6話 交渉成立?
人ごみとざわめきのオールセントラル。5年にいち度のまつりをひかえ、めずらしくソウショクがほどこされた、そんな気どった街のなかを歩く青年がいる。あおい色のセンターわけに、黒ブチメガネの青年はロングコートのポケットに手をつっこみながら、あたりのツワモノをみまわした。
『死人のひとりがうまれたところでなんら不思議でもない』とそう思わせるほどの殺気とそよ風に吹きつけられながら、今日のカドデにふさわしい日照りのもと。“メトロン”は、もうじきはじまるマスターテストにおもいをめぐらせた。そんな彼のひどく神妙なキンチョウ感を。そして、イワ感を大きくしていくのは、なにもジュケン者たちのするどい目つきだけではない。たとえばそれはーーー
「メトローン! あたらしい仲間、みつけてきたよー!」
と目をこらすほど遠くから、あたりの注目をなにひとつ気にもとめないバカ声で、メトロンをよびかける赤リボンの少女だったりする。腰にフクロづつみの刀をたずさえた彼女はメトロンよりいくつか小さいていどの体格で。しかし、ことセイシン年齢にいたっては、この場のだれよりも幼いことはまちがいない。そんな彼女の背後には、おどろくことにオールド家のオンゾウシが、申しわけなさそうについていた。
「アイツ……ライスバーグにケンカふっかけやがったな……」
「おーい!」
なにをしでかすかわからない。少女のそんな手をふりかえせば、ジブンもまたおかしな奴の仲間入りだーーーそう考えたメトロンは、とっさに目をそらし彼女をキョゼツした。まるで他人であるかのようにふるまった。
「あれ? メトロン! メトロン! メトロン? 聞こえてる!?」
しかしエマは、メトロンのそばにかけよると、そばでその名をよびつづけた。とうぜん無視されていることには気づいておらず、彼女のちいさな脳みそはそんなカンタンな結論にすらたどりつけないのだろう。ジュンスイというか、バカというか、どうしようもなくマヌケというか。いちど決めたら、なにがなんでも曲がらないんだなコイツはーーーそしてメトロンは、ヤレヤレと首をふると仕方なしにオウトウする。
「うるさいんだよ……」
「あっ、やっと気づいた!」
「無視してたんだよ……!」
エマはそんなメトロンの、文句ともとれるつぶやきを、右から左へとたれながし言った。
「ほらメトロン。あたらしい仲間のノヴィスくんです!」
「あっ、あの……ノヴィスです……」
ショウカイするように手をさしだすエマのさきには、ハク髪の。どこをどうみたとて“オールド家”であることがまるわかりな少年が、うじうじとたたずんでいる。
「あっそう。だからどうした」
メトロンはまるで興味もなく、彼彼女のなかよしごっこをヒテイすらするように突きはなすと、そのままに背をむけた。しかしエマはそんなメトロンのきょぜつに対しても、マンメンの笑みをくずさない。あるいは、ソレをきょぜつだと認知すらしてないのだろう。
「これで仲間が三人だね!」
と、とうぜんのように言ってのけたのだ。
「はぁ?」
メトロンはおもわず、あきれたような声をあげる。いったいいつから仲間になったのか、というギモンをこめて。
「いつ僕が仲間になった!? そんな話、上がってすらいなかったじゃないか! それともあれか? もしやあらてのねずみ講かよ」
「えっ……だって、『よろしくね』って言ったら、きみも手をふりかえしてくれたじゃない」
「あんなものテキトウに返しただけだ! よく考えれば……よく考えずともわかることだろう!? そもそもなんで俺なんだよ!?」
彼女のジブンかってな解釈にイラだちすらおぼえたメトロンは、あらい声でイロンをとなえつける。されどエマは、いまだ彼を仲間だと信じてうたがわないように。人をくったようなふてぶてしい顔のままに言う。
「気に入ったから、いいヤツだとおもったから! 私……人をみる目はあるんだよ」
「ああ、そうか。じつは俺もあるんだよ、人をみる目! そうだな……アンタたちはどう見てもダメだ。たぶん俺に迷わくをかけつづけるだろう! だから仲間にはなれないし、できればもう関わりたくもない。それだけだ!」
