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唯一無二〜他には何もいらない〜  作者: 中村日南
2章 異国[羈旅 (きりょ)]編
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2-2 旅の仲間

「なんでっ!!―――ランドがここにいるの?!」

「…どうして。どうして追いかけてきたの?! もう戻れないんだよ?」


口調は怒っていたが、その眼差しは今にも泣きだしそうだった。その眼差しを見つめて、ランドは昔の記憶を――すなわち自分がここに来た理由を思い出していた。


(……そうだ)

 この目だ。ランドの記憶の中の少女は、いつだってこんな風に泣きだしそうな顔をして追いすがってくる。

 その目を振り切って走り去ろうとしたこともあった。それでも結局ランドは引き返してしまうのだ。


 リヴィエラに背を支えられ、洞穴に向かって、たった一人で足を踏み出す――こころもとない後ろ姿。洞穴の入り口に立った後で、もう一度振り返った少女はやはり不安そうな目をしていた。


 大丈夫だろうか。未知の世界で、たった一人で泣いたりしないだろうか。一人で泣くイレイン。その姿に幼い頃のイレインが重なった。


――俺がついていなくて大丈夫なのだろうか…?


 そんな気持ちが不意に湧き上がった。やがて少女の姿は暗い洞穴の中へと消えた。その途端、ざわりと胸の内で騒ぐものがあった。


 どのくらい経ってからか焦燥が募り始めるのが分かった。少女…イレインがどこまで行ってしまったのかそればかりが気になりだす。


「―――ランド?!」「兄ちゃん!」


 親や兄弟の慌てる声。「やめて!」と引き裂くような悲鳴で追い縋ったのは母親だったように思う。ランドは声を振り切った。


 すまないと心の中で家族に小さく詫びながら、意識はイレインの消えた先にまるで引き寄せられるように向けられた。


 ランドは尾白鷲に変幻すると洞内に向かって大きく羽ばたく。リヴィエラの横をすり抜ける間際に一瞬、師であるその人と目が合った。


 まるでこうなることがとうに分かっていたかのように、驚きもない強い眼差し――その中にわずかに自分への嫉妬とも羨望ともつかないものが混じっていることに気づき、ランドはわずかに目をみはる。


 暗い洞内を翔けながら、ランドは自分の行動がずっと以前からリヴィエラによって仕込まれていたものなのかもしれないと、ふとそう思った。


 答えが返ってくることはないが、ランドには確信めいたものがあった。彼の師は、この日に備えてランドがイレインの命を惜しむよう、幼い頃からイレインと共に彼の心も育ててきたのだろうと。


(自分は追っていけないから…)


 師の思惑通り、ランドはイレインを追ってこの世界にやってきた。そこに後悔はなかった。むしろ間に合って良かったと思う。

  

「なんで、ランドまで……っ」


 泣きそうな顔をしたイレインは、案の定、段々と弱々しい声になり、ついに大粒の涙をポロリとこぼした。そこから、おさえていた感情が堰を切ってあふれ出たかのように激しく泣きだす。

 

 こんな風に声を上げて泣くイレインを見るのは久しぶりだった。


 ランドがこの場にいなければ、イレインはこの場所で一人でこんな風に泣いていたのだろうか。そして泣き止んだ後、どうやってこの先を進むつもりだったのだろう。

 彼女を送り出すリヴィエラはさぞ心配だったに違いない。


「ランド?! 聞いてるのっ?」


 我に返ると涙でぐしゃぐしゃになったイレインがこちらを見つめて怒り狂っている。


「……聞いてる」

 

 その言葉を聞くと、さらにまなじりをきっと吊り上げて、イレインはひときわ大きな声で怒声をぶつけた。


「何考えてんの!! 分かってるの? もう帰れないんだよ?!―――なんであんたまで…っ」


 声を詰まらせる。だがこの先に何が続くのかランドには分かっていた。


 なぜ、あなたまでこの寂しくも厳しい道を選ぶのか―――。


 イレインはランドの行く末を想って本気で怒っている。ふっとランドは笑みを漏らした。それがイレインの怒りをさらに煽ったようだが、イレインが何か言う前に、ランドは素早く口をはさんだ。


「泣き虫イレイン」


 虚を突かれて一瞬、イレインは怒りを忘れて呆然とする。その後で思い出したように泣きはらした瞳がぎりっと睨みつけてくる。


 ボロボロに泣いているくせにと、ランドは思わずその顔を見て、小さく笑ってしまった。


 悔しそうにイレインは唇を噛む。

 ああ…そんなに唇を噛むと、傷になってしまう。


 涙の止まらないイレインをランドがやんわりと引き寄せた。あっけなくイレインの小さな体はランドの腕に囚われて、胸に抱きすくめられる。腕の中で小刻みに震える体に、ランドの胸の内に熱いものがこみ上げる。


「俺が、そばにいる。リヴィエラ様の代わりにそばにいるから――大丈夫だ…イレイン」


 声を押し殺しながらイレインが腕の中で泣く。こらえきれず、しゃくりあげるたびにその体が大きく跳ねる。

 その背中をさすってやりながら、ランドは「イレイン」「大丈夫」と何度も優しく呼びかけ続けた。

読んでいただき、ありがとうございます。


第二章が始まりました。次回は2023年1月11日(水)に更新予定です。

以降はなるべく三日置きに更新していく予定です。


第二章も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

よいお年をお迎えください。

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