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EpisodeXSP:照らす復讐/電飾

「相変わらず駅前のイルミは気合入ってるなぁ」

「今年は特にですよね」

「確か商店街のなん周年とかなんとかだったな」

「41ですね」

「いやキリ悪いな。なんでそんなの祝ってんだ」

「うちの街の人はお祭り大好きですからね、これとか」

「なんだこれ」

「41周年まんじゅう」

「正気か?」


 クリスマス・イヴ。普通なら彼女もいない孤独の俺など、すぐにでも帰ってゲームに勤しむところなのだが嬉しいことに対策科では毎年恒例でクリスマスパーティーをすることになっている。おかげで暇しなくて済むわけだが、裏を返せば対策科のメンバーは誰一人としてクリスマス・イヴに予定がないということでもあった。改めて認識すると泣けてくるが、先を行く黒井戸はそんなこと気に求めずにイルミネーションを見上げながら歩いていく。パーティー用に予約していたチキンやらケーキやらを受け取りに来た駅前は、これまた毎年恒例ながら派手な飾り付けが行われ、これでもかと光り輝いていた。並木道なんか、まるで眩い光のトンネルだ。そんな中ダギルが声を掛けてくる。


『···おい見ろリュースケ、あそこの二人組。めっちゃキスしてるぞw』

「見りゃ分かる。よくも恥ずかしげもなくできるよなホント」

『リュースケはしねぇのかよ』

「誰とだよ」

『タイア』

「バカ言え」

「えーしてくれないんですかー?」


 俺とダギルの会話に黒井戸が割って入る。なんだ、なんでそんな「寂し〜」みたいな反応をする。俺はお前のなんだ。


「私センパイのことめっちゃ好きですよ!」

「バカ言え」

「いやいやマジです!メチャスキー3世」

「めっちゃ好きなやつはそんなこと言わねぇよ」

「んもー照れ屋さんなんですから!ならば!この悩殺ポーズを喰らえ!はっ!」

『ブハッ!タイア、今のポーズすげぇアホそうだったぜ!ケッサク!』

「恥ずかしいからやめろ···」


 ダギルの声や姿は一般人には見えないが、黒井戸のアホな発言と悩殺ポーズは一般人にも見えるし聞こえる。俺は頭を抑えながら黒井戸を制止した。


「ケーキが溶ける。早く帰るぞ」

「ちぇー。私達結構一緒にいますけど、センパイ全然なびかないですよね~」

「大人はガキにはなびかんのだよ黒井戸くん」

「ガ···?!···私これでも一応22なんですけど!?」

「22はあんなポーズ取らん」

「ぐっ···」

「キャー!」


 黒井戸と他愛もない会話をしながら歩いていく。すると駅前の方からか、たくさんの悲鳴が聞こえてきた。そう離れて無いとは言え、駅前からここまで聞こえる悲鳴となると余程だ。黒井戸が凛とした眼でこちらを見る。


「行きましょうセンパイ」


 普段からこうだったらいいんだがな。

 駅前に戻ると、悲鳴の出所を探すよりも先に悲鳴の原因であろうものが次々と目に飛び込んできた。電飾で飾り付けられた人型の···これは石像だろうか。しかしただのオブジェクトではない。何かから逃げようとするその体勢、怯えた表情。いくつも点在するそれの異常性は明らかだった。石像の前でへたり込む女性に黒井戸が駆け寄る。


「大丈夫ですか!何があったんですか!」

「か、怪物···!怪物がなーくんを!!」

「怪物?!センパイ!」

「デモンズか!おいダギル!何か感じないのか!」

『ケーキが食べたい』

「テメェ···!」


 辺りを見回す。石像の前で泣き叫ぶ人、逃げ惑う人、駅前は大混乱だ。しかしその混乱の中でも一際目立つ人影を発見する。駅前イルミネーションの目玉でもある特大クリスマスツリーの前で両手を愉快そうに混乱を眺めている、ソレの姿は紛うことなきデモンズ。


