17の家
17。連れていかれた先は、あっけないほど単純な数だった。
私たちの乗った車はロシア人が作った白を基調の街からどんどん外れ、コウリャン畑と小麦畑と何ものも生えてくるのを拒む荒地のまっ平らな地平線をどんどん進む。
「4597は、先に運んであるから、181。なにもし・・ん・・・・・」
外套で顔の半分を覆ったままなので、最後の語尾まで聞き取れなかった。
心配しないでなのか信じていいからなのか、それとも「何も知らなくていい」と引導を渡すために詰められてしまったのか。そのあとの沈黙がどんなに長くても、だんなさんはポツンとみせている糸口の先を引っ張るいとまを与えようとしない。
とてつもない長い時間が続いた。
だんなさんは一度も時計を見ようともしない。そのままそこに到着した。
砂漠の中に湧いたオアシスに生えてきた街のように、寄り添うように斑のような家がポツンポツンと立っている。各家が許したものだけを受け入れるような、そうでないものは立っている存在さえ視界に触れさせないカゲロウのような危ういポツンポツン。どれも同じつくりで一度外に出たらさっきまでがどの家だったか探せないくらいに似かよっている中、だんなさんは迷わずそこに入る。あたしも一緒に車からおりた。
でも、すぐに、安心した。
不具の主の店を出てからとてつもなく長い時間が、満州まで渡ってきた船よりも汽車よりも長い時間が経っていたはずなのに、お日様はまだあんな高いところにとどまっている。
何より、この家には女が親しみやすい17が立っている。
やっぱり、お店ではなくて家なんだ。
赤いもので包んでサヨナラするように戸口にツッパリ棒かけた音を背中に聞いてから一度しか思い出さなかった実の親のいた家よりも、それはあたしのために家として立っているんだ。
17はすぐにそれとわかる匂いがついているから、好き。
かぐわしいけど、選ばれた高貴な女だけが持ち合わせている類のものじゃなく、どんな女でも持てる、だけど一度の通過しか許してくれない甘酸っぱい香り。
だけど、きっと、あたしは、4597の上で、永遠にその香りを保ち続けている。そのための4597。そのための181。
月も星もない闇夜の森の焔のように
砂嵐がぽっかり抜けた砂漠の井戸の釣瓶のように
金襴緞子の重みで包み込まれる布団にうつぶせで待っていたら、だんなさんは、それがあたっていない裸の肩に、それだけでは肌寒かろうとうなじを超えた耳元まですっぽりかけ直してくれる。
「ここは、日が落ちるとすぐに寒くなるから。そんな真っ裸で待っていなくてもいいんだ。わたしは、昨夜にもうもらったから必要ない。これからは、この国をつくりにやってきた男たちに一粒づつあげればそれでいい」
金襴緞子の重みでくぐもっているけど、だんなさんの声は、卵のような水滴のような美しい円錐の弾力を讃えて、あたしの盆の窪から身体の部位で一番好きな足の親指の腹までの、後ろ側うら側のすべての毛穴に沁みてきた。
沁みるのは、一粒・・・ひとつ・・・・・1・・・・・
魂の数の呼び名は、これから順々をはじめる掛け声の「いち」でなく、ひとつが相応しい。
ここにやって来る男たちは、その1をもらえばあとはだまっておとなしく帰っていく。そして、これからの一生恋なぞしない女のように後生大事にその1を抱え、ただひたすらまっすぐに、馬車馬のように、奴隷のように、働いていってくれるから・・・・・・