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転生王女の異世界観光日記  作者: 天城ナノ
4/8

感情と感傷と

モチベーションが保てなくなったので頻度すごく落ちます。ご了承ください

 メイアは()が終わるとよろよろと自分の部屋に戻って、ベットにがっくりとうなだれるようにして座る。


 いろいろと男としてのなにかを失った気もするが、まぁ、ぎりぎり無事だった。


 やっててよかった嶺命慈家直伝の講習。


 将来当主の子供が生まれたとき、当主の手を煩わせないために行った娘や息子を想定した子供に対するトイレのお手伝い。そして、当主夫妻が年老いたときに介護の一環として排泄の介助の講習。


 それを応用して自分の身体で実践することで、なんとか事なきを得たわけなのだが、やっていた当初はこんなこと役に立つのかと思っていたことが、まさかこんな形で役に立つ日が来るとは。世界はなぞだらけだ。


 「………うぁ…」


 先ほどのできごとで、ここが現実世界でも、NWO内である可能性が完全に排除された。


 つまり、残った仮説、ここが記憶にある世界とは()()()()()であることが確定した。


 「もう…戻れないのかな。俺達の世界に…もう、みんなに会えないのかな」


 …また、失ってしまうのか。


 …また、孤独になるのか。


 「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…」


 もう一人になりたくない。



 昔の記憶が呼び起こされ、負の感情に支配される。ベットの上で縮こまり、涙を浮かべるその姿は、大きな会議に出席する人物の付き人には見えないほど弱弱しい姿だった。


 「これから、どうしよう…」


 震える声で絞り出すが、それは誰に聞かれること無く、部屋に寂しく散っていった。


 「助けて…慧翔(ケイト)、さん…」


 心からの叫びは虚しく散り、メイアは再び眠るようにして気を失う。






 ▼______________________________


 …夢を見ていた。長い、長い夢を。


 いままでの人生、その全てを巡った。


 時には楽しみ、時には深く絶望し希望を失った。時には思いがけない出会いとなって、今に続く絆となった。


 「……っ、うっ…ぅぅ…」


 続けたかった生活も、深めたかった絆も、全てが、その全てが出来なくなった、また手から滑り落ちた悲しみに涙が溢れる。


 「あぅ…っ…ぅ…」


 涙にぬれる目で窓に視線を向けると、星空が広がっていた。


 どこまでも広く、どこまでも冷たい星空(そら)は、おもわず引き込まれそうになるくらいに美しかった。


 星空に心を奪われていると、部屋のドアがノックされた。


 「お嬢様、入りますね」


 メイドがドアを開けて涙目になりながらメイアを抱きしめた。


 声的にさっきの人かな?…急に駆け寄って抱きしめないで欲しい、怖いしビックリするから。なによりやわらかいのが当たってるからどうすればいいかわからない。


 「…お嬢様!良かった…っ!大丈夫ですか?どこか体調の悪いところは?…どうされたんですか?そんな目に涙を溜めて、怖いこと、嫌なことでもあったんですか?」

 「…っいえ、と、特には…」


 人に弱みを見せることは、恐ろしいこと。それを利用されるかもしれないし、漬け込まれるかもしれない。出来るだけ避けること、信頼する人の前以外では見せないこと…嶺命慈の方からはそう教えられた。

 しかし、今のメイアはすぐに消えそうなくらいに弱っている。


 主人の表情の変化はすぐに気付くのか、メイドさんは優しく微笑む。


 「…お嬢様、人間だれしも辛いことはあります。一人で消化するのもひとつの手だと、私は思います。しかし、抱え込みすぎるのも良くないと思うのです」


 それはそうだ。抱え込みすぎてパンクするなんて絶対に避けるべきことだ。パンクした人間を何人か見たが、哀れで、目をそらしたくなるようなひどさだった。


 メイドさんは目をあわせられるように顔をはなし、話を続ける。


 「だから、心が壊れる前、逃げることの出来るときに逃げましょう?何があったのかは、聞きません。話したくないことでも、泣いて、叫んで、心を落ち着けるのがまず重要だと思うのです」

 「そ、そういうものなのでしょうか?」

 「そうですよ、だって、ほら、震えてますし、表情がひどいですよ」


 そう言いながら、目尻に溜まった涙を拭っていってくれるメイドさん。背中をポンポンとたたき、優しく包みこんでくれる雰囲気に、安心してしまう。


 「大丈夫です。いまここには誰もいないですから。我慢しないで、思い切り泣けますよ」

 「う、ぐすっ…ぅ」


 せき止めていた感情のダムが決壊して、勢いよく流れ出る。


 「うあぁあん。あぁ…ぐすっ。うっ、ああぁ…っ…っう」

 「ほら、大丈夫です。大丈夫、大丈夫…」


 赤子をあやすように優しく背中を撫でられ、心に渦巻いていた感情が止め処なく溢れ続ける。


 「ぐすっ…ぅうぅ…あぅ…寂しい…怖ぃ…もう一人になりたくなぃ……ひぐっ…一人にしないで…」

 「お嬢様、大丈夫、傍にいますから」

 「っぅぅぅ…いやだぁ…また一人に…っなるなんて……やだぁ…………」

 「お嬢様、?、お嬢様…おや、お眠りになられましたか。……よっしょっと…良い夢を、()()()


 枕に頭を乗せて、毛布をしっかり首元までかぶせてから、部屋の外にでる。


 「少し…濡れてしまいましたか…まぁ、()()()のためですし、仕方ありませんね。…さぁ、あの調子ですと明日の朝には復活しそうですし、明日の朝食のことでも考えましょうかね」


 廊下の窓からの月光に照らされた女メイドの笑顔は、慈愛に満ちていた。

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