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113 お前、カブ乗れる?


「や、やべえ……。今までと桁違いだ!」


 正直、「こんなに高くていいのか!?」というレベルの高額報酬に、喜びよりも先に戸惑いの感情が湧いていた。


「ま、まあ一応数えるわ」


 俺は1万ゲイル札が30枚ちゃんとあるか数えると、しっかり30枚あった!よぉーっし!!


「いやー、素晴らしいな!これを元手に色んなことが出来るぞ!はははっ」


「おめでとうカイト。国から毎月仕事を振ってもらえるなんてものすごくまれな事だよ。これで生活も安定するんじゃない?」


「生活が安定とか、そういうレベルじゃねーわ。本格的に会社の規模を拡大できるかも知れんぞ」


「具体的に何を?」


「とりあえずは営業できそうな奴を雇って納品先を増やすかな……あ、そうだ!セシル、お前に言っておきたかったんだが、実はとある奴に会社の事務所を建ててもらったんだ」


 俺のその言葉にセシルは目を丸くして俺に聞いてきた。


「え……、事務所を建ててもらったって、カイト。そ、そんな資金あったの!?まさか借金??」


「いや、芋2~30本をあげる代わりに建ててくれたんだ」


 それに半笑いでセシルは、

「あ、もしかして冗談?そんな業者どこにいるのよ」

 と聞いてきた。まあそう思われてもしょうがねえな――。と、そこへターニャが横から口を挟んだ。


「ほんとだよー。ケイに作ってもらったー、まほうで!!」


 ターニャ、ますます冗談と思われるぞ?


「ま、まあこれはちょっと大人には説明しにくい。でも本当にターニャの言う通りなんだ。実物を見てもらった方が早い。お前、次いつ休める?」


「明日」


「よっしゃ、決まりだ。セシル、明日迎えに行くからうちに来いよ。ついでに一緒に事務所も見に行こう。さすがに実物見たら信じてくれるだろ。どうだ?」


 セシルは彼女にしては子供っぽい笑みを浮かべて、「行く……」とだけ答えた。オッケー!


「じゃあまた明日朝、お前の自宅まで迎えにいくわな」

「分かった、カイト……」


 俺はセシルに近づき、軽いキスをしてすぐ離れた。

 以前こんな状況をイングリッドに見つかったので、前みたいに熱すぎる抱擁はしないでおいた。ターニャもいるしな。


「じゃあまたな」


 セシルはちょっと残念そうな表情を見せていたが、やがて手を振って俺を見送ってくれた。


 俺は終始ニヤニヤしながら裏口から出て行く。

 なんかまたイングリッドに笑われそうな気がしたからだ。



 そして俺達はまたカブに乗り次に向かった場所、――それは給油所だった。


「そういやミルコに会うの久しぶりだな」


「あ、そういえばそうですねー!でもカイトさん、今回の報酬でミルコさんを雇えるんじゃないですか?」


 カブはウキウキした様子でミルコのことに言及した。そういやカブの奴、ミルコにメンテしてもらって気持ちよさそうにしてたからな。

 ここで俺はふと思った。



 ――ミルコってカブ乗れるのか!?――



 よく考えたら自転車もないこの世界だ。いきなりミルコをカブに乗せて、バランスを取れずに転倒――なんてことになったらヤバいぞ……。



「あっ、おじ。ミルコいるよー!」


 給油所の奥にいたミルコは俺達に気付いて軽く走ってきた。


「カイトさーん。ども、お久しぶりっすね!」


 爽やかな笑顔でそう話すミルコはやはり、ザ・好青年、という感じだ。

 俺は早速聞いてみる事にした。


「おっすミルコ。いきなりだけどお前、3日に1回ウチの配送の仕事する気はねえか?」


 ミルコはちょっと目を見開いて驚いていた。


「え、……も、もしかしてカイトさんの『スーパーカブ』で働けるって事っすか!?」


「まあな。でも今んとこ確実な仕事がその定期便の配送しかねーんだわ。それでも良いならだけど……」


 一瞬信じられないといった表情で固まったミルコは、すぐさま嬉しさを爆発させた。


「い、いいんスか!?俺、明日にでもスーパーカブで働きたいっす!」


 素晴らしい反応だな。


「ミルコさんが来てくれたら僕も嬉しいです!」

「俺も君に関われるのは嬉しいよ、カブ」

「でも明日とか無理だろ?ここの仕事も急に辞める事になるし――」


 その俺の言葉にすぐさまミルコは回れ右をして背を向け、「ちょっと待ってて下さい」とだけ言って事務所の方へと走っていった。



 ――数分後、ミルコは戻って来るなり第一声がこれだった。


「あ、今辞めてきました!」

「早っ!?」

「カイトさん、今日から俺、そちらで世話になります!よろしくお願いします!!」


 俺はあまりの展開の早さに戸惑った。


「い、いいのかよ?そっちの所長とかは困るんじゃねーのか?」

「いやー、実はこの仕事ずっと同じことの繰り返しで飽きちゃって、大分前から辞めますって話はしてたんです。新人も入れましたし、いつ辞めても良いって話でしたから!ははっ」


 溌剌はつらつとしたその言動に若者らしさが溢れている。やっぱり良いなーコイツ……。


 俺はしばらくあっけに取られていたが、やがてさっき考えていた事を思い出した。


「そうだ!なあミルコ、ウチで働く上で絶対習得して欲しい技術がある。カブの運転だ!」


「あ、なるほど!確かにそっすね。それにしても車輪が二つしかない車ってどうやって乗るんです?横向きに倒れません?」


 あ、やっぱり不安が的中したみたいだ。よし。


「じゃあこれからミルコがカブに乗れるよう特訓だ!」

「あはっ!ターニャも手伝うー!」

「残念ながらターニャに手伝える事はないぞ?」

「えー。……つまんない!」

「ターニャちゃんはミルコさんを応援しておいて下さいね!」

「おうえん……ミルコ、がんばる!がんばれ!」

「ありがとうカブ君、ターニャちゃんも」


 ミルコはカブやターニャに応援されて、少しはにかみながら俺に聞いてきた。


「じゃあカイトさん。ちょっとカブ君に乗らせてもらっていいすか?」

「おう、……あ!カブよ」

「はい」


「コケそうになったら支えてやってくれ」

「分かりましたー!」



 ――俺達はヤマッハからケイの建ててくれた事務所の前辺りまで走り、その近くの広めの道で練習をした。



 ドゥルルルルッ……!


「わっ!わっ!え!?うわーっ!!」


 キキーッ……。


「ミルコ、上半身だけでバランスを取るんじゃなくて体全体でバランスを取るんだよ。あとある程度スピード出してた方が安定するぞ」


「わ、分かりました!」


 俺は自転車に乗れなかった頃の感覚を思い出しながらミルコにアドバイスを送った。


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