都市アイゼトリア
今(2/29)アンケート中なんですけど一票もこの作品に入ってなくてなんだか少し寂しい
都市アイゼトリア。
ニーティアス領でもっとも大きく、発展した都市である。丘の上に建つ教会を中心として、丸く広がった都市は、交通も下水も整備されていて、王国の中でも屈指の清潔な都市になっている。
それは、過去にメイアたちが設計したものとまったく同じといっていいほど酷似していた。
ニーティアス領主の腕により、この街の治安は安定しており、警備隊が動くことはそこまで多くない。そんな警備隊だが、決して弱いわけではなく、日々きつい訓練をこなしている。
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「前にみていた景色よりも遥かに綺麗ですけど…とくに変わっているところはありませんね」
「はい。私もアイゼトリアと領主様の館とその周辺しか見ていないのですが、変わっていたところはありませんでしたよ」
キヤさんとそんな話をしながら、馬車に揺られる。
「それで、お嬢様はアイゼトリアでなにをしたいとかありますか?」
「いえ、とくには…ただ、周りをみたいだけなので」
この身体になっても、ふだんもっていた感覚までは変わらないようで、物欲が全然ない。だから、買い物系はなくていいかな。というか、そもそもあの館に俺の着替えってあるのか?まぁ、そんなことはどうでもいいか。…でも。
「…でも、あの大聖堂には行ってみたいですね」
「かしこまりました。大聖堂ですと…このままの道ですね」
領主の館から伸びる通りは、町の中心に向かっている。
「そういえばお嬢様、あの大聖堂ってなんで建てたんですか?」
「え、と…なんででしたっけ?メンバーの誰かの提案だったと思うのですが…すみません、覚えてないです」
「大丈夫です。それにしても、大きいですね。街もそうですけど、全部がおおきい…」
メイアたちは、とりあえず大聖堂に向かう道を進むことにし、その旨を騎士に伝えた。
「でっっ…コホンっ。大きいですね」
馬車に揺られて数十分くらい。ようやくアイゼトリアの中心、大聖堂に到着した。
やっぱり男のころの癖ででかいって言いそうになるんだよな。別にでかいって言っても何も言われないんだろうけど、でかいっていうとキヤさんみたいに地球から来た人に不信感もたれそうなんだよね。
「それじゃ、殿下とキヤさん、ゆっくりお楽しみください。おらは厩舎でこいつらとじゃれてます。いつごろ館に戻りたいですか?」
「お嬢様、どうなさいますか?できれば遅い時間ではなく、日が沈む前から出たほうが安全ですよ」
「それもそうですね…では…?」
あれ、この世界って、時間の概念あったけ?そもそも時計なんて…ん?いや、あったか。ちょうど大聖堂の塔のところにあったはず。でも、読み方が違った気が?
「では、お昼の鐘の次の鐘の時間に大聖堂で待ち合わせ、ということでどうでしょう」
「かしこまりました!1500ですね!ではごゆっくり!」
「あ、はぃ…」
メイアは顔を赤くしてうつむき、騎士は馬にのって丘を下っていった。
「お嬢様、どうします?」
「え、えとぉ…ひとまず、入りましょう。ここでは視線が多いですし」
恥ずかしすぎる…この世界でもちゃんと時計してた…1500、って言ってたから時計の読み方はそういうことなんだろうけど…うぅ…絶対幼稚って思われた、絶対思われた…。
巨人でもはいるのかといいたくなるほど大きな扉をくぐると、別世界にいったかのようだった。色とりどりの大きなステンドグラスに光が反射し、石で出来た構造に色を与えていた。
「綺麗ですね…」
奥へ進んでいくと、大きな広間にでた。そこでは数々の人々が祈りをささげたり、牧師が子供の相談に乗っていたりと、様々な日常が感じ取れた。中でも目を引かれたのは、傷ついた人を治すシスターだ。
「シスターがいるってことは、この世界でも魔法が使える、ということですか?キヤさん」
「はい、私が使う魔法、主に身体強化系の魔法なのですが、使えました。…ただ、NWOのときのように、身体が軽いということはなくて、恐らくステータスが下がっています」
なんてこった。俺の貧弱な筋力や素早さといったステータスも下がっているのか。もともと俺の編成は魔法以外使うことは基本ないのだが、それでも他のステータスが高い方がいいものなのだ。しかし、そうなると魔力も…
「お嬢様、ひとまず座りましょう。ここで立っていても通行人の邪魔になるだけですよ」
「あ、そうでしたね、空いている席は…あそこでどうでしょうか」
メイアが指差したのは壁に近い端の席だった。移動して席に腰を下ろす。もちろんキヤは隣に座る。
「お嬢様、先ほどから何か考えられているようですがどうかなさいました?」
「ステータスが下がっていると先ほどキヤさんが言っていたので、どうしたらいいものか考えてました」
「そういえば、お嬢様は魔法使い…【賢者】でしたね」
そう、賢者。賢者なのだ。全ての魔法に精通し、等しく扱える人物に与えられる役職。賢者は魔法が命なのだ。しかし、そんな魔法を使えるほどの器、魔力量がないとどうなるか、考えなくとも分かることだろう。
参ったな…俺のビルドは魔法の威力に全振りだぞ、MPになんか片手で数えられるくらいしか振ったことがない…。ふだんなら外付けのMPタンクがあるはずなんだが、この世界にきてからというもの、マナプールの存在が認識できない。このままでは魔法を一発打つだけで使えなくなる役立たずになってしまう…。それだけは何とか避けなくては…
「動く女神が、ただの木偶の坊に…はは…」
メイアは己の状況にただ乾いた笑いをこぼすことしか出来なかった。
「お嬢様、気をしっかり持ってください。第一、この世界は死んでしまったらそれまでかもしれないという可能性があるんですよ…!争いの機会なんて無くていいんです。ですから、その乾いた笑いをやめてください」
「それもそうですね。はぁ、館に着いたら、魔法の訓練でもして、地道に元に戻します」
キヤがメイアを慰めていると、コツ、コツと足音が近づいてきた。
「だれですか…」
「迷える子羊よ…おや、メイア様でしたか、お久しぶりですね」
歩いてきたシスターは二っと笑って見せた。