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ゆりかごの比喩表現

日本語表現に関することです?


7話です。

「夏休みだーー」

「わーい」


 とはいえ夏休み早々、クリスはなぜか僕の部屋にいる。しかも肩が見える白のウールの服を着ている(兼ミニスカート)。


「クリス、何で僕の部屋なんだ?」

「文章で分からない所があれば教えてほしくって」

「……なるほど」

「日本語の言い回しで分かりにくい時があるから」

「そうか、分かった」


 という訳でクリスは僕の部屋で()()()()小説を読む。


「優司、これ読んで」

「『君は俺にとって楽しく生きる源だ。君なしでは生きていくのが辛い。だから一緒にいてくれ』」

「どういう意味かしら?」


 彼女は目をきらきらさせて僕の目を見る。


「だから、ヒロインが主人公の楽しく生きる源なんだろ?」

「その言葉の言い回しが分かりにくいのよね~」


 彼女はにやにやしながら僕を見る。本当に分かってないのか、こいつ? とはいえ説明となると確かに難しい。


「楽しく生きる為の精神の根底……と言えばかえって難しいな。うーん……」


 僕は分かりやすい表現を考える。国語辞典で『源』を調べたりする。


「『源』は水とかの流れ出る元の意味だから、楽しく生きることがまるで“こころ”から溢れ出てくるようなイメージだな」

「あー、なるほど……。やっぱりEnglandに長くいたせいか、日本語感覚が鈍るわね」

「まぁ、そうだな」

「じゃあ、意味が何となく分かった所でもう一度読んでみてっ」

「いや、もう意味が分かったんだから自分で読めよ」

「これは男の人の台詞なんだから、男子が読んでくれる方が理解しやすいわ」

「きみはおれにとってたのしくいきるみなもとだ……」

「むう。心込めないと入ってこないわ」

「君は俺にとって楽しく生きる源だ。君なしでは生きていくのが辛い。だから一緒にいてくれ」

「キャッ。良いわね~。もう一回」

「え? やだよ」

「もう少しで感覚まで理解出来そうだったから、もう一回。お願いっ」

「君は俺にとって楽しく生きる源だ。君なしでは生きていくのが辛い。だから一緒にいてくれ」

「うふふ~~。そこまで言うなら仕方ないわねー。居るわっ!」

「小説の話だろ?」

「小説の話よ?」


 本当かよ……。

 さて僕は漫画を読んで、クリスは小説を読み、のんびりと過ごす。


「優司ーっ」

「何だ~?」

「ここの表現どう?」

「何々~……」


『私は(いさみ)にとって唯一のゆりかごになれる存在になっていたようだ』


「これは……」


 どういう意味だ? さっぱり分からん。クリスを見ると、彼女は好奇な目でこちらを見てくる。


「分から……」


 はっと思う。ここで分からんと言えば、小馬鹿にされるかもしれん。


「いいか? これは比喩だ。分かるか?」

「えぇ、まぁ」

「私は“ゆりかご”なら、勇は“赤ちゃん”になる」

「まず、ゆりかごって何?」


 そこからか。


「赤ちゃんを寝かしつける時にゆらゆらさせるかごみたいなやつだ」

「?」


 クリスはいまいち分かってなさそうだったので、スマホで調べて見せる。


「I see! よく分かったわ。あ、それで赤ちゃんね」

「そうだ。それで……」


 いや待て。けど何でここで作者は勇を赤子という表現にしたんだ? なぜ他の表現にしなかったのか? ゆりかごとくれば、赤子になるのは必至。作者がそれを狙ったのは間違いない。ということはまさか……、


「……それで? 優司どうかした?」

「……ここの表現の意味をどうしても知りたいんだよな?」

「え? えぇ……」

「……そうか」

「?」

「クリス、横になって」

「こ、こう?」

「僕もクリスの方を正面にして横になる」

「えっ……」

「そして僕がクリスのお腹辺りにうずくまって」

「ん?」

「僕を優しくしながら、甘やかしてくれっ」

「へ?」

「さぁ!」

「えーーーー!?」

「そうしないと、この文章の比喩の意味が理解出来ないぞ!」

「ほ、本当にそういう意味なの?」


 コクン。


「わ、分かったわ。こ、こうかしら?」


 僕の頭辺りに彼女の豊満で柔らかい物体がむにゅっと当たる。おっ……。いや、我慢だ!


「そして赤ちゃんを甘やかすように僕を甘やかすっ」

「ほ、本当にそれで合ってるの~っ?」

「合ってる(はずっ)!」

「……優司がそういうなら」


 そして彼女は僕の頭を撫でたり、ポンポンと優しく叩く。


「よちよち優司君。よく頑張りまちたねー。偉い偉い。さぁ、ゆっくりおねんねしまちょーね~」


 これは……なんか悪くないな。安らぐ気持ちに……なる……。気持ちい……い……な……。


「マ、ママ~……」

「ふぇ!?」

「……はっ!」


 僕はバッと起き上がり、クリスから距離をとる。


「ま、まぁという感じだな!」

「そ…………か」

「……」

「……けどおかしいわね。文章の流れからそういう風には読めなかったのよねー」

「え?」

「ほらここ。『彼は仕事を終わっては家でぐったりする。そして彼は言う。仕事は戦場だから、お前のいる場所は落ち着く。(略)だから私は勇にとって唯一のゆりかごになれる存在になっていたようだ』」


 こ、これは……、


「安息の地の……比喩だな……多分」

「え?」

「だから、その~勇が落ち着ける唯一の場所みたいな意味……」

「なるほど! そういう意味……ね……」

「……」

「……」

「優司……」

「はい……」

「もう馬鹿ーーーーっ!!」

英語は出てこなかったので、書きません。

安息の場所が欲しいです。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

ブックマーク、評価頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] クリスは優司にとって安息の地......間違ってないような...... あと、優司がデレた......?
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