うちに素数を教えてくれたんは、ぼんぼんのフリした学生さん
うち、一度だけ恋したことがあるん・・・・・
恋なんて、うちらがしとるもんと違うでぇ、うちらみたいな境涯の女子があんなもんに掛かったら、それこそ不治の病や、死神に取付かれたようなもんや。おかあはんにばれて、何時やなくて何れでものうて今すぐその命差し出せ言われても、そないですかって白い顔したまんま胸元あけて、誰にも触られとらん木で鼻を括った顔した乳房ぁ、おかあはんに向けて、いつでも刺しておくれやって啖呵ひとつ残しておさらばする。そないなアホな女のするもんや
年上の姐さん達の中に、お客のひけた夜明け前に仰山に零して積んだグチのやま片付けようと、石けん使うみたいに、いっつもその決まり文句で洗い流すお人がおった。
耳にタコ出来る決まり文句、正面から聞いとる朋輩はおらんけど、うちは年下やったし、それにごひいきの役者の決め台詞、「待ってました」ばかりに聞かせてもらうんやから、身体も心持ちも正座したまんまの格好で、その姐さんの声、胸いっぱい吸い取った。
けど、その姐さん、鼻も引っ掛けてはくれん。「なんや、ませた子やな。気色くさっ」っと一べつしただけで小間物になった残骸うっちゃらかして、朝風呂にいくねん。うち、その頃十二になったばっかりやもん。月に一度の女の印だけのお仲間で、水揚げの噂も出てこない青臭い顔が朋輩に映るはずもないしなぁー
誰もがおらんようになった姐さんたちのお茶引き部屋の掃除が、うちのその日いちばんの仕事やから、今んなると尻の長いその姐さん追い立てるの兼ねての仕業やったかもしれん。
でも、胸いっぱい吸い込んだ甘いもんは、昨日の上澄みの上にまた上澄みして積んでいった。
お砂糖いっぱいで小豆たいたプツプツあぶくの甘いもんをスーと流し込んでいっつも唇に残る粉砂糖ふいた唇、そのあと部屋に偲んで手鏡でソーとみているオカッパ頭で丸顔の女の子がうちの中に住んでて、その子がむしゃぶりつくみたいに悶々と駄々こねてるん。
それが、恋に恋してたときのうちや。一年も経たんうちに、その姐さんはいなくなり、お砂糖くちびるでオカッパ頭のその子も出てこんようになった。
うちのそのお人は、学生さん。
海軍さんの隙間のないキラキラはあんまし好かんかった。あんなキラキラ飾りたてたかて、男と女のことするときは、そないなもん皆んなきれいに脱いでするんやし、それを承知でお腹の中にためておきながら、あないな顔で楼にあがってくるんやから・・・・・、そいつの背中に「噓つき」っていっつも書いてやったわ。
うちのそのひと、カッターなしの白シャを絣の一重でくるんで、角帽かぶったまんまの格好で部屋に来るねん。階下から用事たのまれたぼんぼんみたいやわぁーって、思わず声かけとうなる。
その角帽の顔、うちが取り上げるまでの学生さんの顏、崩さんと横でずっと待っていて、もうー、じらしつかれたうちの方が先に降参して・・・・・
そのあと・・・角刈りのアルミニウムのお弁当箱みたいなごっついまんまのときもあれば、女形の役者隠してたみたいにシレっとしたのに変わることもあって、いつも、フニャフニャの摑みどころない白抜きのまんまのやった。