『ははははは!すごい!すごいよルミーレア!ぜんぶ僕の願った通りだ!』

「フフフ、ワタクシにかかればこの程度のこと、雑作もありませんワ···。あら」

「おいお前!」


 目の前に立ちはだかった俺をデモンズが一瞥する。深緑のドレスのような身体に複雑に絡み付く電飾は眩く明滅していた。


「どうかされましたカ、ニンゲン様」

「この状況でしらばっくれるな。これはお前がやったんだろ」


 後ろの混乱を指差す。石像に変えられた人々。中にはなぜか虹色に光りだしているものもあった。


「···フフ、えぇそうですワ。ワタクシがやりましてヨ。とっても儚ク、素敵デ、美しいでしょウ?」

「舐めたマネを。悪いが人間に害を成すデモンズを野放しにゃできない。今すぐ石像にした人達を戻すか、それとも俺にボコられてから戻すか、選べ」

『戻すだって?!そんなのはゴメンだね!ルミーレア!』

「フフフ、ワタクシも同感ですワ。では次の会場が私達を待っておりますのデ」

「ッ!待て!クソ!」


 夜空へと飛び上がったデモンズは、纏う電飾を発光させながら飛び去っていった。あの方向は隣町だ。うちの地元駅よりもデカイ駅と派手なイルミネーションがある。勿論人も山程いる。好き勝手やらせるわけには行かない。


「センパイ!私はここの混乱を鎮めるのでセンパイはデモンズを追ってください!」

「あぁ任せたぞ!」


・・・


「すごい数の人だ。見渡す限りの人、人、人···。ウンザリしちゃう」

『でも、これからここノ半分はワタクシ達によって素敵な石像にされますワ』

「最高だね。特に希望の表情が絶望に崩れるのはね」

『フフフ、悪い人ですワ』


 街中を歩く少年。しかしその手には悪魔の産物、アストラロックが握られていた。それを起動する。


【イルミネーション】

「僕だけ不幸なんて不平等だよね。みんなにも分けてあげるよ、僕の不幸を」

「おっと待ちな!変身はさせないぞ」

「えっ」


 アストラロックを構えた少年の手を抑えた。俺は昨日飛び込んできた事案を思い出す。行方不明の男子小学生···。鼻に特徴的な傷があるという彼は、怪物に変化すると父親を光る石像に変貌させ、逃げるように姿を消したらしい。母親が怯えながらも息子を捜すように頼んできていた。


「君は···相澤蒼汰(あいざわそうた)くんだね。そのアストラロック、さっきのデモンズの変身者も···」

「ぼ、僕の名前···!こ、この鍵は···」

「蒼汰くん、その鍵は危ない。俺に渡してくれ」

「···!おじさんも僕から友達を奪うんだ!そんなのダメだよ!ルミーレア!」

『フフフ、承知しましたワ』


 アストラロックから現れた、ルミーレアと呼ばれた悪魔に突き飛ばされ地面に転がる。突如として姿を現した怪物に、周囲の人々がざわめき出す。しかし、それは恐怖よりは好奇心だろう。もう野次馬の人だかりができつつあった。


「なんの撮影だ?」

「あれ着ぐるみ?」


 ヤジヤジ集まってきた人々に蒼汰くんは怯えるような態度を見せる。その耳元に、ルミーレアが口を寄せた。


「皆さん、アナタの不幸を嗤いに来たんですノ。あの男もそう。アナタからワタクシを奪って不幸にしようとしましたワ」

「···そうだ。そうなんだ···!酷いよみんな···みんなも不幸になるべきだ···」

「···!そいつの言葉に耳を貸すな!」

「無駄ですワ!ワタクシはソウタ様にとって唯一にして絶対ノ友人!ワタクシの言葉は疑いようがないですワ!」


 ルミーレアは、蒼汰くんのアストラロックを握る手に自分の手を重ねる。


「さぁ復讐の時ですワ。鍵をお使いになって?」

「···そうだね」

【イルミネーション】

【イルミネーション、解錠(アンロック)


 蒼汰くんが太腿の鍵穴にアストラロックを挿し込む。暴れる濁流のように眩しく煌めく電飾が現れ、蒼汰くんの身体を呑み込み覆うように纏わりついていく。人の形を無し一瞬動きが止まったかと思えば、直後に宝石のように煌めき、砕け散る。中から現れたのは飛んで逃げたあのデモンズ、蒼汰くんと契約したあの悪魔の姿だった。


