閑話3・燕の天敵は、雀の子 (中)[イレイン一人称]
もうそろそろ戻りませんかとリヴィエラ様を見上げた時。
「なになに? 俺にも見せて!」
一人が口火を切ると、わらわらと一気に人が押し寄せた。かつての同門たちだ。
「あ! 岩つばめ?」
「えー? 見たい〜」
「リヴィエラ様が、飼ってらっしゃるの?」
怒涛の質問責めに、リヴィエラ様も言葉を挟めずに苦笑している。
対して子雀は群がる同門たちを手で制すると、鼻高々に言った。
「まあ待て。俺が教えてやろう。こいつは片翼を怪我した、渡りに乗りそびれた“はぐれ燕”だ。そう皆がガツガツ来たらビックリするだろう」
て、なんでお前が仕切ってんのやーい! しかもずっと前から知ってましたみたいに!
とは言うものの、あまりにも皆の圧がすごくてちょっと尻込みしたのは本当。
そろーりとさりげなくリヴィエラ様の懐深くにもぐり込もうとすると。それを目敏く見咎めて、そうはさせじとばかりに子雀がリヴィエラ様を仰いだ。
「リヴィエラ様ー。皆にもこの燕、見せていただいても、いっすか~?」
だから喋り方!! はともかく――その言葉に慌ててリヴィエラ様を見上げた。小さくイヤイヤと首を振って訴えかける。
リヴィエラ様はじっと岩つばめと同門たちを交互に見較べていたが、子雀が懇願するように言い募る。
「ね! 少しだけ!――お師様」
んな?! 急にお師様とか卑怯なり…! あわあわしていると、さらに子雀が畳みかけてきた。背後を振り返るとこう言ったのである。
「皆も見たいよな?」
もちろん皆が一斉に頷いたのは言うまでもない。リヴィエラ様が小さく息を吐くのが見えた。
う・嘘でしょう? 頼みの綱である美しい横顔を眺めるも、リヴィエラ様は申し訳なさそうな視線をちらりと向けるばかり。
「少しの間だけですよ」
よっぽど、ガガーンと悲愴な顔をしていたに違いない。リヴィエラ様は懐から岩つばめを取り出すと、ふっと小さく笑う。
そのまま目の高さに持ち上げると、翼の具合を診る振りをしながら「少し皆との交流を楽しんできなさい」とこっそりと言った。
「ありがとうございます! んじゃ、俺が責任持ってお預かりしますんで!」
ちゃっかり皆のまとめ役におさまった少年が、意気揚々と手を差し出す。だがそこで周りの皆が我も我もと手を挙げ始めた。
「なんでお前ばっかりなんだよ」「俺も触りたい!」「てか順番にしようよ」「触りた〜い」「見たい!」
その剣幕にリヴィエラ様が呆れたように口を挟んだ。
「仲良くできないのなら、おしまいにしますよ。あと小鳥を疲れさせてはいけません」
結局、平等にということで、皆の手から手に渡ることになってしまった。怪我もしているとあって、それはもう皆に丁重に扱われた。
互いが互いの手元を見守って、きつく握んなよだとか、落とさないようにとか横から注意が飛び交う。
寄ってたかって、皆が大切にしてくれる――燕の自分をだけど。自分史上初のモテぶりに、戸惑いしかない。かつては皆から遠巻きにされていたから。
ひとしきり皆の手から手へと渡り、最後の一人の手に乗った。これでお役目は果たしたよね?
