モナリザの微笑み
建国って・・・・
リーダーの采配に導かれ、ワイワイわんわん喚きながら傷んだもの汚れたものを脇にどかしたあと、真っ白なキャンパスの上に淡々と真摯に新しく色を落としていく静謐な営み。
どんなに猥雑でうるさく乱暴でも、遠目から見るとそのいちピースいちピースが混ざり合って点描のモナリザの美しい微笑みに昇華していく。
俯瞰などしてみなくても、皆んな、サイダーを飲んでるそんなみずみずしさを感じている。
でも、ダビンチみたいなモナリザを描ける人間なんて、この世にはいないのだ。それでも、モナリザを描いてる気になっている。けっして俯瞰してみることはできないモナリザを、頭の中だけに描いてそれがこの世に現れてきていると、かたくなに信じてる。
それが、有意な男たちによる満州国の日常。
軍人も官僚も商人も、だれひとり絵筆を持った男はいないのに、満州国にモナリザの微笑みを描いてるつもりになっている。鉄道を敷き、道路の筋を幾重にも拡張し、豪華なホールと食堂を備えたホテルを先々に建てていく。
でも、それって、スケッチ、デッサン、クロッキー。
その土地に根差して産み育っていった長い時間のことは、はじめから何も居なかった風景をように見つめようとせず、壊して、線を引いて、分けて。あとはただその繰り返し、反復作業。最初の一槌におびえはしても、あとは見ないで己れを麻痺させ、依存していく。
この国にリーダーは、いない。
描き手は、いないのだ。
描くのでなく、描かされているものだけの作業の繰り返し。
だから、いつまでたっても線だけを束ねた下絵以外の何物でもない。色のついたこの世の本物に化けてはくれない。
この国の壊したり分けたりの定規をあてた線ばかりが引かれてる中で、産んでいるのは、生産しているのは、母さんだけ。糸繰りおばさんの出てこない男からもらったかたちあるものをなでさすりながら、毎日毎日せっせせっせと新たに送り込まれる男たちに一生分の兵站を分け与えるように産んで、与えていく。
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102181
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男たちは、もらったものの収斂したかたちの魂の数字をわからずに、桁の大きさの分別もわからずに両脇に大事そうに抱え、それを元手にこれからの一生を働く。そして、未来を見ている割に、その先が思っているほど以上に長くはないのは分かっているのだ。
それがわかってか、越冬しない飛べないトンボをつかまえるものは、この国にはだれもいない。