいぞー!!」