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唯一無二〜他には何もいらない〜  作者: 中村日南
2章 異国[羈旅 (きりょ)]編
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2-12 深い眠りにつく方法

お待たせしました。

また、お付き合いいただけると嬉しいです。



 目を開くと、背後から緩やかに、腹部に巻きつくようにして、たくましい腕が回されている。どうやら何かに巻きついて眠るのはこの(ひと)の癖のようだ。


 ぴったりと肌を寄せあった背中が暖かい。後ろ髪に鼻を突っ込む男の安らかな吐息が繰り返し聞こえる。


 ランドに背中から抱き締められながら、凍える夜を過ごす。くっついて眠った最初の夜以降、ランドはひとつ吹っ切れたのか――気に入ったのか、この体勢で眠るのがすっかり夜の定番となっていた。


 しかも人肌がよほど心地いいのだろう。ランドは日に日に朝寝坊になっていく。


 おかげでフェイバリットが目を覚ますと、必ず男の腕の中にいるという状況だ。こうやって朝を迎えるのはもう何度目か、今ではすっかりお馴染みになった朝の目覚めだ。

 

 最初の頃でこそ、真っ赤になって飛び起きていたものの、このところフェイバリット自身もすっかり慣れて驚きもしない。十五歳で男の添い寝に慣れるってどうなのだろう――十五なのに。


(――慣れって怖い…)


 寝起きの目をこすりながら、フェイバリットはそろりと腹に巻きつく男の腕を外して腕から抜け出す。跳ねた髪を整えるでもなく、徐々に明るくなっていく空をぼうっと見上げる。


 焚き火はほとんど燃え切って炭と灰になっていた。けれど消えたように見えても炭の中心部はまだ静かに燃えている。


 フェイバリットは少し灰を掻いてから細い薪を取ると、その上にくべてやる。しばらくすると新しい薪の底からゆっくりと煙が上がり始めた。


 朝の湿った木々の匂いと土の匂いを嗅ぎながら、焚き火の横で山の朝に浸る。


 隣で身動きする音がして目をやると、腕の中が空っぽになって急に寒くなったのだろう――目を閉じたままランドの腕がもぞもぞと何かを探すように動いている。


 ……もしや自分を探している? じっと見つめていると。


「……湯湯婆(ゆたんぽ)」という呟きがランドの口から洩れるのをフェイバリットは聞き逃さなかった。こちらも色々と悪い意味で慣れてしまったようだ。


 なんだか…色々と捨ててはいけないものを捨ててしまったように感じる…。恥じらいとか、恥じらいとか、恥じらいとか。


 女性としてこれはいかがなものか。いや、年頃男子がこんな風に()れてしまうのも実にけしからんと思う。


 今の二人は人として色々捨ててるよね? 隣り合って眠れば事足りる。密着する必要はないのでは? そうランドに言った。割と切実に。するとランドは少し考え込むと。


「まあ―――多くのものを捨て去ってしまったとしても…寒さを凌ぐために時として手段を選んでいられないこともあるし…それに」

「それに?」

「大事なものさえ残っていればいいんじゃない?」


 笑ってあっさりとそう言った。それはもうあっさりと。

 あまりの言いぐさにフェイバリットが二の句を継げずにいると、茶色の眼差しが意味深な色をたたえてこちらを見る。愉悦、だろうか?


「朝は冷え込むし――それに約束だろう?」

「……。約束?」


 ランドが、とてもいい笑顔を浮かべる。笑顔の裏に何か不穏な気配を感じ、フェイバリットはなぜか顔が強張るのがわかった。


「一人で寒い想いをさせたくないって、(すが)りついてきたのはフェイバリット、お前の方じゃないのか?」

(言い方……っ!)




 野営を始めてしばらくの間は、疲れが残り微妙に体が重く感じていたフェイバリットだったが、日にちが経つにつれ、少しずつ旅にも体が馴染んでいく。良くも悪くも人は順応していくものだ。


 食事を済ませたら、食器の汚れを落とし、敷布をたたみ、すべてを背負い袋に入れて出発の準備を整える。最後に焚き火の後始末をすれば、もう後はいつ歩き出しても構わない。


 「ん」とランドが外套を差し出す。羽織れということだ。フェイバリットは外套を受け取ると、素直に頭から深く被る。日中は正直暑いくらいだったが、この目立つ髪を晒して歩くわけにはいかない。


 なんとなくフェイバリットは上衣の上からそっと()()に触れた。手の平に丸い手応えを感じる。いつもと変わらずここにあることを確認して、ホッとする。


 ゆっくりと珠飾りを服の内側から引き出した。時々こうして取り出しては、手に取って眺める時がある。

 

 なだらかな曲線を描く(たま)は、職人の手で削られた宝石のような強い輝きはないものの、石本来が持つ深い色味がとても美しい。


 奥から輝くような青緑色の珠は、異物も曇りもなくどこまでも澄んでいて、深い森の湖を思わせた。

―――リヴィエラ様の球飾り。これは彼の方とつながる唯一のもの。


 一度だけ呼びかけに応えると、あの人は言った。いつかまた会えるかもしれないという希望は、フェイバリットの心の拠り所だった。


 石を包み込んだ手にそっと口づけた後、フェイバリットはいつもの場所に大切にしまう。隣でランドの柔らかな眼差しがそれを温かく見守った。


「行こうか」


 力強い声に、フェイバリットはしっかりと頷き返した。

大変お待たせしましたm(__)m

いつも読んでいただき、ありがとうございます。


次話は3日後、更新予定です。

次回更新も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

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