怖がるクリス
済みません、遅れました。
いかがでしょうか?
9話です。
まだまだ夏休みは続く。この休みにすることと言えば、クリスの世話(+手作りご飯の味見)と自分の宿題と趣味ぐらいだ。
今日は予定もなく一人だからのんびり過ごせれる……と思っていたら、クリスから連絡が来た。見ると、help me! の一文だけが書いていた。
僕はえっ!? と思い、慌てて彼女のアパートに向かった。
暑い日差しの中を通り抜け、ピンポーンと鳴らしと、ちょっと待ってという声が聞こえて来てガチャと鍵を開ける。
「どうしたクリ……」
そして彼女はすかさず僕の懐に飛び込んで来た。僕は拍子抜けして、頭の中が混乱した。彼女は震えている。彼女に一体何が?
「おい、クリスどうした?」
「……出たの」
「出たって何が? お化けか?」
「No! あれよ……」
部屋の中を見ると何もいない。エアコンが効いてただ涼しいだけだ。
「何もいないが……」
「……隠れたのね」
彼女はホッとしている。真ん中になにやらやしの木の柄が入った白のTシャツに下はカラフルなミニのスカートを穿いていた。足は素足だった。
僕は部屋の中に入り、座卓近くに座った。
「やっぱり日本のcoc……は大きいわね……」
「?」
そして彼女は部屋に入ると、僕の近くにちょこんと座る。
近い……。
「どうしたんだクリス? 何があった」
「だからその……」
彼女は目を伏せがちにしながら何も言わない。気になってわざわざ来たのに、その理由を言わないのは如何なものかと不服に思いながらも僕は何も咎めなかった。
「とりあえずお茶を入れてくれないか?」
「……あぁ、そうね」
そう言って彼女は台所に向かう、僕の腕を引っ張って……。
「あの、クリスさん?」
「何?」
「腕を放してくれまいか?」
「それは出来ない相談ね」
「なぜ?」
「……」
全然答えないなーっ。僕は半ば理由を訊くのを諦めた。さて温かいお茶が入ったので飲む。うむ、玄米の芳ばしい味がして美味いな~、としみじみいる一方で落ち着かない人物が一人いる。
僕は諦めかけた気持ちから切り替えて訊いてみた。
「いい加減、ここに呼んだ訳を話してくれないか?」
「でも……」
彼女は眉をひそめる。僕はため息を漏らす。仕方ないもう少し待つか……。
「……の」
彼女は小さい声を出す。
「何だって?」
「……出たの」
「え? 何が?」
「co……」
「こ?」
「co……kr……」
「???」
声が小さくて全く聞こえない。
そしてしばらく待ってみたが特に変化はなくやることもないから正直飽きてきた。
「帰る」
「え!?」
彼女はかなり不安そうな顔になった。
「だっていても仕方ないし」
「駄目よっ! 帰らないで、お願いっ」
「しかし……」
部屋にいても何も起こらないし……。
「帰らないでっ! お願いっ。わ、私何でもするからっ!」
僕の頭にその言葉がよぎる。
──何でもするからっ
何でもって、あの何でもですか? クリスさん?
「な、何よ? 何か変な目になっているわ……?」
「いや、別に?」
なんかこいつ二、三歩下がったんですが、なぜでしょうか?
「もう、分かったわ。もう帰るなら帰ってよ!」
「あ、おい……」
彼女は怒りいきに僕を部屋から出し、バタッとドアを閉めた。
ったく。何なんだ? と思いながら、少し部屋の外で時間を潰していると、
「キャアアアアアーー」
大きな声が部屋から聞こえた。
「どうしたクリス!?」
「優司ーーー!」
彼女はガッとまた僕に抱きついた。力一杯服を握るから少し痛い。
「あれ……」
彼女の指し示す方を見ると、黒い物体がいた。
ゴキブリだ。
「何だ、ゴキ……」
「その名前を言わないでよ!! 噂してまた出てきたらどうするのよ!?」
なるほど、だから言わなかったのか。まぁそれよりも、
「新聞貸せ」
「え?」
「新聞」
彼女が愛読しているジャパンタ○ムズを借りて、そいつに近寄った。
「危ないわっ優司っ! 離れてっ!」
そして僕は直ぐさまバシッと倒しゴミ箱にペッと捨てた。
「よし、終わったぞ」
僕は彼女にそう言ったが、彼女はペタンと両ふくらはぎを外側に向けた状態(割座)で座っていた。
「どうかしたか?」
「腰が抜けたわ……」
どんだけビビってんだこいつ……。
「ほら、立てるか?」
「あ、ちょっと待って……」
そして彼女をなんとか立たせたものの、ペロンとスカートがめくれてパンツが見えていた。
「……」
僕は白色のパンツなんか見ていない素振りをしながらよそを向く。
「じゃあ用も終わったし、もう帰るから」
「え!?」
彼女は驚いた顔になる。
「え? もう終わったじゃないか?」
「だってco……cockroachは1匹見かけると、30匹はいるって言うし……」
イギリスでもそういう話はあるのか?
