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AtoZ  作者: 立山雷鳥
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8話 エマのアンサー

しかしエマはきょとんとして、首をかしげた。それはいまだメトロンをあきらめていないような。しかしそれが、さもとうぜんであるかのような振るまいで。エマは赤リボンをゆらしつつ言う。


「消さないの? みーんな」

「……っ!」


するとエマはまっすぐな瞳で。それがほんとうに、腹のそこからの言葉であることがわかるような瞳で、おそろしいことをたずねるのだ。


「エ、エマ……人殺しは……」

「人殺し? うーん……まあ、いいや! いくよ、ノヴィス!」

「ちょっ……えっ!?」


そう言うと、エマはノヴィスの腕をわしづかみにしてゴウインにメトロンのすすむ方向へと足をすすめた。風をきるような勢いのまま、しかし彼女がむかっているのはメトロンの方向でもなんでもなかった。

超えーーーメトロンを超えてもなお、エマは足をとめないのだ。あっとおどろくメトロンと目があい、ノヴィスはなさけなく笑う。笑いつつ、されるがままに手を引かれつつ、彼女がむかう先。コンザツを押しきったその先にあるのはーーーマスターテスト開始のアイズをおくるための大鐘だ。


けれどマスターテストにはもうしばらくのユウヨがあり、開会式すらすませてはいない。そんななかでエマは大鐘のもとにたどり着くと、そのかべを、大鐘にむかわせまいとふさがるそのカベを、サルのようによじ登りはじめた。どうしようもなく首をあげるノヴィスに、ほかのジュケン者もおなじく、アゼンとして彼女を見まもる。短いスカートからのぞくそれを、なまなましい下着を、しかしエマはオクメンもなくおおっぴらにして。


「白……」


と真下からそれを見あげるノヴィスが、ちいさくつぶやいたそのときーーーすでに彼女は鐘のそばでかまえる試験官のひとりを、フクロづつみの刀、いわゆる“ドンキ”で殴りつけてしまっていた。回避しようもない不意うちだった。そしてエマはマンメンの笑みをうかべる。そのジジョウを知らなければ、たとえジジョウを知っていたところで。どこをどうみても頭のイカれたその笑顔で、エマは鐘をたたくのだ。ひびかせるのだ。オールセントラル全土にむけて。『ゴオオオオオオオオオン!』と。


「えー、こんにちわ。マスターテスト特別審査員のエマです。おまえらに今からお伝えすることは、マスターテストがなんたるかについてですが……」


試験官のむなもとについていた小型マイクをひっぺがし、エマはその声をオールセントラル全土にとどけた。それをジュケン者は、ポカンと見あげることしかできず。そんな彼らにエマは言ってのける。


「「「開始の合図など待っているマヌケに、勝利をつかむ権利はないのだよ!」」」


まるでなにか、ものすごい思想をもったニンゲンのような。ただモノではないような。そんなエマの凄みにあてられたマスターテストのジュケン者たちは、はじめこそ立ちつくしていたものの。


「今年のマスターテストに常識なんてありはしねえ! 周囲を見てみろ、だんだん人が減っていることに気づきはしないかぁ? その通り。つまりスタートなんてものはなぁ……おまえたちの意思しだいなんだよ!」


という言葉を聞いたとたん。そのとたんにオールセントラル全土のジュケン者たちはーーー走りだした。ゾロゾロと。大移動をはじめてしまった。これはつまりーーーマスターテストの開始を意味していた。


「おーい!ちがうちがう! マスターテストは始まってなどいない!」

「待てぃ! 開会式すら行わないなどあってたまるか!」


そんな試験管たちのさけび声は右から左、むなしく空に逃げていく。


「すごい……なんて滅茶苦茶なんだ……!」


おもわず感嘆し、そして目をかがやかせるノヴィス。するとエマはピースサインをむけ、そんな彼女にノヴィスはうなずく。つよく、大きく。


「おい、やつをつかまえろ!」


ふとノヴィスの背後からしたのは、試験官たちの焦るような声。そして彼らは鐘のある高台へと足をすすめる。そんななかでノヴィスは、拳をにぎりしめたノヴィスは。らしくもなく叫ぶ。


「お、おまえら! こ、こ、こ、ここからさきは僕が通さない!」


と、ふるえる両拳をまえにかかえて、つよく言ってのけるのだ。そんな彼のうしろすがたに「いいぞー、ノヴィス! いけいけー!」なんて、まるで他人ごとのようにヤジをとばす彼女にノヴィスはあきれる。すでに数人の男にとらえられた彼女をみて、頭をかかえる。


「おまえも共犯なんだな」


という冷たい声はすぐそばから届き、ふと前をむけばそこにはーーー鬼のようなギョウソウでたたずむ試験官がいた。


♂♀


その後、留置所までソウカンされたエマとノヴィス。つめたい色の壁とテツゴウシは、盗賊どもでもひっとらえるための頑丈なつくりがホドコされており、セイコウ法ーーーつまり鍵でもなければ開くことができないクッ強なシロモノであるようにおもえた。


『⚪︎月⚪︎日 盗賊王の夢なかば、われわれの冒険も終わってしまうのか。せめてもの抗いとして、この壁にわれわれの冒険の証を記しておこうと思うーーーわれわれの出会いは、山が泣きわめくような大嵐のことだった……』


ひややかな風とおしに不気味なセイジャクのなか。壁にえがかれたナゾの日記をひまつぶしのように眺め、ひょうひょうと眺めながら。しかし、マスターテストのジュケンすら危うくなったはずのふたりは、声をあげることもテイコウすることもなく、たんたんとなにかを待っていた。待ちつづけていた。しばらくして、そんな彼らのもとにはーーー青年“メトロン”があらわれる。


「遅いよ、メトロン」

「……いいか、俺はおまえたちを仲間だと認めたわけじゃない。ただ、言ってしまったことには責任がついてまわる。それだけだ」


というのが彼のゴウリ的ともよぶことのできない言いぶんで。しかしふたりはニヤニヤと、まるで彼が来ることをわかっていたように笑うとそのままに脱走をはかる。

そうしてエマはふたりの仲間、“ノヴィス”と“メトロン”を引きつれつつ、次の試験会場である『ブラックタウン』に足を運ぶのであった。


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