ふと見ると、少し離れた場所で、リヴィエラ様が優しい眼差しでこちらを見守っている。その温かい目が、良かったねとでも言っているようだった。
小鳥の恥じらう姿なんて、誰得とも言えないが、なんとなく気恥ずかしくて首をすぼめてみせる。
「なに、鳥の癖に照れてんだよ」
呆れたような声。ぎょっとして顔を上げると、吊り目ぎみの瞳がじいっと見下ろしていた。
自分が誰の手に乗っているのか、その声で初めて気がついた。最後ってアンタだったのか。
「へー? お前そんなの、分かんの?」
子雀の肩に手をかけて、ひょいっと顔をのぞかせる。この男の子はよく子雀とつるんでる。
ランドとも子雀とも違う、灰色がかった茶色の髪にきりりとした太い眉。友達1でもいいけどぶっとい腕が熊みたいだから、灰色熊と仮に呼んでおこう。
「だってコイツ、思ってること丸わかりじゃね?」
ツンと指で頭を小突く。その手つきは、思いのほか優しく繊細な力加減だ。他の子に見咎められて「やめなよ」って怒られたけど――ふふっ、いい気味。
ほくそ笑んだらギロリと睨まれた。ナゼに鳥の顔面を読む?? 要らぬ火の粉が飛んできそうな予感に、慌てて視線を逸らす。というか降りたい。降ろして欲しい。
「…こいつさぁ、なんかアイツに似てねえ?」
「あいつ?」
「アイツって、言ったら、その…”泣き虫”じゃん」
ちなみに”泣き虫”とは私のことである。そう言えば、彼から名前で呼ばれたことなかったなあと、そんなことを思い出した。
「”泣き虫”って誰だっけ?」
「――。あんだよ。 それはア・アレ。その、イ…分かんだろ?」
言いにくそうに口ごもる子雀に、灰色熊がニヤリと目を三日月の形に細めた。
「あ――…あいつね」
これってきっと私のこと、だよね? 名前を呼ぶのも厭われるほど、今でもこんな腫れ物扱いなのかな…。そう思うとシュンとなってしまう。
「なんだよ! 普通に名前で呼べばいいだろ」
「――そのまんま、お前に返すわ(笑)」
「似てるってどこが? 確かにあの子、岩つばめしか化けられなかったけどさ――」
ゲラゲラと灰色熊が笑う。その姿に憮然とする子雀の反対側から、別の男の子がにょっきりと顔を出した。
すらりとした体は、三人の中で一番背が高い。子雀より拳二つ分は高いんじゃないかな。ちなみに私も含めて皆、同じ年である。
この男の子もよく子雀とつるんでる一人だ。彼は、落ち着いた暗い茶色の髪を後ろで一つに束ねている。
束ねられた髪は細くしなやかで、まるで猫のしっぽのようだ。友達2は、猫の尾に決まり。
「どこって…」子雀が、改めてじろじろと見つめてくる。少し考え込んでポツリと言った。
「…鈍くさいとこ」
「それだけ?」
「猫かぶってるとこも。こいつ、さっきリヴィエラ様が傍にいるからってさあ…めちゃ威嚇してきたんだぜ…弱いくせしてずりいんだ」
燕が猫かぶってるとかって――ぷぷっ。あ! 睨んだ! へへーん。手を出したらリヴィエラ様に言いつけてやるから!
首を伸ばして挑発するも――目が合う前に、さっと顔を逸らしてそ素知らぬふり。だってやっぱり怖いから。
「…そういうとこだよ。馬鹿」
子雀が唇だけで失笑する。
「似てる?」
ひょいっと灰色熊、彼に続いて猫の尾も目の前に顔を寄せてくる。子雀と三人、合わせて六つの目に凝視されるとやっぱりたじろいでしまう。
いやいや、見た目は違うでしょ。
「…腹が立つぐらい似てる」
むっつりと子雀が唇を尖らせる。その顔をニンマリとのぞき見るや、灰色熊が、急にがっしりと子雀の首に腕を巻きつけた。
「俺には分かんねー。あ――さすがにお前は長年見てきただけあるわな」
「あ? そんなんじゃねえよ」
「そうだろうがよ。お前、小さい頃からずうっとイレインのこと好きだもんな~」
(――は?)
「もしかして隠してたつもり~? 無理っ無理。バレッバレだから~」
間髪入れずに猫の尾の冷やかしが続く。
「ちっげーよ! つうか離れろ。暑苦しいんだよ!!」
子雀が肘で巻きついた腕を振り払おうとすると、その前にするりと灰色熊が離れた。図体の割に動きが素早い。
「ふはっ! そんな顔して否定しても説得力ねえけどなあ~?」
その言葉につられてちらりと見上げると、ばっちりと雀班少年と目が合ってしまった。その顔が、真っ赤だった。
(え?――ええ? まさかあ…?)
思わず二度見しそうになったが、子雀のギンと殺気だった眼差しに気づいて慌てて目を逸らす。はい、見てません。今の私はただの燕です。
読んでいただき、ありがとうございます。
次話は明日、更新予定です。
次回更新も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。




