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入学試験

 しばらくすると、修練場に一人の肩ほどまでに伸ばした黒髪の女性がやってきた。おそらく試験官の人だろうな。そして、並んでいる俺たち受験生を確認すると、咳払いをして、


「おはようございます。この度は、我がフェルメイト魔法学院の入学試験を受けに来てくださり、ありがとうございます。本日は六〇〇人の受験生がこの場に集まっております。さっそくですが、皆さんに試験を受けていただきます」


 女性がそう言うと、一番前にいる受験生に男が白い箱を渡す。それを後ろに回していき、セリナから白い箱を受け取った。

 箱の中には小さな紙が折り畳まれるように入っており、開くと40と書かれていた。


「私は6って書かれてた」


 して、一体この数字はなんなのやら。最後の受験生にまで紙が渡ったのを確認すると、


「その紙には1から40までの数字がふられています。今から皆さんには自分が持つ数字と同じ受験生と戦ってもらいます」


 修練場が騒めきだす。女性はその騒めきを特に気にする様子もなく、言葉を続ける。


「受験生は六〇〇人であるため、一つの組で十五人。その十五人が一斉に戦い、最後まで勝ち残った受験生が合格とします」


 今度は何やら丸い形をした赤い的が手渡される。


「ルールは至ってシンプル。その的を破壊された方は不合格となります。的は見えるところであれば、どこに付けていただいても構いません。ただし、魔力で的を守ったりするのは反則とします。そういった行為が確認された場合、失格とさせていただきます」


 合格者は四〇人か。中々に狭き門だな。

 この試験の内容的に、戦闘続行不可能というのでも良かったような気がするが、そこは魔法学院側の意図があるのかもしれない。

 

「一番から三番の紙を持っている方々はこの場に残っていてください。それ以外の方々は、番号ごとに控え室がご用意されていますので、出番が出るまで待機していてください」


 女性の言葉が終わると同時に、各々が控え室に向けて歩き出していった。先程まで、自分と同じ受験生と楽しそうに話していたが、今は無口になる受験生がほとんどだった。

 周りが全員ライバルなのだ。他人を気にかける余裕などないだろう。


 俺は後ろを振り返り、セリナの方に身体を向ける。


「お別れだな」


「ちょっと、言葉が抜けているわよ」


 俺の言葉を否定し、手を後ろに組んで青色の瞳をまっすぐこちらに向ける。


「しばらくの、でしょ。私もこの入学試験を合格する。だから、あなたも必ず合格すること。そして必ずもう一度この魔法学院で会いましょ。いいわね」


 そう言って人差し指を俺に向け指して、笑顔を見せた。


「優しいな。セリナは」


「なっ……なな、何言っているのよ。入学試験前だっていうのに……」


 顔を赤らめ、恥ずかしそうにしながら視線を下に向ける。何も思ったことを口にしただけなんだが。


「そうだな。確かに言葉が悪かった」


 俺の言葉に反応して、セリナは顔を上げる。


「こんなところで負けるな。必ず勝て。お前ならできる。それを叶えるだけの力をお前は持っていが」


 セリナが纏う魔力は中々のものだ。少なくとも、この受験生の中では五本の指に入るほどの実力者であることは間違いない。 

 だが、実力があるのと、勝負に勝てるというのはまるで話が違う。いくら実力があろうとも、精神的な問題で力を発揮することができず、負けてしまうというのがよくある話だ。


 セリナは初めは呆気にとられたような表情を浮かべていたが、


「他の人が言ってもあれだけど、アムルが言ったら何故か説得力があるわね」


 徐々に納得したような表情へと変わっていく。

 それはおそらく、前世の影響だろうな。


 人間界の代表、『剣聖』として、常に周りを鼓舞し続けなければいけなかった。味方の恐怖を拭い、人間界の最前線を走り続けなければならない。その想いが、声音となって表れたのだろう。


