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唯一無二〜他には何もいらない〜  作者: 中村日南
歓びの里 [ランド、七日間の記録]編
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日録2 泣き声が聞こえる

 静かな部屋で、フェイバリットの寝顔をじっと眺める。


 艶のある白い髪。今は閉ざされているけれど、燃えるような真紅の瞳。どちらも稀有な色だ。この色を持つ限り、どこにいても彼女には危険がつきまとう。


(どうにかしないと…)


 旅をしながらずっと考えてきた。これまで人と会わなかったおかげで、外套を羽織るぐらいでやり過ごせた。


 だが今後は、その程度では到底しのげまい。ことに大きな街に入るのであれば。


 自分がしっかり守ればなんとかなると思っていた。だが、とランドはこれまでのことを思い返す。


 赤い崖で視力を奪われたこと。

 男たちにあっさりと捕らわれたこと。


 猿ぐつわで詠唱を封じられて、手足を拘束されたらもうどうすることも出来なかった。呪術師は術があってこそ。


 詠唱を封じられることは、命に手綱をつけられることに等しい。


 だが口を塞いだぐらいで強大な呪術師――例えばリヴィエラのような――を簡単に封じることが出来るとは思えない。


 きっと何か対抗する(すべ)があるはずだ。


(それを探らねば…)


 ふっと脳裡に緑の色を纏った美しい顔を思い浮かべた。エンジュなら色々知っているかもしれない。後で聞いてみようか。


(もっと…強くなりたい)


 己のまだ薄い手の平を見る。大人たちに比べると、腕も足もまだ細く強靭さが足りない。


 だから崖から落ちた直後とは言え、あんなにも簡単に男たちに囚われた。


 流離蟻(さすらいあり)から逃げるために、一同は荷車に走った。あの時のことを思い出すと今でもヒヤリと背筋に寒いものが走る。


 身動きの出来ないランドは、男の肩に担がれて運ばれた。


 移動する間、ランドは耳を必死で澄ましてフェイバリットの動きと位置を探った。そうすることしか出来なかったからだ。


 ちゃんと逃げられているか。荷車までたどり着いて、無事、避難できているのか。


 男たちのたてる音や馬が騒ぐ音の中から必死に音を拾おうと試みるも、音どころか気配がない。猿ぐつわの内側で懸命にフェイバリットを呼んだ。


 ここで取りこぼされてしまったら、一巻の終わりだ。じりじりと身を焦がす思いでもがいていると、やがて息を切らしながら近づいてくる足音を耳に拾った。


 引きずるように重い荷を抱えて走る、よたよたとおぼつか無い足取り。なぜ、今、そんなもの(旅荷)を後生大事に抱えている?!


 ――いや、本当はわかっている。その荷の中にランドのヤスが入っている。里では自分の道具をそれは大事にする。


 きっと、そのことを知っているフェイバリットは、荷を捨てて走ることが出来なかったのだろう。だがそんなもの、命の代償になるはずもない。


 荷車が走り出してからは、蟻たちの襲撃を防ぐ音や荷車が跳ねる衝撃で、フェイバリットの気配を探るどころではなかった。


 襲撃が止み、やっと荷車が速度を落としたと思ったら、連中はあろうことか『隷属の首輪』などというものを出してきた。


 これは一度つけられてしまったら、はめた者以外は外せない厄介なシロモノらしい。悔しがる顔見たさに、ご丁寧にも男がそう説明をしてくれた。


 もし男に首輪をつけられてしまったら、かなり面倒なことになる。逃れる術もなく、すでに抵抗を諦めていた。


 それよりも、今後どうやってこの首輪を外せるだろうと未来へと思いを馳せた。


 その後のことを思い出すと怒りと共に、苦々しさしかない。一言で表すと、フェイバリットのおかげで首輪をつけずに済んだ。


 男が怒り狂う声を聞く限り、どうやら首輪を破壊してくれたらしい。とてもありがたかった――だが、その一瞬後に激しい音が聞こえた。殴られたのだ。


 立ち上がって駆け寄りたいが、起き上がることもままならない。不甲斐ない自分に、我が身を呪った。


「なるほどなあ…。いやに大事にすると思ったらおめえの(スケ)かい?」


 さらにおぞましいことに、フェイバリットが女性だと分かると、一気に空気が不穏なものに変わった。それだけでなく”白を纏う者”だと知るや、奴らの態度が一変した。


 逃げられるものなら、この場からフェイバリットだけでも逃げて欲しい。取り返しのつかないことになる前に。


 荷台の上で揉み合う音と悲鳴を聞きながら、必死で身をよじっていた時だった。


「あ――おい…っっ!!」


 男たちの慌てふためく声。馬を止めろと男が御者に荒々しく声をかける。馬のいななきと共に激しく急停車する荷車。


 フェイバリットが飛び降りた。

 走る荷車から身を投じたらしい。心臓がドクンと大きく波打つのが分かった。


 彼女は無事か? ――生きているのだろうか?


 完全に馬が足を止める前に、男たちは二人とも荷台から駆け下りて行った。見えない目では彼女の安否が分からず、焦燥が募るも、ここが絶好の機会だ。


 ランドはフェイバリットの手から小刀が落ちた時、耳でその場所をしっかりと覚えていた。ありがたいことに彼女の正体に興奮する余り、彼らは()()を回収し忘れたままだった。 


 気づくなと心で念じていたら、面倒な二人が我先にと飛び出して行った。荷車に残るのは大男一人。幸い、この男は三人の中でフェイバリットに唯一、好意的だった。


 さりげなく体を移動させ、小刀を回収したところで、大男もまた荷車を飛び出して行った。その後はもちろんすぐに縄を切って脱出した。


 しばらくは視力が戻らなかったが、術で”探索”を使えば敵の位置は分かる。連中から離れたところまで避難してすぐに自身に”治癒”をかける。


 少しでも視力を取り戻したところで、男たちとフェイバリットの行方を追った。その後に見た彼女は。


 ――ああああああああ――――――あああああああ。

 

 喉が千切れるほどに泣き叫ぶフェイバリットの声が今も耳に残る。彼女がこんなふうに泣くのを初めて聞いた。


 泣くな。

 俺がお前の大事なものを、

 取り戻してやるから…。


 だから、そんな風に…泣かないでくれ。

読んでいただき、ありがとうございます。


次話は水曜10時頃、更新予定です。

次回更新も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

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