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117 仕事を教えるぜ!


 それからしばらくターニャは拗ねていた。


「もー、おじが支えてたのに、こけたー!」


「バカタレ。そんな体も倒さず急ハンドル切ったらコケるわ!あたりめーだろ」


「ゔゔーっ……」


 不満げな顔を見せるターニャだったが、続けてしっかり自転車に跨った。

 やっぱコイツ、なかなか根性あるぞ!


 俺はチャリに跨るターニャの両肩をガシッと掴みアドバイスした。


「いいか、曲がりたい時はハンドルを切る必要はない。体を内側にちょっと倒して車体を傾けるんだ!……こうな」


 今言った通りの動作をターニャに体で分かってもらうべく、俺はターニャを左に少し倒した。


「……おじ、これ、倒れない?」


「大丈夫、今は止まってるから倒れそうなだけだ。走りながらだと遠心力が働いてちょうど上手く走れる。綺麗に曲がれたら気持ちいいぞー!」


 ターニャはそれを聞いて明るい声を出した。


「わかったー!やってみる」


「頑張って下さいターニャさん!セシルさんも是非乗れるようになりましょう!」


 カブが遠巻きに二人を応援している。

 まあアイツにとって二人がチャリに乗れるか乗れないかは超重要だからな。そりゃあ必死にもなるだろう。


「ねえカイト、これはどう?」


 声の方を見ると、ちょっと誇らし気なセシルがサドルに乗ったまま脚を伸ばし、ちょこちょこと足で地面を蹴って前進している。

 いつものクールなセシルとのギャップでなんか可愛く見える。

 だが……残念ながら違うぞ。


「ん、まあバランスを取る練習にはなるかも知れんが、ペダルを漕がなきゃ進まないぞ?」


 俺は苦笑いしながらセシルにコメントし、セシルもはにかみながら「やっぱり?」と答えた。




 ――そうやって小一時間程練習した後、俺はミルコを迎えに行く事にした。


 待ち合わせ場所は昨日案内した事務所だ。ついでにバダガリ農園も案内していく。



 ターニャとセシルにはしばらく自転車の練習しててもらおうかな。


「おーい、ちょっとバダガリ農園の定期便配達に行ってくるな!二人共適当に練習しててくれ。セシルはターニャをよろしく頼む。ターニャもセシルに家の中の事とか教えてやってくれ、飯も好きに食っていいからなー」


「えっ!……ターニャもぃ……」


 ターニャは付いて行きたそうに一瞬「いく!」と言いかけたが、どうも自転車に乗るのに夢中になっているようだった。


「……うん!おじ、行ってらっしゃい」


「行ってらっしゃいカイト。自転車乗れるよう頑張るからね」


「おう」



 ――ガサッ!


 その時、またアイツが現れた丁度いいタイミングだ!


「おうセシル、紹介するぜ。コイツがこの家の周りを守ってくれてる番犬のバンだ」


 バンはセシルのちょっと前に出て()()のポーズをした。


 以前、ケイの奴を怖がらせた経験から初対面のセシルに恐怖を与えないよう気を使っているようだ。

 やっぱり賢いやつだぜ!


「どうも初めまして。私は人語を話す犬で、バンと呼ばれております。よろしくお願いいたします、セシル殿」


 セシルは口に手を当てて目を見開いていた。


「しゃ、喋ってる……!?犬が喋るなんて……」


 そこでカブが口を挟んだ。

「僕もバイクですけど喋れます!人間やればできるんですよ!」


「いや、お前もバンも人間じゃねーだろ?」


 セシルはバンに近寄り、恐る恐る手を差し出すとバンは自らの頭をセシルの手にこすりつけるような動きをした。


「あ、ああ……!!」


 なんかセシルが感動している様に見える。あいつ動物とか好きなんか?


「まあとにかく行ってくるな!」


 セシルは手を振り、ターニャは自転車に夢中だった。まあ、バンもいるし大丈夫だろ。




 ――ってわけで、俺とカブは久しぶりに2人(?)だけになった。大体いつもターニャがセットになっていたからちょっと物寂しい気もするな。


「なんかこの世界に来て最初にここの山道を下った時のこと思い出しませんか?カイトさん」


 カブが遠い目をして話かけてきた。


「ああ、あのときはお前に対する憤りが強かったぞ!こんなわけ分からん世界に連れてきやがって――ってな」


「い、いやー……はは……」


「でも意外なことに今は感謝してるぜ。正直言ってかなり充実してるんだ。これからもよろしく頼むぞカブ!」


「はい!ありがとうございます!」



 ――ドゥルルルルン、ガタガタッ。


 しばらく走るとやがて、さっきもセシルと立ち寄った事務所が見えてきた。


 俺は道の脇にカブを停めて中に入っていく。



「あ、カイトさん。おはよーございます!」


 ミルコは事務所の前に立っていた。軽く体操みたいな動きをしていた。


「おはようミルコ。気合い入ってんなー」


「いやー、昨日からワクワクしてて夜明け前からこの辺うろついてました!ははっ」


 なんというやる気だ……。頼もしいぜ。


「じゃあ早速行くぞ。まずヤマッハだ」

「はい!」



 俺はミルコを荷車に乗せてヤマッハまでカブを走らせた。そしてキルケーの関係者の家を訪問した。


「じゃ、これキルケーまでお願いね」

「まいど!しっかりお届けするぜ」


 ここの関係者というのはキルケーの代表者であるフランクのお母さんらしい。

 彼女がヤマッハでほとんどの買い物を済ませてくれるので後は俺達が運ぶだけだ。



「ミルコ、ここで荷物を受け取るんだ」


「へー、塩、砂糖、胡椒に紙とペンですかー!なるほど……カイトさん、今ってヤマッハ→キルケー→バダガリ農園→キルケー→ヤマッハの順で走ってるんですよね?」


「……ああ」


「一つ思ったんですが、ヤマッハにも野菜の市場があるでしょ?そこで野菜も買ってまとめて持って行ったらどうです?一々バダガリ農園まで行かずにすむんじゃないっすか?」


「ああ、それなんだが……野菜と小麦粉だけはバダガリ農園から直接買った方が大幅に割安になるんだよ。俺達みたいな配送役(卸売業者)が介入してないからな」


「あー、そっか。農家から直で買うのが最安値って事ですね!」


「ああ、量も多いし定期的に必ず必要だし。キルケーのフランクによれば年間契約までしてるらしい」


「へー、……あ、カイトさん。僕らもいつか口座作りません?」


 その時、俺は「口座」……という言葉に、この世界にも銀行があったことを思い出した。


「そうだなー、そのためにゃ王都ハヤブサールに行く必要がありそうだな!」


「はい!是非一緒に行きましょう」


 他にもカターナに行って剣も買いたいし、行く所もやる事も無限に出てくるな。ふふ。


 俺は密かに今の状況を楽しんでいるのだった。


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