「フフフ···改めてご挨拶いたしますワ。ワタクシは電飾の悪魔ルミーレア。以後お見知りおきを」

「あーこれはご丁寧にどうも。俺は音来警察署の麻田龍介だ、よく覚えとけ」


 俺は改めてルミーレアを睨み付け、そして問い掛けた。


「もう一度聞く。最後のチャンスだ、よく聞けよ」

「···フフ、えぇ聞きますワ」

「今すぐ石像にした人達を元に戻すか、それとも俺にボコられてから元に戻すか、選びな」

「フフフ、どちらも魅力的な提案ですけれド、ワタクシにはもっと素敵な案がございましてヨ」

「あ?」

「邪魔なアナタも石像に変えてワタクシの契約を遂行する、ですワ」

「なに?」


 ルミーレアは、そう言い放つと両手を広げる。それとともに身体のイルミネーションが伸びていき野次馬達の身体へと巻き付いた。それは俺の方にも伸びてきたが、躱すことは難しくない。難なく躱し再びルミーレアを視界に捉える。


「聖なる夜に不幸あれ」


 イルミネーションに巻き付かれた人々の身体は、メキメキと不気味な音を上げながら瞬く間に石へと変化していき、あっという間に息も吐かない石像へと姿を変えてしまった。辺りは先程と同様、また混乱へと陥った。それを見てルミーレアが愉悦の笑みを浮かべる。


「どうかしラ、ソウタ様。ワタクシの振る舞う不幸のお味は」

『あはは!本当にすごいねルミーレアは!最高だよ!』

「フフフ、そう言って頂けて光栄ですワ···」


 ルミーレアが俺を蔑むような目で睨み付けてくる。


「聞こえましたでしょウ、ソウタ様のお声ガ。彼にはワタクシが必要なのでス」

「さっきから復讐復讐って、お前が焚き付けてるんだろうが」

「フフフ、どうかしラ」

「まぁ良い。そっちがその気なら、お前をボコって石化した人々も蒼汰くんも取り返しゃ良いだけだ。行くぞダギル」

『遅ぇよ!さっきの電飾触手で最悪死ぬかも知れなかったんだぞお前!』

【ブレード】

『聞けよ!』

【ブレード、解錠(アンロック)


 上空から落ちてきた複数の大剣が、纏わりつこうとするイルミネーションを断ち切り消滅する。俺は残った特大の大剣を引き抜いた。


「この後はクリスマスパーティなんだ。手早く終わらせる」

「あらあら、ワタクシとのダンスパーティも楽しんで欲しいですワ」


 三度伸びてきたイルミネーションを今度は避けず、大剣で引き裂く。見た目は普通のイルミネーションだが、やはりデモンズが生み出した物だからか想像よりも強固だった。しかしこちらも変身している。切り裂くことに苦労はない。地面を蹴り距離を詰める。イルミネーションは楽に対処できるとは言え、間合いが向こうに合わされていてはジリ貧だ。近距離戦を仕掛け一気にケリを付ける。その算段で俺はルミーレアへと駆け寄った。大剣を振り抜く。ダギルの悪魔としての象徴"剣"を体現したこの大剣は、見た目通り重い。しかし、変身した俺の腕力ならば難なく扱える。まるで小刀かのように大剣を振り回し、ルミーレアを切り裂いていく。小さな悲鳴を漏らしながら切り裂かれていくルミーレアに、その奥の蒼汰くんが心配するような声をあげる。


「あぁ···!」

『ルミーレア!』


 何撃も切り裂きそして、思い切り大剣を振り上げ今まさにルミーレアを頭頂から両断しようとしたその時だった。あろうことか近くの石像が動き出し、俺とルミーレアの間に割って入った。なんとか石像に当たらないように剣筋をずらす。斬撃を浴びた地面が深い切跡を残した。


「···っなんだコイツは!危ないな!」

「···ク、フフフ。ワタクシとアナタ、戦闘能力にはかなり差があるようですわネ」


 周囲の石像達が次々と動き出し、俺とルミーレアを遠ざけ周りを囲んでいく。その背中には、ルミーレアから伸びたイルミネーションが接続されているようだった。


「ですからこうして、石像を壁にすることに致しますワ」

『お前やることが汚ねぇな!』

「フフフ、アナタも同じようなモノでしょウ、飼い悪魔のダギル様?」

『ア"ァ"!?』

「おっと鋭い言葉のナイフ」

『取り消せよ、今の言葉!!』

「おい、それは負けフラグ···」

「取り消しなんかしませんワ、事実を述べたまでですもノ!」


 石像が動き、殴りかかる。しかしこれに反撃はできない。もし傷付けて、身体が欠けるようなことがあれば?もし壊してしまえば?石化を解いた時の惨状など想像に難くなかった。