「私は勝つわ。だからあなたも必ず勝ちなさい」


「おう」


 そう言って、俺とセリナは控え室に向けて歩き出して行った。


 修練場を出て、かなり材質の良い石で作られているであろう長い廊下を歩く。左右には、一定の距離を保ってオレンジ色の光を放つ光石が廊下を照らしている。


 しばらくすると、40と魔法文字で描かれている部屋を見つけた。そのドアを開くと、そこには既にほとんどの受験生が集まっていた。

 控え室には、受験生用に用意されていた椅子とテレビが設置されている。その椅子に座り、時が来るのを待つ者もいれば、屈伸運動などをして身体をほぐす者の姿も見受けられた。何なら床に魔法陣が描かれている。


 テレビは全部で三つ。どうやら、退屈しないようにと試験の模様を魔法で控え室にいる俺たちに流しているのだ。既に決着がついた組、試験に動きが見えない組、様々だ。

 しばらくすると、決着がついた組がいた場所に、別の組が現れた。決着がつき次第、随時入れ替わっていくようだな。

 この調子では、もう二、三◯分くらいで俺たちの出番が来そうだな。セリナはもう準備を進めている頃だろう。


 しかし、各組試験を行なっている場所が違うようだ。山奥、廃墟、洞窟、といったさまざまなステージで試験が行われているのだ。


 おそらく≪転移(ゲイラス)≫の魔法を使用したのだろうが、一組で一五人。三組で四十五人の人数を別々の場所へと移動させるなど、相当の魔力が必要だ。

 おそらく、魔法学院に流れ出ている魔力を利用したのだろう。


 しかし、この部屋には一四人しかいない。一人足りていないのだ。トイレか何処かに行っているのだろう。俺が気にする必要はない。


 すると、バンっ!っと強引に扉を開ける音が控え室に響いた。セリナにぶつかっていった男だ。偶然にも同じ組になったらしい。


 その男はズカズカと歩き、受験生はそれを避けるかのように道を譲る。


 それを面白くないと思ったのか、男は俺を見て意地悪な笑みを浮かべて、こちらに向かってくる。おそらく、セリナと同様こちらにぶつかってくるつもりなのだろう。


 猪突猛進してくる男を、俺はギリギリまで引きつけて……躱した。関わると面倒なので、俺は背を向ける。


 すると、男はこちらをギロッと睨みつけて、俺の肩を強く掴んだ。どうやら自分の思い通りにいかないと気が済まないらしいようだ。


「おい?何避けてんだよ。誰が避けていいって言った?あぁ!?このガラク・サドジュラの言っていることが聞こえねぇのか!?お前もどうせ平民風情だろうが。だったら上級貴族である俺の言う通りにーー」


 周りはどうしてもその男と関わりを持ちたくないようで、こちらから視線を外している。しかし、耳がうるさいな。仕方がない。こういったのはあまり得意ではないし、やりたくもないのだが。

 俺は男の手首を強く握りしめる。


「くあぁぁ!あがっっっ!くっ!」


「その汚い手で触れるな。折角の服が汚れる」


「んだとっ!」


「少し静かにしていろ。試験前で気が立っている。次喋ったら……分かっているな?」


 言葉と共に男に強烈な魔力という圧力を放った。


「んぐっ……」


 男は悔しそうに口を閉じた。

 やれやれ、ようやく黙ってくれたか。無駄に魔力を消費してしまったな。

 ん?気がつけば六組の試験がもう終わっているではないか。これではセリナが勝ったのかどうか分からん。セリナが負けるとは思わんが、やはり見ておきたかったな。

 

 そこから約五分後。

 俺たちの組の試験の番が訪れた。控え室に魔法で飛ばしたであろう声が聞こえた。


「お待たせしました。これより四◯組目の試験を開始します」


 その声と同時に控え室に描かれていた≪転移(ゲイラス)≫の魔法陣が発動し、控え室に待機していた俺たち十五人はの身体と意識は、白い光に包まれて、消えた。

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