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134 カブに乗るのが楽しすぎる!?


「な、なるほどー、へー。僕に乗りたいとー……。いやー、ふへへ」


 カブは半笑いの気持ち悪い顔をタブレットに貼り付けている。

 どういう感情なんだよ?ちょっと聞いてやろう。


「なんだ?やっぱり初心者を乗せるのは嫌なのか?カブ」


「いや……、だってホントに気を使うんですよカイトさん!いつコケられるか分かったもんじゃないですし!!」


 カブと話していると、ガスパルが横から聞いてきた。


「なあ、……カイト。車って自分で動いたり喋ったり、()があったりするもんなのか?」


 最もな疑問だ。俺は即答した。


「いや、ない!このカブが特殊なだけだ」


 そんなカブを見るとわなぜか誇らしげな顔をしていた。


「いやー、それにしてもカイトさん。僕って結構人気あるんじゃないですか?ミルコさんやターニャちゃんも僕に乗りたがってましたしー」


「ん、まあ確かに人気はあると思う。物珍しさもあるだろうがな」


 一応現代でもカブは結構人気があった。


 オッサンしか乗らない完全なる仕事用バイクだったのに、いつの間にかカラフルでシャレた見た目になって、若者や女も普通に町中で乗り回していた。



「ほー……」


 ガスパルはそんなカブを舐め回すように色んな角度からじっくりと見物していた。


「お前、カブって名前?」


「は、はい!僕がHONDAのスーパーカブです!よ、よろしく――」


 するとガスパルはいきなりシートに跨り運転の姿勢をとった。

 さすが盗賊、全く遠慮がない。


 そのまま乗り逃げしたりしねーだろうな?と一瞬思ったが、カブは自分でエンジン切れるからまあ大丈夫か。



「ん?コレ……どうやって動かすんだ?」


 ガスパルの質問に俺は即答した。


「本来はそこの鍵穴に鍵を差し込んで回してスタータースイッチを押してエンジンをかけるんだが、最近はカブが勝手にやってくれる。カブ、頼む」


 俺がエンジンスタートを促すと、カブはやはり苦々しい表情を見せた。


「ちょっとだけ乗らせてやれよ。ガスパルはお前に乗るのすげー楽しみにしてたぞ?」


「わ、分かりました……じゃあちょっとだけ乗ってもらいます……」




 ――ギャギャギャッ、ドゥルルルル!


 カブが渋々エンジンをかけると、いつもの音が響き渡った。


 その瞬間、ガスパルの目がキラリと光ったように見えた。ん?


「……うおおぉー……な、なんだ……何だコレ……すげー!?クハハッ……」


 ガスパルは口から白い歯を見せ、ひどく興奮しているようだ。

 ただエンジンかけただけだが……。



 ――ドゥルルルルルーーン!!



 N(ニュートラル)のままアクセルを回してしまったらしい。動き出しはしないが一気に回転数が上がりアイドリング音が辺りに響いた。



 カブは恐る恐る発進方法を伝えた。


「ガ、ガスパルさん。あなたの左足にシフトペダルがあるでしょう?」


「……ん、これか?」


 ガスパルは左足でシフトペダルを軽く押さえ、存在を確認した。


「それを前に倒すんです。するとギアが一速に入って前に進むように――」


 ――カシャ……。ドゥルルルー!


 カブの説明を最後まで聞く事なく、ガスパルはカブを発進させた!飲み込み早っ……。


「おっ……おおっ!!」


 その瞬間、ガスパルは少年のように目をキラキラさせた。

 そんなガスパルの顔を見て俺は思った。



 ――『コイツはカブにハマる奴の顔だ』――



 ガスパルは若干ふらつきながらもカブを真っ直ぐに前進させ、なんとそのまま低速でゆっくり旋回させやがった!!


「な、なにっ!?マジかお前……」


「おー!すごい、ガスパルすごーい!!」

 ターニャも感心したように手を叩いている。


「おお……おおおおっ!!」


 ガスパルは運転しながら感動しているようだ。


 それからしばらく、ガスパルはちょっとつんのめりながらもしばらく庭をグルグルと旋回出来ていた。

 しかも何も言われずともギアを2速に入れている……。


 俺は、……本当にビックリした。


 低速での運転は高速でのそれよりかなり難しいのに、初めてカブ(というか二輪車)に乗ったやつがそれを普通にやってのけたというのがもう信じられない!


 カブも俺と同じ感想を抱いたらしく、ガスパルに質問した。


「ガ、ガスパルさん……本当に僕に乗るの初めてなんですか??やたら上手いんですけど……」


 カブの質問に運転しながら答えるガスパル。


「カターナでしばらくカブ(おまえ)が走ってんのを見て、運転がどういうもんか頭ん中で想像してたんだ。盗んでからそのまま走って逃げようと思ってたからな、あん時は」


「じゃ、じゃあやっぱり見てただけでコレなんですか!?」


「ああ、バランスの取り方とかは大体想像通りだ。……そういやあの時乗ってた奴はカイトじゃなかったな」


 うん、あの時はミルコが運転してたな。



 ――ドゥルルルルー。


「うおおお!このままどっか走りに行きてえー!!」


 テンションが上がって来たらしく、笑顔でそう叫ぶガスパル。俺はちょっと考えてカブに質問した。


「おーい、カブ。ガスパルは乗らせてても疲れないか?」


 カブは即答する。


「はい!なんか……、初心者にしてはめちゃくちゃ安心出来ます。少なくとも大きくコケたりする気配は全くないです!」



 ……うーん、なんか惜しいなアイツ。ちょっと聞いてみるか。

 俺は一旦カブを止めた。



「なあ、ガスパル。カブを気に入ったみたいで何よりだ」



「おう、最高だ!なあカイト、一つ頼みがある!」


 おっと、奴の方から逆に聞かれてしまった。一体なんだ?

 ここでガスパルはとんでもない事を言い出した。



「カイト、このカブ俺にくれ!!」



「ダメです!!」

「断る!!」


 俺とカブは同時に答えた。


「ふざけんなよお前ー!!」


 俺は取り敢えず当たり前に文句を言う。

 ガスパルはやや気まずそうな顔を見せた。


「じょ、冗談のつもりだったが……」


 あ、そうなんか。


「いや、お前が言うと冗談に聞こえねーんだよ!」


「はっはっはー!確かにっ!!あははははは!!」


 笑い事じゃねーよ!と俺は頭の中で毒付くが、それより質問を優先しよう。



「なあガスパル。お前さ、カブに乗る仕事だったら続くんじゃねーか?」


 するとガスパルはちょっと唖然とした表情で答えた。


「大歓迎だが。そ、そんな仕事あんのか?」


「今の俺の仕事だ」


 それを聞くとガスパルは目を見開いた。



「カイト、頼む!俺にその仕事やらせてくれ!!」



 この時、俺の頭の中では色々な事が渦巻いていた。


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