表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
唯一無二〜他には何もいらない〜  作者: 中村日南
歓びの里編 『番外編 ― イレインの里帰り』
59/132

閑話3・燕の天敵は、雀の子 (中)[イレイン一人称]

 もうそろそろ戻りませんかとリヴィエラ様を見上げた時。


「なになに? 俺にも見せて!」

 一人が口火を切ると、わらわらと一気に人が押し寄せた。かつての同門たちだ。


「あ! 岩つばめ?」

「えー? 見たい〜」

「リヴィエラ様が、飼ってらっしゃるの?」


 怒涛の質問責めに、リヴィエラ様も言葉を挟めずに苦笑している。


 対して子雀(ポホ)は群がる同門たちを手で制すると、鼻高々に言った。


「まあ待て。俺が教えてやろう。こいつは片翼を怪我した、渡りに乗りそびれた“はぐれ燕”だ。そう皆がガツガツ来たらビックリするだろう」


 て、なんでお前が仕切ってんのやーい! しかもずっと前から知ってましたみたいに!


 とは言うものの、あまりにも皆の圧がすごくてちょっと尻込みしたのは本当。


 そろーりとさりげなくリヴィエラ様の懐深くにもぐり込もうとすると。それを目敏く見咎めて、そうはさせじとばかりに子雀(ポホ)がリヴィエラ様を仰いだ。


「リヴィエラ様ー。皆にもこの燕、見せていただいても、いっすか~?」


 だから喋り方!! はともかく――その言葉に慌ててリヴィエラ様を見上げた。小さくイヤイヤと首を振って訴えかける。


 リヴィエラ様はじっと岩つばめ()と同門たちを交互に見較べていたが、子雀(ポホ)が懇願するように言い募る。


「ね! 少しだけ!――お師様」


 んな?! 急にお師様とか卑怯なり…! あわあわしていると、さらに子雀(ポホ)が畳みかけてきた。背後を振り返るとこう言ったのである。


「皆も見たいよな?」


 もちろん皆が一斉に頷いたのは言うまでもない。リヴィエラ様が小さく息を吐くのが見えた。


 う・嘘でしょう? 頼みの綱である美しい横顔を眺めるも、リヴィエラ様は申し訳なさそうな視線をちらりと向けるばかり。


「少しの間だけですよ」


 よっぽど、ガガーンと悲愴な顔をしていたに違いない。リヴィエラ様は懐から岩つばめ()を取り出すと、ふっと小さく笑う。


 そのまま目の高さに持ち上げると、翼の具合を診る振りをしながら「少し皆との交流を楽しんできなさい」とこっそりと言った。


「ありがとうございます! んじゃ、俺が責任持ってお預かりしますんで!」


 ちゃっかり皆のまとめ役におさまった少年が、意気揚々と手を差し出す。だがそこで周りの皆が我も我もと手を挙げ始めた。


「なんでお前ばっかりなんだよ」「俺も触りたい!」「てか順番にしようよ」「触りた〜い」「見たい!」


 その剣幕にリヴィエラ様が呆れたように口を挟んだ。


「仲良くできないのなら、おしまいにしますよ。あと小鳥を疲れさせてはいけません」


 結局、平等にということで、皆の手から手に渡ることになってしまった。怪我もしているとあって、それはもう皆に丁重に扱われた。


 互いが互いの手元を見守って、きつく握んなよだとか、落とさないようにとか横から注意が飛び交う。


 寄ってたかって、皆が大切にしてくれる――燕の自分をだけど。自分史上初のモテぶりに、戸惑いしかない。かつては皆から遠巻きにされていたから。


 ひとしきり皆の手から手へと渡り、最後の一人の手に乗った。これでお役目は果たしたよね?


  ふと見ると、少し離れた場所で、リヴィエラ様が優しい眼差しでこちらを見守っている。その温かい目が、良かったねとでも言っているようだった。


 小鳥の恥じらう姿なんて、誰得とも言えないが、なんとなく気恥ずかしくて首をすぼめてみせる。


「なに、鳥の癖に照れてんだよ」


 呆れたような声。ぎょっとして顔を上げると、吊り目ぎみの瞳がじいっと見下ろしていた。


 自分が誰の手に乗っているのか、その声で初めて気がついた。最後ってアンタだったのか。


「へー? お前そんなの、分かんの?」


 子雀(ポホ)の肩に手をかけて、ひょいっと顔をのぞかせる。この男の子はよく子雀(ポホ)とつるんでる。

 

