その3
2 アーサー・レッドフィールド
「本当なのですか?」
「ええ、本当です」
呆然としながら質問する俺に、あっさりとシルヴィア様が答えた。相変わらずの笑顔である。俺にはその真意が読みとれなかった。
「ああ、べつに、何かしようと思ってここにきたわけではありませんから」
またもや俺の心を読んだらしく、シルヴィア様が笑顔のままで手を左右に振った。
「私は、ただ、あなたのアフターケアにきただけなんです。覚えてますか? あなた、あのあと、魂を迎えに行った私にこう言ったんですよ。俺は絶大な力を持った上級魔族のはずだ。その俺がこのまま消滅するなど、あってはならない。俺はほかのものが持つことのない、最強の力を持って生まれ変わらなければならんのだ」
言って、シルヴィア様が俺を見つめた。仕方がないので、その場で少し考えこむ。――いや、そんな記憶はない。
「ああ、やっぱり、このへんのことは、もう少し時間を置かないと思いだせませんか。皆さん同じですねえ」
考える俺を見ながら、シルヴィア様がつぶやいた。なんだかずいぶんと慣れた感じである。ほかの場所でも似たようなことをやってきたらしい。
「とりあえず説明します。あのとき、あなたは魔王を倒した勇者のひとりに殺されました。休戦協定を守らなかったんだから、これについては自業自得なんですけど。ただ、そのあと、私があなたの魂を迎えに行ったら、さっき言った調子で不平不満を並べだしまして。それで、仕方がないので、魔界まであなたの魂を連れていったんですよ」
「は? 女神のあなたが魔界へ行ったのですか?」
訳がわからずに聞き返す俺に、シルヴィア様がうなずいた。
「休戦協定のおかげで、もう、天界と魔界って、そのへんは普通にやりとりしてましたからね。それで、私はあなたの魂を魔界の元老院に預けようと思っていたんです。魔将軍フレイザー家の跡継ぎあたりで生まれ変わるのがいいんじゃないかって思ってたんですけど」
「え、ちょっと待ってください」
俺はシルヴィア様の説明をさえぎった。いま、何かとんでもない言葉がでてこなかったか?
「魔将軍フレイザー家というと、俺が昼間、ツイン学園で会った、あのエイブラハムのことですか?」
「そうですが?」
「――すると、俺は本来、あの男に生まれ変わるはずだったのですか?」
「あー、それはちょっと違います」
笑顔のまま、シルヴィア様が手を左右に振った。
「いまのは本来の予定がどうとかじゃなくて、私が個人的に、フレイザー家の跡継ぎがいいんじゃないかなって思っただけです。元々のあなたは上級魔族だったんだから、それ以上の力を持つ、魔将軍の血筋に生まれ変われたら、願いも叶って万々歳だったでしょうし」
「とんでもない!」
俺の声は、自分で聞いても悲鳴のようだった。
「こここの俺が、魔将軍などと」
「あ、そうか。前世のあなたなら喜んだんでしょうけど、いまは違いますからね」
たぶん蒼白になっている俺を見ながら、シルヴィア様が話をつづけた。
「で、とりあえず、あなたの魂を魔界まで持っていったんですけど、元老院はあなたの魂の受けとりを拒否しました。宰相のバイロン様に、何か考えがあるらしくて。魔将軍フレイザー家の跡継ぎの魂は、べつのものを使うって言ってましたね」
「そうだったのですか」
俺はほっとなった。で、それが昼間のあいつなわけだな。それにしても、上級魔族の魂ではなく、べつのものを使う、か。奴の前世は想像もできぬ程の大悪党だったのだろう。ひょっとしたら、かつて倒された魔王の生まれ変わりなのかもしれない。
「まあ、そのへんのことに関しては、私は何も言えないので。好きに想像してください」
考える俺を見ながらシルヴィア様が言う。なんだかさっきの笑顔と違い、苦笑しているように見えなくもなかった。俺は何かおかしな表情でもしていたのだろうか?
「話をつづけます。そのあと、あなたの魂をどうするかってことで、天界でもちょっとした会議が起こったんですよ。それで、休戦協定があるから、過去の因縁は洗い流そう。そもそも、その上級魔族は殺されたのだから、極刑を受けたも同じだ。したがって、いままでの罪はなかったものとする。最強の力を持って生まれ変わりたいという願いは叶えてやるべきだ。それで、前世と同じレベルの強さを持ったものと言うと、何がある? ちょうど、魔王を倒した六大勇者の、レッドフィールド家で、新しい子宝が。あ、じゃ、それがいいんじゃないかって感じで話が進みまして」
「ちょ、ちょっと待ってください」
シルヴィア様の説明を中断させるようで申し訳なかったが、俺は声をださずにはいられなかった。




