その6
しばらく歩いて、私たちはツイン学園の裏門に到着しました。
「さて、このあとは皆様、無事にご帰宅できますね?」
シルヴィア様がこちらをむき、笑顔のまま聞いてきました。
「ええ、それは、まあ」
私が言うと、アーサー様とエイブラハム様もうなずきました。
「いま、手元に武器はありませんが、自分の身を守る術くらいは心得ておりますので」
「オーガスト様以外の魔族なら、皆、基本的には私の命令を聞きます」
アーサー様の返事にエイブラハム様がつづき、そのままエイブラハム様が私たちのほうをむきました。
「それに、淑女の皆様は、帰りの馬車に乗るまで、私が責任を持ってエスコートいたします」
「ほう?」
アーサー様がエイブラハム様に目をむけました。
「ここにはシルヴィア様を含めて、淑女は四人もいるのだがな。全員のエスコートを買ってでる気か」
「――決闘の話はなくなったと思っていたのだがな」
エイブラハム様も、アーサー様に鋭い視線をむけました。
「それとも、やはり考えが変わったわけか」
「勘違いをしないでもらおう。べつに挑発したわけではない。この場にはこの私もいる。淑女のエスコートは私にも任せてほしいと言いたかっただけだ」
「では、私のことをお願いします!」
私はアーサー様の腕をとりました。驚いたようにアーサー様が私のほうを見ます。
「あ、あの、エイプリル様? 私でよろしいのですか?」
「ええ、それはもう」
「ですが、その。――ご存知でしょうが、私は、かつての魔王――」
と言いかけ、慌てたようにアーサー様がシルヴィア様のほうをちらっと見ました。
「様、と言ったらいいのか。とにかく、シルヴィア様の前世を倒した勇者の一族の血をひいておりまして。魔族の皆様は、やはり遺恨があるのではないかと」
「そんなものありません」
アーサー様の手をとったまま、私は笑顔で首を左右に振りました。
「とっくの昔に世界は平和になっているのですから。それに、昔のことに縛られていても、何もなりません。いまを楽しみましょう」
「いいお言葉ですね」
ほほえみながら言ったのはシルヴィア様でした。
「私も最初は少し悩んだのですけどね。そういう心境に至ってからは楽になりました。ほかの皆様にもそうあって欲しいものです」
シルヴィア様の言葉に、何故か、感心したような顔をするアーサー様たちでした。
「では、申し訳ありませんが、私はこの場から離れます」
言って、シルヴィア様が、少しだけ私たちから距離をとりました。
「実はいま、ちょっと連絡がきまして。今回のことは、きちんと上に報告しなくちゃならなくなったんです。少しの間、私は皆様の前からいなくなりますので」
「少しの間とは、どれくらいでしょうか?」
シルヴィア様の言葉に、私は少しだけ不安に思いながら訊きました。シルヴィア様が笑顔で私にむき直ります。
「これっきり、などということはありませんから安心してください。一週間もすれば戻ってきます」
シルヴィア様が笑顔で会釈をしました。
「それでは、ごきげんよう」
そのまま、シルヴィア様の姿がすうっと消えてなくなりました。
「行ってしまわれたか」
少ししてアーサー様がつぶやかれました。
「前世のことなど気にする必要はない、というのは、ご自分の経験があったからなのですね」
「立場上、私は見習うしかありませんな」
これはメアリー様とエイブラハム様のお言葉でした。言うだけ言ってから、おふたりが不思議そうに目を合わせます。
「あの、メアリー様?」
エイブラハム様が、言葉を選ぶようにしながらメアリー様にお声をかけました。
「いままでの経緯から思うに、メアリー様は、シルヴィア様と何かあったのではないかと私は推察します。ただ、私からは何も訊いたりはしませんので」
「ええ、そうしていただけると、私も嬉しく思います。もちろん私も、エイブラハム様には何も訊きません。過去のことよりも、いまのことですから」
「ええ、そうですね」
言ってメアリー様がエイブラハム様のお手をとりました。私たちがいるのに、気にしたふうもなく、幸せそうに見つめ合っています。
「おふたりは、正式にお付き合いなさるのですか?」
ここで質問してきたのはエリザベス様です。少し寂しそうに、それでも、おふたりのことを祝福するかのように見ていたのが印象的でした。メアリー様とエイブラハム様がエリザベス様に笑顔をむけます。
「エイブラハム様が告白してくださるのなら」
「メアリー様が許してくださるのなら」
「これでお決まりですね」
エリザベス様の言葉に、おふたりが笑顔を返しました。
「では、私もアーサー様と仲良くなりますので」
私もアーサー様と腕を組みました。驚いたように、それでいて困ったようにアーサー様が私のほうを見ます。
「あの、それは」
「アーサー様は、淑女に恥をかかせる気なのですか?」
私が聞いたら、アーサー様が慌てた調子で首を左右に振りました。
「そんな気はまったくありません! 紳士として、そして勇者の末裔として、断じてそんな」
「では、これでよろしいのですね?」
腕を組んだまま確認すると、アーサー様が少し赤い顔をして空を見上げました。照れ隠しで視線を逸らせたのかもしれません。
「勇者の末裔と魔族のカップルですか。周囲が驚くでしょうなあ」
「私、そういういたずらは大好きですので」
メアリー様とエイブラハム様は完全にお付き合いをする状態で見つめ合っています。そして私とアーサー様も。これでハッピーエンド。いえ、これから本格的な恋がはじまるのかもしれませんが。
ただ、ひとりだけ。エリザベス様が黙って立っておりました。まあ、彼女も、そのうち素晴らしい恋に出会えるでしょう。