「クソ···!」


 群がる石像達をなんとか振り払い再びルミーレアに斬りかかる。しかし、それもまた別の石像達に阻まれ剣はルミーレアには届かなかった。


「ぜんぜん届いておりませんワ。良いですワ、ワタクシが教えて差し上げまス。攻撃はこの様にしますのヨ!」


 束になり太く変化したイルミネーションが振り下ろされ、俺の身体が叩き飛ばされる。俺は近寄れないが、向こうは伸びるイルミネーションで自在に攻撃ができる。この状況は非常にマズい。と、そこへ、思わぬ救援が駆けつけた。


「フフフ、ちょっと策を凝らせばイージーゲー厶···ッ!···誰かしラ?」


 銃声が響き、石像へと繋がるイルミネーションが撃ち裂かれる。接続の切れた石像の動きが静止し、無理に裂かれた痛みにルミーレアが声を上げた。銃声の方を見れば、息を切らした黒井戸がルミーレア目掛けて拳銃を構えていた。


「ハァハァ!だ、大丈夫ですかセンパイ!」

「黒井戸!あっちはどうした!」

「取り敢えずは治めました!でもセンパイが中々戻らないのが心配で!」

「俺のことは気にするな!コイツは中々厄介だから離れてろ!」

「あーらあら、お仲間かしラ?忌々しい。彼女も素敵デ儚い石像に変えて差し上げますワ!」

「なに?!よせ!」

「ふふん!心配ご無用ですよセンパイ!」


 銃口の狙いは飛びかかってきたルミーレアへと移った。トリガーが引かれ、弾丸が空を裂きルミーレアの身体を貫く。撃ち抜かれたルミーレアが悶えながら傷口を、そして黒井戸を交互に睨みつけた。普通の弾丸は悪魔には効かない。ルミーレアはそれを盾にしたつもりだったろうが、俺達超常犯罪対策課の銃弾はそうはいかない。光音さん特製の弾丸は悪魔の身体をも撃ち抜き、悪魔からの干渉を抑える効果が乗せられていた。狙いを下げ、地に伏したルミーレアにしっかりと定め直す。


「ニンゲンのクセにアナタ···生意気ですわネ」


 黒井戸の放った追い打ちの弾丸はルミーレアに届くことはなかった。ルミーレアに纏い付くイルミネーションがゾワゾワと動き出す。束になりうねるそれは、もはや触手と呼んで差し支えないほど悍ましいものへと変貌していた。それらが放たれた弾丸を弾き、撃ち落としてしまったのだ。ヨロヨロと立ち上がるも邪悪な笑みを浮かべるルミーレアの奥から、蒼汰くんの狂乱の声が辺りに響いた。


『あ、あ、あの人も!あの人も僕から幸せを奪おうとしてる!僕はただ幸せでいたいだけなのに!不幸にしようとしてくるんだ!』

「いいや!こんなのは幸せじゃないはずだ!周りをよく見てみろ!」

『違う、違う!違う!!ママが僕を殴れると嬉しいって言ってたんだ!なら僕が誰かを殴れるのは嬉しいことなんだ!そのはずなんだ!!』

「なんだと?!」

「あぁ···なんて激しい感情ですノ、ソウタ様。ワタクシが、ワタクシがそのすべてを受け止めて差し上げますワ···!」


 あの母親、どうも態度がおかしいとは感じていたがまさか児童虐待をしていたとは。蒼汰くんの幸せへの執着、ルミーレアの言う復讐の出処はここだったのか。


「もうダンスパーティは終わりにしましょウ!次の復讐劇がワタクシ達を待っていますワ!」

「あわ!あわわ!」


 イルミネーションの触手が建物を巻き取り地面に突き刺さる。すると、触手が触れているところから大地が、建物が見る見るうちに石化し始め、まるで蝕む苔かなにかのようにイルミネーションが生え始めた。触手を黒井戸が銃撃するが、太い束状に変化しているそれにはもう有効打にはならなそうだった。


『みんなの不幸で僕は幸せになれるんだ!ルミーレアが幸せにしてくれる···!』

「フ、ウフフフ。すべてソウタ様の思うがままですワ···!」

「チッ、薄々感じてたがお前やっぱ胸糞悪いな!」

「フフフ、その言葉、お褒めノ言葉としテ受け取っておきますワ」


 飄々と笑うルミーレアを横目に手の鍵穴からアストラロックを引き抜く。そして引き抜いたアストラロックを大剣の鍵穴に挿し込み構え直した。アストラロックが必殺技を宣言する。


