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109 会社の事務所をどこに建てるか?


 カブに乗ったまま俺達は世界樹の穴に入っていった。


 ヒュオッ……。


 この穴を通る時は毎回、一瞬で意識がなくなるような独特の感覚がある。



 ――そして気づけば俺達はいつもの大木の根元に倒れていた。もちろんすぐ近くには自宅があった。


「ん……おい皆、大丈夫か?」


「カイトさん、僕も今電源が入ったみたいです」


 カブが真っ先に答えた。同時にタブレットに顔が浮かび上がってきている。よし、カブは()()()な。


「んー……あれ?私寝てた?」

「……ぉん?おじ!」


 寝ていた子供2人も起き上がった。ようし、全員起きたな。ここでまず最初に確認しておきたい事がある。



「ケイよ、ちょっと魔法使ってみてくれ」


 そう、ケイが魔法を()()()使えるかどうかは是非知っておきたい。


 するとなぜかケイが焦りだした。ん?なんか手を前に出して魔法を打つポーズをしているようだが……。


「は?……え?ばっ、そ、そんなバカなっ!?」


 ちょっと意味が分からん。ケイをよく見ると、口をぽっかり開けて目を見開いている。軽く絶望しているようにも見えるが……。


「どうしたケイ?やっぱり魔法は使えねーか?でも大丈夫だこの木の実を――」


 俺が例の木の実を取り出そうとすると、ケイが突然叫びだした!



「ひ、ひぃいいいいい!!……ま、まま、魔法が使えないとダメなの、私、こ、怖くておかしくなるっ!!」


 ケイは寒さから身を守るかのように、自分の身体を抱くようにして震え始めた。


「あれ?最初に言ってなかったか?こっちの世界じゃ魔法が使えないかも知れないって」


「そ、そうだけどっ。私っ……。今まで魔法で自分の身を守ってきた……。だ、だ、だから。魔法が一切使えない今のこの状態が、めちゃくちゃ怖い……!!ひいいっ!!」


 あっちの世界で魔法バンバン打ってた時は調子に乗りまくってたのに、なんちゅう極端な奴だ。


「い、い、今モンスターに襲われたらひとたまりもない!!皆も、は、早く逃げなきゃ……」


 あ、そういえば言い忘れてたな。


「安心しろケイ。こっちの世界にモンスターは――」



 ――ザンッ!!



「お久しゅうございますカイト殿!」


 言ってる側から一番モンスターに近い奴が現れた。

 狼に似た風貌のウチの番犬、「バン」である。


「ぎゃああああ、マッドウルフだあぁあぁあ!!た、たすけてー!!……あ、あ……」



 ドサッ……。



 ケイはその場で腰を抜かし、気を失ってへなへなと倒れ込んでしまった!おいおい……。


 バンは何がなんだか分からず困惑している。


「カ、カイト殿。この子供はどうされたのでしょうか?」




 俺は倒れたケイを背中におぶって、バンにケイの正体とあの木が異世界へつながっている事を話した。


「ほ、ほぉ~……いやはや信じがたいような話ですな。あの木は何かあると直感しておりましたがまさか異世界への入口とは……」


「僕らもびっくりですよバンさん!」

 とカブ。


「よく考えたらお前らの存在もかなり特殊だぞ。もはや何が起きてもおかしくねえわ。ははっ」


 俺はちょっと笑いながら答え、カブとバンも顔を見合わせて笑っていた。



 家に帰って俺は今日の予定を考えた。

 まず家を立てる場所だが、ここから近い所は出来るだけ避けておきたい。この自宅の事はなるべく他人には秘密にしておきたい。

 色々と面倒そうだし。


 そして会社の事務所だからヤマッハにはすぐに出れるような場所がいい。


「やっぱりあの辺か……」


「アテはありそうですか、カイトさん?」


 カブが聞いてくる。


「ああ、場所は大体決まった。問題はコイツだ」


 俺は家の縁側でまだ気を失って寝ているケイをチラリと見る。


「ん、……んー……ハッ!?」

「あ、ケイ起きたー!」


 看病するかのようにケイの頭を撫でていたターニャは、嬉しそうに微笑んだ。

 俺はすかさずケイを安心させようと試みた。


「おっす起きたか。ケイ、初めに言っとくがこの世界に危険なモンスターはいない。それと、この木の実を食べれば魔法が使えるぞ。安心したか?」


 ケイはキョトンとして、

「そ、そうなの!?モンスターいないんだ……。で、それ食べれば魔法も使えるのね!良かった……」


「おう!とりあえず芋を大量に買ってお前にやるよ。それから家の建設現場まで行って土魔法で家の建材の石を作ってもらいたい。いけるか?」


 俺がケイに例の光る木の実を渡すと、ケイはしばらく考えるような素振りをした後、一気に以前の生意気な顔に戻り手を腰に当ててふんぞり返った。


「……ふーっ、一時は死ぬかと思ったけどモンスターがいないなら平気だね。おじさん、さっさと芋買いに行こうよ!」


「ケイがふっかつしたー!ういーー!!」


「あ、ちょっと、ターニャ。もうー」


 喜び余ってケイに飛びつくターニャだった。なんか微笑ましいな。



 という訳で俺達は早速ヤマッハまで行くことにした。



 ――ドゥルルルルン、ガタガタッ。



 ターニャとケイをカブの荷車に乗せて、俺はカブを走らせていた。


 ここでケイがカブに質問した。


「ねえカブ?」

「はい、何ですかケイさん?」

「あなた向こうの世界にいた時よりだいぶ静かになってない?音とか」

「これが本来の僕です!あっちの世界の僕が異常なんです!」

「……ふーん。私、こっちの方が好きかな」

「オヒョッ……そ、そうですかー。いやー嬉しいですねーぐふふ」


 カブは満更でもないような表情を浮かべている。素直な奴め。


「ちなみによ、ケイの住んでた国は何て所だ?」

「え、ドゥカテーって国だけど?」


 ドゥカテー?……なんか異国っぽいな。



 などと話している間にヤマッハの食材露店に到着し、俺はケイにあげた芋と同じものを山のように買ってあげた。


「ウッヒョー!最高。おじさん、ありがとう!」

「あはっ……芋がいっぱい!」


 ケイはターニャと一緒に喜びをあらわにしていた。


「お前のいたドゥカテーの村の皆んなにも配ってやれや。すげー喜ばれるぜ?」

「うん!そうするね」


 一応デカい段ボール箱積んできて良かったぜ。

 さて、お次は――。


「家を建てる土地に行くんですね?カイトさん」


 カブが聞いてきたが、その前に……。


「いや、ちょっと待ってくれ。魚介類売りの露店の裏に大量に()()が捨てられてた。それを貰いに行く。……多分貰えるだろう」


 カブは「?」といった顔をしている。

 ターニャもケイも同じような反応だった。軽く説明するか。


「セメントを作るんだよ」


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