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序章
「そろそろ行こうか。」
鉛のように重いバッグを持ち上げ、ゆっくりと立ち上がる。一体何が入れてあっただろうか、それも思い出せない。
暫く間を空けて、奥の物陰から少女の快活な声が響き渡った。返事が少し遅すぎないだろうか。音速とは何だったか。
「おっけー。にしても、また随分廃れちゃってるねー、ここも。」
休憩がてら座っていた小高い丘から臨む「かつて東京と呼ばれていた場所」を見下ろしながら彼女が言う。
随分と言うと語弊があるかも知れない。もはやその土地は、原型すらも留めていなかった。
「そうだね。次はもう少し北に行ってみよう。何かあるかも知れない。」
私が使い物にもならない地図を片手に提案すると、彼女は大袈裟過ぎるほどに頷いた。
今は二一五〇年。人類はみだりに科学を発展させすぎたあまり、資源は枯渇し、町は廃れ、多くの命が枯れた。
私たちは北を目指して歩き始める。
これは、私ともう一人の少女が世界の終末を生きる物語。