【ブレード、ファイルアクション、解放(アンロック)

「お前のやり方は最悪だ。クリスマスに見るもんじゃねぇ!」


 浮き上がり辺り一帯を石化していくルミーレア目掛けて大剣を投げる。迎撃してきた触手を勢いのまま切り裂くとルミーレアの胸部に深々と刺さり込んだ。絶叫を上げながらルミーレアが落ちてくる。刺さった大剣を引き抜こうと藻掻くが、それが抜けることは無い。蒼いエネルギーがルミーレアの身体を侵食していく。


「う、動けませんワ!そんな···このままでハ···!」


 地面を蹴り空へ飛び上がる。そして、仰向けに倒れたルミーレア目掛けて鋭い踵落としを繰り出し、突き刺さった大剣ごと貫き地面に打ち下ろした。


契厄(けいやく)解離蹴(とりけ)し!!」


 蒼い衝撃波が大地に走り逆巻く爆風を上げる。それにより吹き飛ぶようにルミーレアの身体は弾け、絶叫を残して消滅した。地面へと押し込まれた大剣は消え、消滅したルミーレアから解放された蒼汰くんだけが残っていた。広がっていた石化は徐々に解除されていき、それとともに人々の石化も解かれていく。何が起こったか分からないと困惑する人々の間を縫って黒井戸が駆け寄って来た。


「デモンズは倒せたんですね!良かった!大丈夫ですか!」

「あぁ、蒼汰くんにはケガは無さそうだ」

「んー···!それも大切なんですけどセンパイはどうなんです!」

「俺?平気に決まってるだろ。悪魔の力を使ってんだぞ?」

「んんー!!そうだけど違うんですよ!もー!」

「イテッ!なんなんだいったい···」


 変身を解き、転がっていたイルミネーションアストラロックを拾い上げる。もう悪魔の気配はしない。黒井戸は気絶している蒼汰くんを背負い、いそいそと駅へと歩き出した。


「さぁ早く戻りましょう!鋭武さんも待ってますし!蒼汰くんも安静にしないと!」

「あ、あぁ···」


 俺と黒井戸は、蒼汰くんを連れて音来署へと戻った。パーティーは当然後回しになり、蒼汰くんの看病をしながら一晩が明けた。


・・・


「だから、君は明日から東風野児童園(こちのじどうえん)で生活することになったんだ」

「···うん」


 翌朝、目が冷めた蒼汰くんに対して俺は昨夜決定した蒼汰くんに対する処遇を説明していた。アストラロックを使った犯罪行為もある程度までなら青少年保護法が守ってくれる。しかし今回は少し派手過ぎたこともあり、罰は重くなるかと考えていた。しかし、光音さんが蒼汰くんの母親の情報を掻き集めて来てところ日常的に暴行を行い蒼汰くんを追い詰めていたことが発覚。今回ルミーレアという悪魔に漬け込まれたのはそこに原因があるとして蒼汰くんへの言及は軽減されたのだった。勿論代わりに母親は並々ならぬ罰を受けることとなったが、それも自業自得だろう。母親を失った蒼汰くんは近所の児童園で

過ごすこととなった。


「僕···」

「どうした?」

「僕あの時おじさんに酷いことしちゃった。街の人にも···。謝ってどうにかなるわけじゃないと思うけど、僕···」

「···」

「本当にごめんなさい···」

「良いんだ。早く気付けなかった警察が、早く止められなかった俺達が悪い。蒼汰くんは被害者なんだ。気にしなくて良い」

「うぅ···」


 泣き出しそうな蒼汰くんを黒井戸が抱き寄せ優しく撫でる。俺達からすれば彼を母親から引き離し、ルミーレアから解放したことは救済だ。しかし蒼汰くん本人からすれば、唯一の母親と洗脳されていたとは言えの親友を同時に失ったのだ。この悲しみは推し量れないだろう。