 ランドとも子雀(ポホ)とも違う、灰色がかった茶色の髪にきりりとした太い眉。友達1でもいいけどぶっとい腕が熊みたいだから、灰色熊(シンザ)と仮に呼んでおこう。


「だってコイツ、思ってること丸わかりじゃね?」


 ツンと指で頭を小突く。その手つきは、思いのほか優しく繊細な力加減だ。他の子に見咎められて「やめなよ」って怒られたけど――ふふっ、いい気味。

 

 ほくそ笑んだらギロリと睨まれた。ナゼに鳥の顔面を読む?? 要らぬ火の粉が飛んできそうな予感に、慌てて視線を逸らす。というか降りたい。降ろして欲しい。


「…こいつさぁ、なんかアイツに似てねえ?」

「あいつ?」

「アイツって、言ったら、その…”泣き虫”じゃん」


 ちなみに”泣き虫”とは私のことである。そう言えば、彼から名前で呼ばれたことなかったなあと、そんなことを思い出した。


「”泣き虫”って誰だっけ?」

「――。あんだよ。 それはア・アレ。その、イ…分かんだろ?」


 言いにくそうに口ごもる子雀(ポホ)に、灰色熊(シンザ)がニヤリと目を三日月の形に細めた。


「あ――…()()()ね」

 

 これってきっと私のこと、だよね? 名前を呼ぶのも厭われるほど、今でもこんな腫れ物扱いなのかな…。そう思うとシュンとなってしまう。


「なんだよ! 普通に名前で呼べばいいだろ」

「――そのまんま、お前に返すわ(笑)」

「似てるってどこが? 確かにあの子、岩つばめしか化けられなかったけどさ――」


  ゲラゲラと灰色熊(シンザ)が笑う。その姿に憮然とする子雀(ポホ)の反対側から、別の男の子がにょっきりと顔を出した。


 すらりとした体は、三人の中で一番背が高い。子雀(ポホ)より拳二つ分は高いんじゃないかな。ちなみに私も含めて皆、同じ年である。


 この男の子もよく子雀(ポホ)とつるんでる一人だ。彼は、落ち着いた暗い茶色の髪を後ろで一つに束ねている。


 束ねられた髪は細くしなやかで、まるで猫のしっぽのようだ。友達2は、猫の尾(スール)に決まり。


「どこって…」子雀(ポホ)が、改めてじろじろと見つめてくる。少し考え込んでポツリと言った。


「…(どん)くさいとこ」

「それだけ?」

「猫かぶってるとこも。こいつ(岩つばめ)、さっきリヴィエラ様が傍にいるからってさあ…めちゃ威嚇してきたんだぜ…弱いくせしてずりいんだ」


 燕が猫かぶってるとかって――ぷぷっ。あ! 睨んだ! へへーん。手を出したらリヴィエラ様に言いつけてやるから!


 首を伸ばして挑発するも――目が合う前に、さっと顔を逸らしてそ素知らぬふり。だってやっぱり怖いから。


「…そういうとこだよ。馬鹿」


 子雀(ポホ)が唇だけで失笑する。


「似てる?」


 ひょいっと灰色熊(シンザ)、彼に続いて猫の尾(スール)も目の前に顔を寄せてくる。子雀(ポホ)と三人、合わせて六つの目に凝視されるとやっぱりたじろいでしまう。


 いやいや、見た目は違うでしょ。


「…腹が立つぐらい似てる」


 むっつりと子雀(ポホ)が唇を尖らせる。その顔をニンマリとのぞき見るや、灰色熊(シンザ)が、急にがっしりと子雀(ポホ)の首に腕を巻きつけた。


「俺には分かんねー。あ――さすがにお前は長年見てきただけあるわな」

「あ? そんなんじゃねえよ」

「そうだろうがよ。お前、小さい頃からずうっとイレインのこと好きだもんな~」

(――は?)

「もしかして隠してたつもり~? 無理っ無理。バレッバレだから~」


 間髪入れずに猫の尾(スール)の冷やかしが続く。


「ちっげーよ! つうか離れろ。暑苦しいんだよ!!」

 

 子雀(ポホ)が肘で巻きついた腕を振り払おうとすると、その前にするりと灰色熊(シンザ)が離れた。図体の割に動きが素早い。


「ふはっ! そんな顔して否定しても説得力ねえけどなあ~?」

 

 その言葉につられてちらりと見上げると、ばっちりと雀班(そばかす)少年と目が合ってしまった。その顔が、真っ赤だった。


(え?――ええ? まさかあ…?)


 思わず二度見しそうになったが、子雀(ポホ)のギンと殺気だった眼差しに気づいて慌てて目を逸らす。はい、見てません。今の私はただの燕です。

読んでいただき、ありがとうございます。


次話は明日、更新予定です。

次回更新も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