115 セシルと同棲だ!
それからミルコのカブ乗り訓練を終えて、俺達は再び自宅へと帰るのだった。
その山道での事。
――ドゥルルルー……ガタガダッ。
心なしがカブに元気がないように感じる。
「おいカブ、どうした?疲れたか?」
カブは人が倒れているようなイラストを貼り付けてこう言った。
「ちょ、ちょっと今日は神経をすり減らし過ぎました……。へろへろです……」
「そうか、お疲れさんだな。しかし1日何百キロと走っても平気なお前がここまで疲労するとはなー」
カブはやはりゲッソリした表情で答えた。
「ま、まあ、……ミルコさんは自転車も含めて二輪車に初めて乗った人ですしね……。今後に期待……してます」
そう言い残してタブレットを真っ黒にしてカブはスリープモードに入ってしまった。
「ゆっくり休め。明日はセシルを家に連れていくし、ミルコを連れてバダガリ農園を案内するしで色々やる事が多いぜ〜!」
大変だと言いつつも俺は内心、結構今の状況を楽しんでいた。
それから家に帰った俺は、一つとある事を決めた。
それは毎日お金の出納帳をつけるというものだった。
やっぱり金の管理は大事だぜ!今んところ全財産はというと。
――342350ゲイル!
昨日まで42350ゲイルだった事を考えると、あの貿易輸送がいかにデカかったか分かるな。
ここで俺はちょっと思った。
毎月貿易輸送で30万ゲイルゲット出来るなら、それだけやってりゃいいんじゃないか?と……。
しかしそんな考えはすぐに捨てた。
戦争やらで国同士の貿易がずっと続くって保証はないし、それにいくら貯金があっても何もしてないと虚しくなる。
俺は日本でそれを学んだ。
俺は常にやりがいを見つけて楽しく生きる!うおおおお、やってやるぞー!!
――ドゥルルルルン!ガタガタッ。
翌朝、俺はターニャと朝食を済ませてセシルを迎えにヤマッハまで走った。
「いやー、昨日は情けない姿をお見せしました!もう完全回復しました、お待たせでーす!」
昨日の疲労困憊状態からカブが復活して俺に元気に挨拶してきた。
「カブ、おはよう!元気になったー?」
「はい!ターニャさん。今日も張り切って走りますよー!はっはっは」
ホント人間みたいな精霊だな。
早朝のヤマッハはそこまで人が多くない。食材露店を通り抜け、さっさと町外れのセシルの自宅へ向かう。
――キキッ……。
俺はさっさとカブを降り、ドアを叩いた。
「おーっす、セシル。迎えに来たぞー」
「セシル、きたよー!」
ガチャ……。
「おはよう……」
ちょっと寝ぼけた感じのセシルが目をこすりながら出てきた。まだ薄着の寝巻きのままでやたらセクシーな格好だ。
「おう、休日は昼まで寝る方かい?」
「んー……そうだね。ごめん、だらしなくて」
「気にすんな、いつも忙しく働いてんだろ?」
セシルはちょっとはにかんで笑った。
「セシルーおはよー」
ターニャはセシルの脚に抱きつきに行った。
「ふふ、おはようターニャ」
セシルは足元のターニャの頭を撫でてくれた。ターニャは嬉しそうにしていて微笑ましい光景だ。
「おう、お前飯もまだだろ?なんか作ってやるよ」
「え、……ほ、本当に!?いいのカイト?」
「おう、俺よりお前の方が仕事大変だろ?俺はまだ余裕があるし、それぐらいは出来る。ターニャ、一緒に作るぞ!」
「ういーー!!」
「ありがとう二人共、私は着替えてくるから入って入って」
――という訳で俺達は、過去一度入ったことのある広い台所へと入って行った。
コンロの代わりに窯だったり水道が通ってなかったりで苦戦したもののなんとか飯を用意できた。
バケットを窯で焼き、昨日の作り置きらしきスープも一緒に温め、そして良さそうな肉が残っていたので薄く切ってこれも窯で焼いた。まあこんなもんか。
俺は改めて自宅の電気、ガス、水道に感謝した。セシルも今日家に上げたら驚くだろうな。
「うん、おいしい。ありがとうカイト、ターニャ」
「ターニャもたべるー!」
「お前はもう食っただろ」
「はい、ターニャは芋好きなんだよね」
「うん!」
セシルは茹でた小さめのじゃがいもをターニャに一つあげて、ターニャは喜んで受け取り即食っていた。早えな。
それから30分程して、俺達はセシルの家を出た。
「あ、そうそう。仕事で使う書類とかも持ってこいよセシル」
「え?私、もうカイトの家に住んでいいの??」
「ん?俺はそのつもりだったけどな。だからカブの後ろに荷車を付けてきたんだ」
セシルはカブを見て、確かに荷車が付けられている事に驚き、ちょっと何か考えつつやがて返事をした。
「分かった。カイト今日からそちらにお世話になります」
「おう!」
俺は笑った。夜はお楽しみだぜ!ぐふふ……。
そうだ、ターニャにもちゃんと宣言しとこう。
「ターニャ」
「なにー?」
「今日からセシルも家で一緒に暮らすからな。仲良くやっていこうな」
はじめはポカーンとしていたターニャだったが、やがてセシルを向いてこう言った。
「セシル、よろしくー!」
「うん、よろしくターニャ」
ってわけで早速GOだ!
――ドゥルルルルン!ガタガタッ。
荷車にセシルとセシルの仕事道具一式を乗せて、俺達は自宅に向けて走って行く。
その途中で例の事務所の前を通りかかった。
「あ、そうそう。前言ってた事務所を建ててもらった件だけど。この道からちょっと離れた所にあるんだ……。ちょっと見に行くぞ」
俺はカブを停めて、セシルを手招きした。
セシルは半信半疑といった表情で俺に付いくる。やはりまだ信じられないようだ。まあ実物を見せるのが早いな。
「こいつだ」
最初、セシルは事務所の間近に来るまでその存在に気付かなかったようだ。
俺が事務所のアーチ状の入口から中へ入ったことで、初めてそれが小山でなく建物だという事に気付き、目を見開いていた。
「こ、これは……本当に……た、建物……なんだ!?」
俺に続き中に入ったセシルは周りを見回し、本格的なその事務所のつくりに驚愕しっぱなしな様子だ。
「え、ちゃんと窓まである……す、凄い……。カイト、一体誰に作ってもらったの??」
「ケイって奴。多分本当の事を話しても信じてもらえんかも知れんな。おとぎ話みてーなもんだから」
セシルは真剣な顔つきで俺を見つめた。
「カイト、信じるよ。だって実際に目の前にあるんだから……」
「お、なかなか物分りがいいな。じゃあ一から全部話すわ」
俺は先の異世界やケイの魔法の事まで全てセシルに話してみた。