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プロローグ 〜終わりの始まり〜

 何十年、何百年、何千年前の出来事だろうか。

 いつの日も争いが絶えぬ古の時代があった。人間と魔族。互いが互いを決して分かり合えぬ存在として、殺し合いをしていたのだ。 

 それはいくつもの年月を超えても終わることを知らず、今日も醜い争いが繰り広げられていた。


* * * * * * * * * * * * * * * * *

 

ドゴォン!

凄まじい魔法と魔法が相殺し合い、空が、大地が怯えるように震えていることだろう。しかし、この魔城ゼルレタは何十に重ねがけされた魔法結界によって、軋みどころか埃一つ立つことはなかった。

 彼らがいるのは、魔王の玉座の間だ。


「やはり各界『最強』と呼ばれるもの同士、実力は五部と五分。魔法の撃ち合いは互いの魔力を消費するだけで、これでは決着がつかぬな。アムル」


「そうだな。バハル」


 魔法を放った右腕を下ろして、この魔界の全ての魔族の統率者、魔王バハル・ヴァルベェノは表情を何一つ変えることなく言葉を放つ。整えられた青髪を持ち、目の前にいる少年に海のような深い青色の瞳を向ける。

 その鋭い眼光から放たれる重圧は、どんな魔獣だろうと屈服してしまうほどのものだが、アムルは意にも介する様子はない。アムルもバハルを睨み返す。視線と視線のぶつかり合いだけで、玉座の間は高密度な魔力に覆われる。


 魔王バハル・ヴァルベェノが魔界最強であるのなら、この少年ーーアムル・シルフィルクは人間界最強と謳われ、『剣聖』と呼ばれる少年であった。

 だが、彼は剣術だけではなく、魔法の才にも恵まれている。魔界最強と呼ばれる魔王と張り合えるほどの魔力と、魔法は人間界の魔導師達が憧れるほどのものだ。つまり、彼も『最強』なのである。

 アムルは目を瞑り一つ深呼吸をした。そして、何かを決めたかのような覚悟を紫紺の瞳に込めて、バハルを見つめた。


「もう、辞めにしないか?」


「何をだ」


「この醜い戦争を、だ」


 アムルの言葉には迷いがなかった。バハルもそれを感じ取ったようでゆっくりと玉座に歩み寄り座る。そ指を鳴らすと簡易的な椅子が出現した。


「話を聞かせてもらおう」


バハルはアムルに椅子に座れと手で指示を送る。アムルはお言葉に甘えて、その椅子にゆっくりと腰掛けた。アムルとバハル。互いが向き合うような状態だ。


「まさか、戦いの場以外でこうしてお前と向き合う日が来るとは思わなかったぞ。して、お前の心意を聞こうか」


「さっきも言っただろ。この醜い戦争を終わらせる。俺とお前、人間界と魔界が誇る『最強』が二人で力を合わせれば可能なはずだ」


「断る、そう言ったら?」


「納得してくれるまで言い続ける」


「ほう……」


 バハルは頬杖をつきながらアムルの発言に頷いた。アムルは続けて、


「この世界の人間と魔族。これまでいくつもの命が失われた。俺はこの手で数えきれないほどの魔族を殺した。人間界を守るためにとはいえ、こんなことはしたくなかった」


 アムルは掌をぎゅっと握りしめて、見つめる。アムルは自分自身を責めているのだ。魔族は殺したくない。だが、それでは人間界を守ることはできない。そんな葛藤と戦いながら、アムルは日々を戦っていたのだ。


「それはお互い様だろう。お前が人間界を守るために魔族を殺したように、俺は魔界を守るために人間を殺した」


「だから、それに終止符を打つ。このような争いを二度と生まないために」


「俺が憎くはないのか?貴様の師を殺したのは誰でもない。この俺なのだぞ」


 腕を組みながら、無表情でバハルは俺に問いかける。

 

「確かに、お前はシア……お師を殺した。だが、憎しみは新たな憎しみを生む。その先に希望はなく、あるのは悲劇しかない。お師の言葉だ。その憎しみを誰がが終わらせなければいけないんだ。だったら、俺がその役を引き受ける。俺の憎しみ、人間の憎しみ、魔族の憎しみは俺の存在ごと消し去ってやる」  


「それは、お前の叶えたい願いか?」


 バハルは尋ねる。


「ああ、俺は平和な世界を作りたい。バハルは叶えたい願いがあるのか?」


「無論だ。俺だって叶えたい願いはある。もう少しで叶えられる、大切な宝物への願いだ」


「そうか。叶うといいな」


 アムルは立ち上がると、己の身体に魔法術式を展開する。アムルの身体は金色の光に包まれ、眩い光が玉座の間を照らしていた。アムルの魔力は時間が経つにつれて、上昇していく。だが、アムルの生命力が魔力の上昇につれて、減少していっているのだ。


「これは……」


「人間と魔族の記憶を修正する。この二種族は決して争いごとなどはしないと。互いが互いを認め合い、尊敬しあう存在なのだということを。こういった記憶に書き換えることができれば、二度と争いごとは起きないはずだ。これはそれを起動させるための大魔法の術式。トリガーである俺自身の心臓を貫くことでこの術式は作動し、記憶修正が一斉に行われる」


 アムルの右手に神々しい魔力の塊が姿を現す。黄金の剣だ。

 神創剣カリュエヴァマ。神が与えし魔族を根絶するために作られた剣だ。


「今までよく頑張ったな。ありがとう」


 アムルはそれを愛おしそうに撫でると、カリュエヴァマはそれに呼応して、眩い光を放つ。


「バハル。お前には頼みがある」


「なんだ」


「記憶消去を行う際、俺はお前の記憶は消さない。万が一、記憶が戻って再び争いが起きようとするその時は、お前が止めて欲しい」


「俺が裏切るという考えはないのか?」


 バハルは鋭い眼光のまま、アムルを見つめた。アムルはフッと笑みを浮かべると、


「バハルは裏切らない。俺はそう信じている」


 裏切らないと言い切れる理由はいくつかあるが、今はそれを言っている暇はない。こうしている間にも、アムルの命は削られているのだ。術式が発動する前に死んでしまえば、この魔法は意味をなさなくなる。


「全く、甘い男だ。敵である俺を信じるなどと言うとはな」


 そう言いながらも、バハルは軽く笑みを浮かべた。アムルは長年の敵がこのような形とはいえ笑っている姿を見るとは、と心の中で呟く。


 アムルはカリュエヴァマの剣先を自身の心臓に向ける。

 この長年の戦争に終わりを告げる。戦争が起きない、誰もが笑いあって暮らせる日々が来ることを願ってーー。


  アムルはカリュエヴァマ突き刺した。


「ぐ、がはっ……」


 肺に血が溜まり、堪らずそれを吐き出した。

 それと同時に大魔法が起動する。真っ黒な雲に覆われていた魔界が白い世界に包まれる。人間界の天候は分からないが、まもなくそこも、白い世界に包まれるはずだ。


 薄れゆく意識の中で、アムルは閉じようとしていた瞳に映ったのは、


「さらばだ。アムル。安らかに眠るがいい。お前が命がけで守ったこの世界、俺が必ず守り続けてみせよう。もし、お前とまた言葉を交わせる時が来るのならば」


 この瞬間、アムルの意識は完全に途切れ、世界は記憶が書き換えられた。

この作品は、私が最初に構想を描いていた作品です。皆様に楽しんでいただけるように頑張ります!

(もちろん、他の作品も頑張りますよ!)

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