プロローグ
当時書いたものをリライトしながら順次アップしていく予定です。
左側には小さな滝津瀬が流れ落ちている。舞い上がる飛沫が光に反射して、時々七色の橋を描いた。
そのほとりに二つの人影がある。
「出来ないなんてことは、ありません」
背の高い方の人影が鋭く厳しい口調で言う。
流れるような銀の髪は背中半ばに届くほど長く艶やかだ。すっきりとした鼻梁、伏し目がちなその瞳の色は深い湖を思わせる。
足首まで覆う純白の長袍に身を包んだ体躯は、無駄な肉など一片もなくしなやかで、その相貌は女とみごまうばかりに端麗。
もっとも声の低さで男性だとうかがい知れる。
そのちょうど真向いにもう一つ、小さい影が向かい合うように立ち尽くしている。
こちらは女性、その体つきから少女と分かる。
肩先まで伸びた髪は茶色。痩せて薄い体はまだ女の匂いに乏しい。
少女というよりも少女と女性の狭間といった感じだろうか。
首を垂れて俯いた姿は、彼女を年齢以上に小さく見せた。
「原因を考えてごらんなさい」
叱責の言葉がその背中に突き刺さる。
柔和な面差しに似合わず、背の高い人影は厳しい眼差しで相手を見据えた。
「イレイン」
イレインと呼ばれて少女は顔を上げた。
何か答えなければと、しきりに視線をせわしなく地面の辺りに這わせ、口を開こうとハクハクと動かすものの、結局口をつぐんでしまう。
そんな彼女をさらに声が追撃する。
「イレイン、何が分からないのか言ってごらんなさい」
ぎりとイレインは唇をきつく噛んだ。
―――それすらも分からないとは言えない。
言えば相手を不快にさせてしまう。きっとひどく呆れさせてしまう。
黙り込んでも溜め息をつかせてしまう。
相手の顔を見ることができず、イレインは泣きたい気分でひたすら地面を見つめるばかりだった。
呪術の指導である。
読んでいただき、ありがとうございます。
続きます。