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実は、あなたの前世のことなんですけどね  作者: 渡邊裕多郎
第三章
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その1

 

 

        1 アーサー・レッドフィールド




「お帰りなさいませ、アーサー様」


 ツイン学園の講義も終わり、ロボット馬に乗って帰宅した俺を、ホムンクルスのセバスチャンが出迎えた。


「本日はいかがでしたでしょうか?」


「愉快なことと不愉快なことの両方が起きた」


 言いながら、俺はセバスチャンにロボット馬の手綱を渡した。手綱を受けとりながら、セバスチャンが不安そうな顔をする。


「質問をよろしいでしょうか?」


「質問より先に言っておこう。愉快なこととは、美しい淑女の皆様と知り合いになれたことで、不愉快なこととは、気に入らん奴と明日も会わなければならないことだ。とりあえず、ロボット馬を納屋に連れて行ってくれ。それから、今日は少し強めに剣の稽古に励みたい。あとで相手を頼む」


「わかりました」


 セバスチャンが一礼し、ロボット馬を納屋まで引っ張っていった。それにしても決闘か。あのエイブラハムという男は魔族だからな。正々堂々とした態度をとってはいたが、実際は何をするのかわかったものではない。明日は油断せず、徹底的に叩きのめすとしよう。昼間は俺も少し冷静さを欠いていた。あれでは足元をすくわれる。


 そのまま屋敷に上がり、俺は自分の部屋に入った。


「お待ちしておりました」


 澄んだ声がした。俺の屋敷の人間のものではない。なんだ? 俺は声の聞こえたほうをむいた。


 驚いた。ツイン学園で知り合ったシルヴィア様が、俺の部屋の中央に立っていたのである。


「これはどうも」


 とりあえず俺はシルヴィア様に会釈をした。


「申し訳ありません。家の者が伝え忘れたようで知りませんでした。お客人としてきていらっしゃったとは」


 言いながら、俺は頭のなかで首をひねった。夕刻、俺はロボット馬に乗ってまっすぐ家まで帰宅した。その途中、淑女の乗った馬車に追い抜かれたような記憶はない。先を越されるということはないはずだ。それに、客人は応接室へ招くように言ってある。なぜ俺の私室にいるのだ?


「あー、何を考えているのかはわかります」


 不思議に思っている俺に、シルヴィア様が笑いかけた。そのまま近づいてきて、おもしろそうな表情で話しだす。


「実を言うと、時空縮地の法というのがありましてね。私は、それでアーサー様より先に、この家にお邪魔したんです。それから、正式に正面入口からこの家に入ったわけではありません。この家で働いているホムンクルスの皆さんは、私のことに気づいていないはずです」


「――なんですと?」


 シルヴィア様の言うことが、俺にはよくわからなかった。それだと、シルヴィア様は、俺の家に勝手に押し入った賊ということになってしまうのだが。


「まあ、そう思われても仕方がありませんけどね。どうしても、ふたりきりで話し合いたいことがあったんです」


 驚いたことに、シルヴィア様が返事をした。俺は頭のなかで考えただけなのに。


「何か魔法でも使っていらっしゃってますか?」


「そんなところです。できれば神の御技と呼んでいただきたいものですが」


 笑顔で言ってから、シルヴィア様が、右手を自分の胸にあてた。


「昼間はきちんと言っておりませんでしたね。私は女神の眷属なのです」


「――は?」


「ですから、女神の眷属なのです」


「なるほど」


 聞き間違えではなかったらしい。少し考えてから、俺はシルヴィア様が立ちっぱなしだったことに気づいた。


「これは失礼を」


 俺はシルヴィア様に背をむけ、勉強机のそばにあった椅子を手にとった。あらためてシルヴィア様のほうをむく。


「どうぞ、こちらに」


「ありがとうございます」


 シルヴィア様が腰かけるのを見てから、俺も自分のベッドに座りこんだ。


「淑女の言葉を頭から否定するのは失礼かと思いますが、やはり、シルヴィア様が女神の眷属という話は、ちょっと信じられません」


 なるべく角が立たないように気をつけながら、俺はシルヴィア様に話しかけた。


「そもそも、シルヴィア様が女神の眷属だというのならば、昼間、ツイン学園で会ったエイブラハム殿やエイプリル様とは、俺以上の旧敵ということになりませんか? むこうもシルヴィア様が女神の眷属だと気づかないのはおかしいでしょうし」


「休戦協定があるので、旧敵にはなりません」


 笑顔でシルヴィア様が否定した。


「それに、エイプリル様もエイブラハム様も、私のことには気づいていましたよ? そのうえで、私が女神の眷属だということを黙っていてくれたのです」


「あ、そうだったのですか」


 俺は驚いた。――おそらく、休戦協定以降、天界と魔界の間で、いろいろと取り引きがあったのだろう。そう考えれば筋は通る。シルヴィア様が女神の眷属だという話が真実だと仮定して、だが。


「真実なのですけれど」


「俺もそれを信用したいと思っています。ですので、もしよろしければ、いくつか、神の御技を見せていただけませんでしょうか?」


「あなたの心を読むだけでは不満ですか?」


 と、逆に俺は聞き返された。そういえば、俺はまたもや心を読まれている。対魔族用に思念閉鎖の法を修得したはずの、この俺がだ。これはもう黙るしかないではないか。


 おそらく渋い顔をしているだろう俺に、シルヴィア様が微笑した。


「いまのは冗談です。実は今日、私はあなたに伝えなくてはならないことがあってきたのです。こちらのほうが、神の御技としては説得力があるでしょうね」


「ほう?」


 興味のある話である。俺は少し乗りだした。


「その神の御技とは、どのようなものなのでしょうか?」


「実は、あなたの前世のことなんですけどね」


 笑顔で言いながら、シルヴィア様が右手を上げた。何をするのかと思う俺の顔に、その手のひらをむける。


「では、思いだしていただきます」


 シルヴィア様が言った瞬間、俺の脳裏に、過去に経験したことのない、それでいて、確実にやったことのある、あってはならない記憶が一気に蘇った――

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