表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

133/518

133 ガスパル


「う、うまい!……」


 男は一口カレーを食うなり、そこから猛烈な勢いでカレーを口にかき込んだ!!



 ――ガッガッガッガッガッガッ!!



 俺達が引くほどのスピードで、ものの数十秒でカレーを平らげてしまった!どんだけ美味かったんだよ……。


「……」


 すると男は無言で皿を差し出した。お!おかわりか?


「……」


 男は気恥ずかしさからか、やや顔を斜めに向けていた。


「よっしゃ、おかわりで良いんだな?待っとけ!」


 俺はご飯とカレーをよそい再び男に差し出した。



 ――ガッガッガッガッガッガッ!!



 またしても凄い勢いでカレーを平らげる男。何とも気持ち良い食いっぷりだ。


 そして男はやや戸惑いつつ、またも皿を差し出してきた。

 よう食うなー。


 俺はその時、なんとなくこの男から邪悪な気配が薄らいでいるのを感じた。



「縛られたままじゃ食いづらいだろ?」



 俺は再びカレーをついで持って来ると、一旦ターニャにそれを預け、……男の縄を解いた!


「な!?カ、カイト殿!?大丈夫ですか……!?」


 バンが警戒と共に叫ぶ。


 俺は静かにバンに向かって手を上げ、「いいんだ」という意思を示す。


 そしてターニャにさっきのカレーを男に渡すように言った。



「……ふぁいっ!」


 ターニャは少し堅い顔で男にカレー皿を差し出した。


 ここでもしターニャを人質に取るような行為に出れば、さすがに俺も容赦は出来ない。

 剣を振るわざるをえない。


 しかし男の関心はもはや目の前のカレーにしかないようだ。

 受け取ったカレーをやはり凄い勢いで貪り食っている。



 またすぐさま完食し、一旦男は「フーッ……」と大きく息を吐き、俺の方を向いて話し始めた。



「……何故だ?敵の俺に何故こんな事をする?」



 俺は返答に困ったが、今の気持ちを出来るだけ伝えられるよう言葉を選んで話した。


「……いや、俺は基本的に誰かをいたぶる様な趣味はねえし。たまたまめっちゃ美味いカレーが出来たから何となく食わせた……それだけだ」


「……」


「まあ本当は、飯で釣ってお前の口から色々話して貰いたかったんだ。お前が何者なのか?それと、こんな事をした理由……とかな」


 すると男は俯きながらポツリポツリと話始めた。



「……俺はな、常にスリルと興奮を求めてんだ。だから欲しいものは基本奪う」


「おい盗賊じゃねーかそれ!いや、盗賊だったな……」


「元からそうだった訳じゃねえ。昔はこのスズッキーニ国の諜報員として働いていたからな」


 諜報員!?いわゆるスパイか!


 俺は驚きと同時に納得もした。道理で気配を殺すのが上手い訳だ。

 バンも「なるほど……」とつぶやいている。



「あん時ゃ俺も輝いてたぜ?毎日敵国に忍び込んではるかられるかの極限状態でな。心臓もバクバクしてよぉ、……ククッ……最高に楽しかったぜ……!」


 やべえな、こいつガチなやつだ……。


「けど、この国が平和になると共に仕事は減っていった。なんでも今は武力より経済力、技術力の時代だとか言われてな……。そしてついにクビになっちまった」


 俺は黙って話を聞き続ける。


「こんな俺だ、他の仕事なんかすぐ飽きて絶対続かねえ。気付いたら山賊みてーな奴らとつるんでた。クソみてーな奴らに囲まれて毎日毎日イライラしっぱなしだったぜ」


「……」


 俺はこちらから聞いてみた。


「なるほどな……。で、お前はカターナで俺達を見つけた時、どうしてカブが欲しくなったんだ?」


 その問いに男はギロリとした目を俺に向ける。


「……おい!」


「ん!?」


「……わ、笑うなよ?バカにすんなよ??」


 何だか知らんが恥ずかしい理由なのか?


「うん、笑わんと思うぞ……。多分な」

「ターニャも笑わないー!」


 横からターニャにもそう言われ、少し照れくさそうに男はこう言った。



「あのカブってやつに乗ってみたかった。なんか()()()()だったから……。それだけだ……」



 俺は緊張から一転して拍子抜けして思わず口角が上がった。

 ターニャもちょっと微笑んでいる。


 さっき笑わないと言っていたが、俺達の笑顔はそういう「嘲笑」ではない。



「おじ!この()()をカブに乗せよう!」


 ターニャがいきなり言い放った。

「いや、『おじ』じゃあどっちか分かんねーぞ?」


 男の年齢は俺と同じかちょっと下ぐらいで多分30~40歳ぐらいに見える。まあターニャにしたらどっちもオッサンだよなー。


「お前、名前は?」


「ガスパルだ。アンタは?」


「カイト。こいつはターニャな」

「ういーー!!」


 ターニャは俺に指を差されると、万歳してガスパルに駆け寄って顔を見上げた。


「ガスパル、あとでカブに乗れる!ね、おじ?」

「おう、アイツが戻って来るまでちょっと待ってろよ。ガスパル」


 ここでガスパルはしばらく呆然としていた。鳩が豆鉄砲食らった――という表現が最も似合うかも知れない。そんな顔で立ちすくんでいた。


 それからちょっと苦笑いしながらガスパルは言った。


「信じらんねえ……お前らみたいなお人好しな人間、本当にいるもんなんだな。今まで俺はクソみたいな奴らしか見てこなかったが……」



 この言葉でガスパルがどんな人間かちょっとだけ分かったような気がした。それで俺は自分なりの哲学を述べてみた。


「ガスパル、俺はよ、人生で大事なもんは『環境』と『自己理解』だと思ってる」


「ん?」


 ガスパルは首を傾げた。


「お前はまず環境が最悪だ。仕事でもなんでも良いからもっと周りから感謝されるような場所にいたほうが良い。それと、お前は根っこの部分で悪党には向いてない」


 ガスパルはちょっと照れたように苦笑いし、

「本当かよ……買いかぶりだろう……」

 と頭を掻きながらつぶやいた。


 そんなガスパルを見ていると、俺は何とも清々しい気分になってきた。




 ――ドゥルルルルン!!ガタンガタン!


 と、そこへやかましい走行音を響かせてカブが帰ってきた。


「ただいま帰りましたよ~カイトさん!」


 そして俺とすぐ側で喋っているガスパルを見て奴は絶叫した!


「ええええええ!盗賊の男が逃げ出してる!?カイトさん??ええー何この状況!?」



 まったくやかましい奴め……。俺はカブに今までの経緯を説明し始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