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136 バイク屋に電話するぞ!


 その日は夜になってセシルを迎えに行き、晩飯を食ってすぐ、俺は眠くなってきた。


 その場所には俺とセシルだけがいた。

 ターニャは既に眠っている。いいぞー、寝る子は育つ!


 セシルは昼間あんな事があって精神的に疲弊しているかと思ったが、意外と平気そうだった。


「……で、本当にあの人を仕事仲間にするつもり?カイト」


「セシル、お前には悪いと思ってる。今度謝らせるから」


「うん、でもカイトって不思議だね。あんな野蛮そうな人をどうやって説得できたの?」


 俺も自分の行動ながら、よく懐柔かいじゅうできたもんだと改めて思った。


「いやー、あの時カレーがなかったらどうにもならんかった気がするなー。食いもんの力って凄えと思ったぜ」

「ねえ、そのカレーってそんなに美味しいの?今度一緒に作ろうよ」

「おう、そうだな……ふあーっ……」


 俺はもう大分眠たくなっていて、思わずあくびが出た。


 ――ガタッ。


 セシルは椅子から立ち上がり、向かいの俺の所まで歩いてきた。


「今日は()ないの?」


 そう言いつつセシルは座っている俺に後ろから両腕を軽く回してきた。

 俺は横を向くと、そこには間近にセシルの顔があった。


 無意識のうちに俺は唇を合わせていた。本能本能。


「んっ、……んんっ」

「……」


 俺は徐々に興奮してきたが、今日はなんか異様に疲れるな……。


「す、すまん今日はもう寝るわ」


 セシルはほんの少し残念そうな表情を見せたが、すぐに笑顔になった。


「そう……疲れてるみたいねカイト。おやすみ」


「おう、おや……すみ……」



 いやー、それにしても体が疲れてんなー。なんかあったっけ……?などと考えていたら思いっきりあったわ。


「そうだよ、ガスパル(アイツ)とガチバトルしてたんだ!そりゃ疲れるわ……寝よ」



 俺は倒れ込むように自分のベットに横になり。ものの数秒で意識は消え去った。





 ――次の日、俺はターニャに叩き起こされた。


「おじ、おはよー!ご飯できた。食べてー」


 ターニャの顔はもうニッコニコで、芋畑に対する期待値の高さがうかがえた。


「おお、……朝飯作ってくれたのか!えらいぞー」


 俺はターニャの頭を撫でくりまわすと、ターニャは「ふふふー」と言って満足げな様子だった。


 居間にはすでにセシルもいて、すでに席に着いていた。


 そういやまた送り迎えしないといけねーんだな……よし。


「おはようセシル。ちょっと言っときたい事があるんだ」


「何?」


 セシルは微笑みつつ俺の言葉を待っている。


「飯食ったら毎朝自転車の特訓しよう!」


「……」


 セシルの表情が一気に曇った。


「えー……」


「えー、じゃない。このままだとお前練習しなさそうだからな。強制参加だ。強制!」


 ここでターニャもセシルを励ました。


「セシル、ターニャもおしえる!だから頑張ろー!」


「ほら、4歳児にこう言われてるぜ?」


 するとセシルはブイッと横を向いて、

「いいもん……別に……」

 とつぶやいた。俺はなんか笑った。



 それから1時間程経ったこの家の庭からは、自転車のブレーキ音とセシルの悲鳴がこだましていた。


「いゃーーっ!」


 ――キキーッ……。


「手元や足元を見るな!前のターニャだけを見るんだセシル!」

「セシル!ターニャについてきて!こっちこっちー」


 俺とターニャは何とかセシルに自転車に乗って貰うべく指導するがなかなか上達しなかった。


 セシルは自転車に乗りながら既に必死の形相だ。


 俺は思った。

 もしかしてセシルって運動神経鈍いのかも……。



 ……結局その朝、セシルはフラつきながらもかろうじて真っ直ぐ進む事だけは出来るようになった。

 ちょっとずつでも進歩しているのはいい事だ。



 そんなセシルを秘密基地のようなウチの会社の事務所まで送り、俺はまた自宅へ帰ってきた。


 早速ターニャが待ってましたとばかりに出迎えてくる。

 その両手に芋を持って……。



「やる気あるなお前。よし、じゃあ初めに芋の芽を出させるぞ!」


「うぇーーい!」


 俺達は芋の両端を切り取り、皿に水を張ってそこに切り取った芋を浸すという単純な作業をした。

 作業は5分で終わり、ターニャは拍子抜けしたような顔だった。


「お、おじ……、これだけ?」


「ああ、2〜30日で芽が伸びてくるハズだ。それから伸びた苗を切って畑に植える」


「おお……。ターニャきながに待つ」


「うん。芋の事はお前に任せたぞ芋大臣!」


「……うん」


 なんか最初の時とえらいテンション違うな。まあ現実はこんなもんだ。気長に育てろ。


 ターニャはその後もしばらく家の中に置かれた芋の切れ端をジッと見つめていたが、やがてこちらに歩いてきてこう言った。


「なんかあきたー。芽がでるのまだー??」


 おい。


「じっくり時間をかけて育てるから収穫した時嬉しいんじゃねーか」


「ふーん……」


 ターニャは唇を尖らせて答えた。

 まあ子供にはこの楽しさはちょっと理解しにくいかもな。




 ……さて、俺の方は今日は久しぶりに現代人とコンタクトだ!

 家でネットで見ていたバイク屋に電話するぞ。


 俺は庭に出てカブに話しかけた。


「なあカブ。家には日本の電波もきてるんだろ?バイク屋に電話できるよな?」

「はい!任せてください大丈夫ですよ!」


 相変わらず魔法みてーな能力だな。



 トゥルルルルル――。


「はい、バイクショップ『ドゥーム』です」


「あ、ネットで見たんだけどな、そっちのバイク……90ccのカブ2台とセローを購入したいんだ。まだ買われてねーよな?」


「あ、ありがとうございます。ご来店はいつ頃でしょうか?」


「明後日だな。それまでに整備できるか?」


「……お客様、契約書と代金の支払いはお済みですか?」


「いや、してない。実は忙しくてそっちに帰れるのが明後日一日だけなんだ。だからナンバーやら自賠責保険は後から自分で付けるから車体だけ売って欲しいんだ。家は近いから押して帰るし」


「あー、……ウチではそれは無理ですね。あくまで契約してナンバープレートを取得していただいて自賠責保険に入った状態でのお引き渡しになりますので……」


 俺はちょっと焦ってきた……あれ?ヤバくね?


「む、無理なのか!?観賞用で家に飾っとく場合だってあるだろ?なんなら整備もいらねーから……!」


「すいません、ウチではそういう売り方は出来ません」


 えええええ!?


 や、ヤバいぞ!……俺は余裕で買えると思ってたのに!!



 その後、俺は焦りなら色んなバイク屋に電話しまくった!そしてついに――。




 トゥルルルルル――。


「はい、『マッドサタン』です」


「バイクの車体だけ即日で欲しいんだ!頼む、売ってくれ!!」



「あ、はい大丈夫ですよ!」

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