「じゃあとりあえず、マスターテストについて詳しくおしえてよ。もの知りデータベースなんでしょ?」
「ふざけるな! そんな敵に塩をおくるようなまね……できるか」
「さっきはおしえてくれたのに……じゃあいいよ。やっぱり仲間になろう?」
「どうしてそうなるんだ!?」
エマとメトロンのおわりのみえない、そんな大げんかはいよいよ注目をあびはじめ。このゲンジョウをまずいとかんじたノヴィスは、冷汗のひどい手のひらを盾に、ふたりをなだめた。
「あ、あの……落ちついて……ください」
とたんーーーノヴィスがふたりのケンカにわって入ったとたん。ふたりは強いまなざしを、彼のシロい肌へとむける。
「なんだよ? アンタはまだ、まともそうだな。この頭のおかしい女をちゃんとしつけておいてくれよ。それともこんな奴ほおっておいて、二人でさっさと行くか?」
「え、えっ? あの……」
「ちょっとノヴィス! ノヴィスは私の仲間でしょ!? だったらイッショに説得してよ!」
「いや……そもそも僕も仲間ときまったわけじゃ……」
「なんだ、コイツも無理やりつれてきたのか!? オマエはユウカイ犯かなにかか!?」
「そんなんじゃないよ! ほんとに仲間だもん!」
とにかく二人を落ちつかせようと、気をかねたはずのノヴィスの言葉は、あらたなケンカの薪となってしまった。
ふたりは言いあいながら。さらに声をはりあげながら、いがみあいーーー「なにごとか」と三人にむけられる目は、ジョジョに大きく、そして強くなっていく。
これほど注目されてしまえば、今後のマスターテストにすくなからず影響をおよぼすだろう。とそう考えたノヴィスは冷やあせでぬれた拳をにぎりしめると、意をけっして叫ぶ。力いっぱいに。
「「「大声は迷わくだから!」」」
と、いったいどちらが迷わくかも分からない。そんな大声で。
「ノヴィスが怒った!?」
いっけん温厚であると思われたノヴィスの、おどろくほどの怒声にエマはとりみだす。とりみだし、とっさに頭をさげる。
「ごめんなさい!」
「あっ……べつに……怒ってはないよ! こっちこそごめん!」
「べつにアンタが謝ることじゃあないさ。ただ……よけいなことで目立ってしまった。それだけだ」
するとメトロンはメガネをクイっともちあげ、くやしそうにつぶやく。そんなメトロンのようすに一段ともうしわけなくなったノヴィスは、それとなく彼の肩をもち、エマの説得をこころみた。
「あ、あの……エマ? メトロンさんはどうしても仲間になりたくないみたいだから、そろそろ諦めたらどうかな?」
「えー」
しかしそれでも、エマはジョウホする気がさらさらないように思われた。どこまでガンコで、どこまでもひとすじ。それがエマなのだから。
メトロンはそんなガンコ少女に顔をしかめつつ、不服そうにしながらも、どうにかこのキッコウ状態をきりぬけようと口をひらく。
「……じゃあテイアンだ。俺は仲間になる気などさらさらないし、これ以上つきまとわれるのも迷わくだ。だからお前たちにユウエキな情報をおしえてやる! このマスターテストの参加者についての情報だ。そのかわり、情報をやるかわりに俺にはもう一切関わるな。これでいいだろう」
「うーん……」
「エマ。これ以上メトロンさんに迷わくをかけるなら、僕も仲間をやめるから」
眉をひそめ、いまだなにかを悩むような。そんなエマにむけてノヴィスはあきれ気味に言う。するとーーー「よし、それでおねがいします!」と彼女はあっけなく手のひらをかえした。
「交渉成立だ。ったく……アンタらは敵になってもめんどうなんだろうな」
するとメトロンは足をすすめつつ、一切のヨインもないままに話しはじめる。面倒くさそうに、はやくことを終わらせたそうに。
「それじゃあ、いろいろ紹介してやるから……聞きもらすこのないように」
「はい!」
「まず、今年のマスターテストには総勢一万人ていどのジュケン者がいるわけだが……」