「落ち着いたらクリスマスパーティーをやりましょう」

「パーティー?」

「はい、昨日やり損ねたやつです。蒼汰くんも参加していいんですよ」

「僕も?」

「勿論!みんなで楽しくやりますよ」

「···うん」


 蒼汰くんが笑みを浮かべる。やはり黒井戸の、子供の扱いには脱帽だ。何か特別なことをしてるわけでも無いのに、やたら子供を落ち着かせるし懐かれる。彼女の性質だろうか。


「さぁセンパイ!ケーキを切り分けてください!クリスマスパーティーを始めますよー!」


 黒井戸が冷蔵庫から不格好で形の崩れたケーキを取り出す。昨日の騒動で放ったらかしにされていたケーキはデロデロに溶け、最早食べ物の体裁を失っていた。署に戻ってから、光音さんと鋭武さんがなんとか元に戻そうとしてくれたが···できあがったのはご覧の有り様だった。しかしまぁ食えないわけではないので、それを受け取り机に置く。包丁を取りに席を立つと、鍵から現れたダギルがソファにふんぞり返った。そして、どこかで見かけた鍵を机から拾い上げる。


「···おいリュースケ、これって」

「ん?···あ?イルミネーションのアストラロックじゃないか。昨日光音さんが収容したと思ったんだがおかしいな···」

『フフフ···ワタクシ抜きでクリスマスパーティーに興じるおつもりですノ?』

「あ?」

「この声···」

【イルミネーション】


 ダギルの拾い上げたイルミネーションアストラロックが光を放ち、ダギルがアストラロックから出現する時と同様の光の粒子が現れ机の上で形を取り始める。そして昨夜、確かに消滅したはずの電飾の悪魔ルミーレアがその姿を現した。

 が、その大きさは手のひらサイズ。そしてなぜかデフォルメ調の姿となっていた。


「お久しぶりですわネ、みなさま」

「「「「ええええ!!!!」」」」


 俺とダギルが声を上げ、気付いた黒井戸と蒼汰くんが覗き込みそれに続く。4人でその小さな悪魔を囲い込んだ。


「お前!お前···なんでいるんだ!消滅させたはずじゃ···」

「リュースケが殺るとこ俺も見てんぞ?!」

「ルミーレア···!」

「いったいどうやって···」

「ワタクシにもサッパリですけど、強いて言うなればソウタ様に対する確かな"愛"ですわネ。間違いありませんワ」


 うんうんと小さなルミーレアは頷く。納得が行かない。行くわけが無い。なんだかは分からないが、復活された以上また消滅させるべきだろう。俺はブレードアストラロックに手を掛けた。それを見て小さなルミーレアがひっくり返り、蒼汰くんが止めに入る。


「や、やめて!ダメだよ!大丈夫だよ!」

「大丈夫たってな···。昨日の惨事を覚えているだろ。こいつはそれの元凶でもあるんだぞ」

「で、でも、今のルミーレアからはなんというか、昨日までとは違う感じがするっていうのかな···」

「···ソウタ様」

「と、とにかくもう悪いことはしないはずだよ!」

「···はぁ」


 聞けば、蒼汰くんは母親には押し入れに追いやられ孤独に過ごしていたという。その時に出会った大切な友達がルミーレア。一度は洗脳され利用されたとはいえ、二度も親友を失うのは辛いことだろう。


「おい、電飾の悪魔」

「···はイ」

「監視は万全だからな」

「···!」

「それって···!」

「悪事を働こうものなら即刻処分だ。覚えておけよ」


 俺の言葉に、あのルミーレアの表情があからさまに明るくなる。蒼汰くんはそんなルミーレアに抱きついた。唯一の、友達か。


「良いんですかね」

「ダギルだって似たようなモンだろ」


 ダギルを見る。ダギルはルミーレアに「お前も飼い悪魔の仲間入りだな」とか言って煽っていた。そしてキレたルミーレアにグーパンを打ち込まれる。


「あはは、似たようなモノですか!そうですね!」


 黒井戸が3人の方へ戻っていき、俺もそれに続く。クリスマスにしては重く辛い話だが、最後はなんとかハッピーエンドになりそうだ。渡しそびれていたクリスマスプレゼントをサプライズ的にお披露目し、飛び入り参加の蒼汰くんとルミーレアのためにあとでまた何か買いに行こうと提案する。黒井戸の一発芸が光音さんのツボに突き刺さり見たこともない笑顔を見せた。釣られて蒼汰くんも、ルミーレアも笑う。鋭武さんに振られた無茶振りもそれはそれで大ウケだった。こうして一日遅れた超常犯罪対策課のクリスマスパーティーが開幕したのだった。

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