「けどそんなの気にしていたらきりが無いぞ」
「……」
彼女はスカートの裾を握りしめる。まぁ、僕がこのアパートにずっといる訳にもいかないし頑張ってくれ。
「分かったわ……」
「それじゃあ僕は……」
「今日だけで良いから一緒に寝て!」
「は?」
「お願い、頼れるのは優司だけなの!」
えーーー!???
そして僕は仕方なく親に連絡し、一日だけ彼女と一夜を共にする。
夜になり寝る準備をしたが、僕がここに寝る想定なんてしてないので、もちろん一人分の布団しかない。
「どうするんだよ?」
「……」
彼女はもう着替えた桜色基調のパジャマのズボンの裾を握りしめる。
「やっぱり帰るよ」
「あ、待って!」
「え? でも……」
「一緒にこの布団で寝ましょう」
まじか。そして僕は彼女と一緒の布団に入る。
何か緊張するな~。幼馴染みとは言え、年頃の女子と寝るなんてなーっ。
「優司?」
「ん? 何だ?」
「起きてるんだ……。大分落ち着いたとはいえ、なかなか寝れなくて……」
「そうか……」
「あのさ、覚えてる?」
「ん? 何だ?」
「子供の頃一緒に寝たこと」
「え? いや……」
そんなことあったか?
「あったわ。そこで貴方にこう言われたの『クリスはどうして金色の髪なの?』って」
「……」
「私はこう答えたの『ママが金色だからよ』って。そしたら貴方どう答えたと思う?」
「いや?」
「『じゃあ、クリスの子供も金色だね』って」
「……」
「そしたら私は『貴方の子供は何色かしら?』と訊いたら、貴方ったら『うーん、金色かなーっ』って答えたのよ」
え? そんなこと言ったのか!? 覚えていない。一体どういう意味で言ったんだ?
「その時、私はかなりドキッとしちゃったわ」
「そうか。……ん? 何でクリスはそこでドキッとしたんだ?」
「分からない?」
彼女の方を見ると、綺麗で真っ直ぐな眼差しをこっちに向ける。僕はなぜかドキッとして目を反らした。しばらく無言が続く。
「……」
「……」
「あ、それよりその時の理由は僕に訊いたのか?」
「それは……ね」
「……」
「……」
「……」
「……zz」
「!?」
見ると彼女は寝息をたてながら落ち着いた顔つきで寝ていた。こいつ……、こっちは気にしながらなかなか寝れないというにーーっ。
翌朝起きてみたが案の定寝不足だった。
「おはよう」
と言いながら、彼女はご飯を作っていた。めっちゃ和風の料理で、食べてみると大分日本風の味つけになっていた。
「これなら合格ラインだな」
「そ、そうかしら?」
彼女は照れる。顔色も良くなったし、調子は戻ったみたいだな。それより昨日の話が気になる。
「それよりクリス……寝た時に話した内容なんだが……」
「それより一緒に寝たこと誰にも言わないでね?」
「え? あぁ、そりゃあな……」
言ったら周りに何を言われるか……。
「そうしないと、想像妊娠しちゃう」
「は?」
「日本にもあるんでしょ? そういうphraseが」
「あるけど……、それは……」
「相手は優司しかいないし、初夜を共に過ごしたから責任とってね?」
いや、何でだー!?
(そして家に帰るとなぜかその夜は赤飯だった)
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ブックマーク、評価頂き励みになります。
感想もありがとうございます。