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1. プロローグ

※「濡羽色の魔女」https://ncode.syosetu.com/n4471he/ の前日譚になります。

※本作にはロシアとその関係組織が登場しますが、ロシアのウクライナ侵攻を肯定するものではありません。

 中年の男は建物から出て雑踏の中へ入っていった。男女のカップルの横を通り、男は信号が青になった横断歩道を渡る。太陽はちょうど真上にあり、人々の影が(いち)(よう)にその存在感を薄めていた。日曜日ということもあって、周囲の飲食店には多くの客が入っている。男は歩きながら少しだけ悩み、右手にあるハンバーガーショップへ足を踏み入れた。店の奥にある壁側の席へ座り、店員へチーズバーガーとミネラルウォーターを注文すると、上着の左胸ポケットから手帳を取り出した。数分後、店員が水の入ったガラスコップを男のテーブルに置いた。喉が渇いていた男はグラスを手に取り、冷えた水を口の中へ流し込む。例年に比べて夏の日差しが厳しく、水分補給は熱中症予防を兼ねていた。まさかその後に自分が死ぬとは夢にも思っていなかっただろう。



 地上50階というとある高層ビル。年老いた男が二人の護衛に囲まれながらエレベーターを降りた。そして、廊下を進み目の前にあるドアを開けた。部屋の中には(すで)に四人の男が席に着いている。大きな窓ガラスには全て(しゃ)(こう)カーテンが掛けられ、外から部屋の中を見ることはできない。そもそもこの高さで(のぞ)き見する人はいないと思われる。四人の男は年老いた男を見るなり、席を立ち敬意を表した。年老いた男は彼らを座るように促すとともに、自身の席へ着いた。その瞬間、年老いた男のこめかみに一発の弾丸が命中した。続けざまに四人の男達にも一発ずつ、正確に。即死だった。後に警察による入念な捜査が行われたが、どこから狙撃されたのかは最後まで判明しなかった。捜査上、これが外からの狙撃なのかも疑問が持たれた。どうすれば見えない部屋の中の人間のこめかみを射抜けるのか。謎は深まるばかりである。



 ビーチで友人と泳ぐ若い女性。(まぶし)い日差しの下、このビーチには日焼けを楽しむ者、泳ぐのを楽しむ者、友人と談笑を楽しむ者、様々な人達が各々(おのおの)の楽しみ方で時間を過ごしていた。女性もこの時を楽しみ、夏の海を満喫していた。それは彼女が頻繁に見せる笑顔からも分かる。だが、それは一瞬にして終わりを迎えた。全身に信じられないほどの激痛が走り、身体の自由を奪ったのだ。女性はこの世の者とは思えない強烈な悲鳴を上げるとともに、あっけなく水中へその姿を消した。



 深く切り込んだ(けい)(こく)を有する森林地帯。森林迷彩服を着た二人の男は小銃を構え、慎重に先へ進んでいた。ここから離れた所には複数の古城があり、広々とした緑の眺めが見える。だが、男達は壮観な景色に感動することなく奥へと足を進める。彼らの獲物は人間だ。野生動物ではない。左には小川があり、右には大きな木の幹が横たわっている。男達の首筋や(ほほ)を汗が流れ、極限の緊張が彼らの体力と精神力を奪っていった。一秒たりとも油断はできない状況である。これは命を賭けた戦いなのだ。(はる)か上空からこの一帯を見ると、彼らの仲間と思われる複数の部隊が展開していた。一人、また一人と倒れていき、着実に恐怖の空間が(じょう)(せい)されていった。

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