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130 不吉の足音


「え?カイトさんこの鉄の棒がどうかしました?」


 ミルコは不思議そうに聞いてくる。


「なんかコレ、良くね?」


 俺はミルコに同意を求めたがミルコは一笑に付した。


「ええっ?いやいや、一番()()っすわー。カイトさん、おかしいっす!あははっ」


 コイツ、分かってねーな。

 俺はやれやれという感じでなぜこの鉄パイプが良いと思ったか説明した。


「このシンプルさが良いんだよ!それに剣だと持ち歩くのに鞘が必須だし、使ってるうちに刃も欠けていくし手入れに気を使うだろ?」


 ちょっと下を向いてミルコは一瞬(うな)ったが、やがて俺を向いて言った。


「いやー、まあ分からなくも無いですけど……それならその辺の硬い木の棒とかで良くないっすか?」


「よくねえよー!そこは武骨な『鉄』だから良いんだろうが!」


「……じゃあカイトさんは剣の代わりにこの鉄棒を買うんすね?」


「いや、剣も買う。カッコいいから」


 ちょっと呆れたように笑ってミルコは、

「ははっ。まあ、お好きにどうぞ……」

 と返すのだった。


「お前はどうすんだ?」

「俺はこの三日月型の剣にしますよ!」

「へー、良いんじゃね?見た目もいいし。これで一人で配達中盗賊に襲われても大丈夫だな!」

「え!?……はは、ま、まあ……頑張りますよ……」


 ミルコはテンパりながらそう話していた。



 ――「ロングソードが2万ゲイル、……それと鉄管が6000ゲイル。2本で26000ゲイルね」


 会計時、俺は店主のおっちゃんにそう告げられた。


「やっぱり結構な値段だな……ま、こんなモンだろう」


 俺は会計を済ませ、2つの買い物を受け取る。

 両方とも1〜2キロぐらいはありそうだった。


 続けてミルコも会計を済ます。

 ミルコの剣は2万2000ゲイルだった。


「仕事でも使うかもしれんから1万ゲイルは払ってやるぞ」

「え……い、いいんすか!?」


 俺がそう言うとミルコは申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「ふっ。それぐらいお前を信用してるって事だ。受け取っとけ」

「あ、ありがとうございまーす!!」



 ――という感じで俺とミルコはそれぞれ購入した獲物を腰に下げ、店から出てきた。


「おー……。おじ、ミルコ。カッコいい!!」


「そ、そうか?ふはははは!」

「嬉しいねー。ターニャちゃん」


 ターニャに絶賛されて俺もミルコもテンションが上がった。

 しかし今日はまだまだやる事が残っている。浮かれてる場合じゃねえな。


「よし、じゃあ帰るぞ!帰りは俺が運転するな」


「いや、カイトさんには剣の代金半分も出してもらったんです。ここは俺がまた乗りますよ!」


「……そうか、じゃあ頼む。カブ出発だ!」



 いつもならこう言うと、カブはすぐにエンジンをかけてくれるのだが、何故か今回は反応が遅かった。


「……」


「おい、カブ?」


「……あ!はい、どうも!!」


 やっと気付いたようだ。そして何やら気になる事を言い出した。


「カイトさん。なんか僕、車体に違和感を感じるんですが……」


 俺は一瞬冷や汗をかいた。


「え、……もしかして、またパンクか!?」


「パンクではないと思いますけど。……でも何か変な感じがするんですよ」


「……見たところ特に変わりないけどな。ま、パンクじゃないならいいんじゃねーか?」

「んー、そうですね。気のせいかも……ミルコさんがずっと乗ってたから調子が狂っただけかも知れません!」


「ええ!?俺のせい!?」


「冗談です。はは、でもミルコさん普通に僕に乗れるようになってますね!シフトチェンジがたまに怖いですけど」


「あははは!これからもっと上手くなるよ」


 ミルコはカブに褒められて誇らしげだった。




 ――ドゥルルルルッ、ガタガタッ。


 カターナからの帰り道、俺達は再びあの並木道に差し掛かった。


 俺は荷車の上から辺りを見回し山賊の襲撃に備える。


「さんぞくが出ない……つまんない!」

 ターニャがなんかほざいている。お前、祭りかなんかと勘違いしてねーか?


 何かあった時の為に買った剣と鉄パイプではあるが、出来れば使いたくはないぞ。


「……」

「……」



 …………。



 そして数十分後……俺達は並木道を抜け、ヤマッハへ通じるあの広い道を走っているのだった。


「あー緊張した……。でも結局出てこなかったな。山賊!」

「やっぱりこのスズッキーニは平和ですね。良かったー」

「へいわ!へいわが一番!」


「さっき山賊出てこなくてつまらんって言ってたのは誰だー!?」


 俺はターニャの頭を掴んでわしゃわしゃした。


「あひゃつひゃひゃひゃっ!」


 俺はターニャの頭から手を離した。


「ぅにゅーーっ……」


 するとターニャはあぐらをかいていた俺の足に倒れ込んで、猫のように丸くなった。

 頭を撫でてやると、「うふっ、ふふっ」と本当に猫のように喜んでいた。


 平和だなぁー。



 ――そうしている間にヤマッハに着き、俺達はいつもの食材屋に到着した。


 芋が大量に欲しいと店員のおばちゃんに伝えると、おばちゃんは呆れたように笑っていた。


「おおっ、アンタまた芋買いに来たんか?好きやなー!」


「ん、まあな。俺は別にそこまで好きじゃねーけど。周りに芋好きがいっぱい居てな」


「芋だいすきー!」


「おお。変わったお嬢ちゃんやなぁ。あ、そうそう。新しい種類の芋が入ってんねん。焼くとねっとりして甘いで!」

「お、そうか、じゃあそれ20本と今までの芋20本、合計40本貰うわ」

「まいどーおおきに。また来てなー」

「ういーー!」


 カブに戻るとミルコが笑っていた。


「カイトさん、完全に()()()として覚えられてるじゃないっすか!」

「まあな、こんだけ大量に2回も買えば覚えられてもおかしくねーぜ」

「おじ。これ、家の畑でそだてよー?」


 そういやそんな話もしてたな……。


「ああ、面白そうだな、やってみよう。でも俺の仕事が忙しい時はお前が世話するんだぞ。お前を()()()に任命する!」


「芋だいじん!ターニャ芋だいじんやる!」

「うむ、頑張れ」



 ――そこからはミルコと別れ、俺とターニャの二人で自宅へと戻った。


 そして偶然にもあの()が光っていたので、家にも上がらずそのままドゥカテーへと特攻した!

 あの光を逃すと次は1時間近く待たされるからだ。


 俺とターニャは芋を9割近くゴブリンとケイに渡し、残りは俺達の畑に埋める用に持って帰った。


「おじさん、ターニャ。ありがと!」

「おう、魔法修行頑張れよケイ」


「ありがとう、カイト。また暇があれば覗きに来てくれ」

「うん。お前達ゴブリンも農耕頑張ってくれな」


 ケイやユルゲンら人間達とゴブリン達の関係は良好そうだ。


 俺達は満足してドゥカテーを後にし、また自宅の木の前で目覚めたその時――!!



「きゃーー!!」


 聞こえたのはセシルの悲鳴と聞いたこともない男の声だった……。


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