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力の差

 意識が覚醒する。

 背の高い木々がこの辺り一帯を囲んでおり、太陽はその木々によって遮られている。どうやら、俺たちが転移された場所は森の中。ここが俺たちの試験場所ということだろう。

 周りを見渡せば、他の受験生の姿は見当たらない。この森のどこかに転移されているのだろう。


「皆様の転移が完了しました。それでは、お配りした的を付けてください」


 試験官である女性の声がこの森一帯に響き渡る。どこかしらでこの試験を見ているのだろう。見える所か。とりあえず左肘のあたりにでも付けておくとしよう。


「それでは、試験開始!」


 試験が始まった。俺がいる場所は、木々が多くまた光も射していないため、視界も悪い。少し移動するとするか。

   

 木々をすり抜け、光が射す場所を目指して俺は歩く。道中で、「ドカーン!」いう衝撃音が響いた。どうやら既に受験生らでの戦いは始まっているらしい。

 

 しばらく歩き続けていると、何やら背後でカサカサと草木が揺れる音が聞こえる。奇襲を仕掛け、俺を倒そうという算段だろうか。

 魔力の気配でとっくの昔に気がついていたがな。もう少し付き合ってやるとするか。


 俺が歩くとスピードに合わせて背後に隠れる何者かの足音も俺についてくる。


 そして、背後に潜む何者かが俺に向けて突進してくる。その突進を俺は身体を少しだけずらして躱した。


「さっきはよくもやってくれたな。まぁ、さっきは俺も油断してたからなぁ。しかし不運なことだ。俺と出くわしたことが。ここでお前は俺に負けて跪き、俺の足を舐めることになるんだからなぁ」


 くるっとこちらを振り向くと……。


 えっと……。


「おい!なんか言えや!」


「すまん。名前を忘れた」


「ガラクだ!ガラク・サドジュラ!てんめぇ。俺を馬鹿にするとどうなるのか分かってんのか?」


 ガラクは声を荒げてこちらを睨む。

 仕方ない。向こうがこちらにかみついてくるのなら、こちらもそれ相応の対応で応じることとしよう。


「なんだ。まだやられていなかったのか。その貧相で脆弱な魔力だととうの昔にやられているのかと思ったぞ」


「ほぉ。どうやら一度痛い目を見せてやる必要があるようだ」


 ガラクは怒りで頬をピクピクさせている。

 ん?控え室であった時あんなものを付けていたか?ガラクは赤い的を胸元に付けている。その上に金色のひし形の宝石を首元に付けていた。


 ガラクは魔法陣を展開する。

 その魔法陣からはバチバチッ!と黄色の雷が走っている。ガラクは得意げな笑みを浮かべて、


「喰らいやがれ!≪電光(エレド)≫!」


 そう言って放たれた≪電光(エレド)≫は俺が付けている左肘に向け、一直線に飛んできた。


「これでお前は負けだ!バーカ!」


 こうも言い続けられては、不愉快だな。もう一度そのお喋りな口を塞ぐとするか。俺は左足を軸にして、回し蹴りをする。その回し蹴りで生み出された風圧によって、ガラクの≪電光(エレド)≫は進行方向を変え、ガラクの左側を抜けて木々へと消えていった。


「なっ……」


 どうやら言葉が出ないようだ。信じられないような表情を浮かべていた。


「そんなわけがない……。俺の魔法が通用しないわけがない……。そうだ。奴は不正をしている。そうでなければ俺の魔法を防げるわけがない!おい試験官!奴は不正をしている!早く奴を失格にしてくれ!……おい!聞こえているのか!」


 何かが閃いたかのように、ニヤッと気持ちが悪いし笑みを浮かべると、空を見上げてこの試験を見ているであろう試験官に抗議を申し立てている。

 俺は呆れて言葉も出なかった。ただの回し蹴りだぞ。試験官も当然、それは分かっているようで特に何の反応もなかった。


「チィっ!どいつもこいつも、俺を苛立たせやがって!」


 忌々しそうにこちらを睨むガラク。俺たちの周りでは魔法と魔法の衝突音が聞こえている。もう既に不合格者も出ている頃だろうな。こちらもさっさと済ませるとするか。


「≪電光(エレド)≫」


 ガラクと同じ魔法、しかしガラクとは比べ物にならないほどの魔力が溢れ出し、木々が震え上がっていた。俺はそれに気がつき、的が破壊できるほどの威力に抑えた。≪電光(エレド)≫がガラクの的へと飛んでいく。すると、金色の宝石が俺の魔法に反応し、金色の光を放って≪電光(エレド)≫を妨害する。


「この魔石は特注品でな。特に魔法耐性に長けている。てめぇにはこの魔石を砕くことはできねぇよ!それにルールに魔石で的を守ったら駄目なんてルールはねぇからな!ぎゃははははははは!!」


 確かにそのルールはなかった。その証拠に試験官が何も口を出してこない。さて、どうしたものか


「おいおい!自分の攻撃が通用しないからって逃げるっていうのはなしだぜ!」


 何を偉そうに言っているのだ。凄いのは魔石の方であってお前の方ではないのだが、本人は自身の力だと思い込んでいるらしい。魔石の力は自分の力とでも言いたげなようだな。少し煽ってみるか。


「その的を魔石で守っているのか。さぞかし防御魔法がお粗末なんだろうな。それぐらい自分の力で守って見せろよ」


「はん!何言おうと無駄だぜ。この魔石が破壊されない限り、俺は負けることがないんだからな!」


 何を言っても無駄らしい。仕方がない。


 俺は魔法陣を展開させると、紅蓮の炎が出現した。≪紅炎(グラン)≫少し力加減を間違えればこの森の一帯を焼き尽くすぐらいの炎だ。それを見て、ガラクの表情が一変する。


「お、おい。その魔法。まさか俺に放つわけじゃない……よな?」


「何を言っている。その的に放つんだ。それだけの魔石を持っているんだ。きっと守ってくれるはずさ」


 俺は紅の炎を一本の槍へと形を変えた。それは全てを焼き尽くし、貫く槍だ。


「おい!辞めておけ!聞いているのか!」


 ガラクの表情は既に真っ青だ。足はガクガクと震えており、身動き一つ取れていないようだ。さすがに、俺と自分の魔力の差を感じ取ったようだな。


 俺が人差し指を上げ小さく下ろすと、その槍はガラクの的に標準を合わせて、一直線に飛んでいった。


「や、やめ、やめてやめてやめてあああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ガラクは絶叫した。

 炎の槍は魔石を貫き、的を破壊した時点で俺は槍の動きを止めていた。ガラクは無事である。

 しかし、ガラクは自分が死んだと思い込み、既に意識を失ってしまっていた。

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