球技大会
6話です。
球技大会が始まった。この大会は2日かけて行われる。
僕はソフトボールで、クリスはバレーボールだ。
「優司はいつplayするんだっけ?」
「10:30くらいだったと思う」
「そうなんだ。頑張ってね」
「けど球技はかなり苦手だからな~」
「えー、そんなよ、弱……」
「弱腰な」
「そうそう。弱腰なのー?」
「うんー、そう言われるとなー」
「まぁ、けど人は得意不得意あるからねっ。無理しないで」
「一応、練習はしたから多少こましなはずだ」
「そか」
「あぁ」
「日本語だと~……そういうの『猿も木から落ちる』かしら?」
「それは全然違う」
「じゃあ、『恋に落ちる』は?」
「それはそもそもから違う」
「まぁ『それでも頑張るあなたが好き』よ」
「え?」
僕はドキッとする。
「それって……」
「という言い方が日本語表現にもあるわよねっ♪」
彼女はニコッと笑う。
「……」
「今もしかしてドキッとしたでしょ」
「してないっ」
「嘘だ~~。したでしょ?」
「うるさいっ」
「あはは~、したんだーっ」
「しつこいなー……」
そしてしばらくすると、うちのクラスの試合が始まった。まだ球技に出てないクラスの子達は炎天下の中に応援に来ている。
「プレイボール!」
わぁと試合が始まった。僕はあんまりボールが来ない3塁後ろ辺りにいる。
そして順調に試合が運び、ついに僕のバッターボックスに立った。
「優司ー、頑張ーー!!」
と皆の声援の中にまじりながら、かすかにそう聞こえてくる。光に反射して金髪の綺麗に輝く彼女が応援席にいる。
(応援されてちゃあ、頑張らないとなーっ)
僕はバットを強く握りしめ、ピッチャーを眺める。そしてボールが飛んできた。
カキーン。わぁーーー……。
「負けちゃったね」
「おう……」
「優司のは、えーと日本語でああいうの何だったかしら?」
「ファーストゴロ……」
「そそ、first ゴロ。すぐ取られちゃったね」
「……おう」
「まぁ、あなたのせいだけじゃないんだから、そこまで落ち込まないで」
「まぁ、そうなんだけど、少し凹むな~」
(折角クリスも応援してくれたのに……)
「まぁ、次は私のvolleyballの番だから応援してね」
「! まぁ、そうだな」
次は応援として頑張るとするか。
そしてしばらくしない内に、うちのクラスのバレーボールの試合が始まった。
「頑張れーー」
「頑張れよー、クリス~」
と応援するものの、うちのクラスはとにかく強い。敵を圧倒した試合だった。クラスに何人かバレー経験者がいて、クリスも頑張った甲斐あって準々決勝に進んだ。
そして一日目を終えた。
「まさか一日目残れたなんてなー」
「私もびっくりよ」
「それにしても日向さんは強いな~」
「何でも次期volleyballのaceみたいだから」
「そうなのか」
「それより優司、あなた応援の声小さいわ。私の名前が全然聞こえないじゃない」
「え?」
「もう少し大きい声で言ってよっ」
「えー、ちゃんと名前は言ってるけど……」
「じゃあ、もっと大きく言って」
「えー、それは恥ずかしい……」
「何それ~!? ちゃんと名前言ってくれないと、明日頑張れないかもしれないじゃない」
「んな、殺生な……」
「分かった? 明日私が頑張る為に言ってよね」
「えーー……、はいはい、分かったよ。言うよっ」
「じゃあ、私が頑張ってほしい時の秘密の言葉を教えてあげるっ♪」
「え? 何?」
彼女は僕の耳元で囁く。
「どういう意味だ?」
「それは大会が終わった後に教えてあげるわ♪」
そして二日目。
うちのクラスは二試合目に始まった。
「ふれー、ふれー、1年7組。ふれふれふれっ」
「頑張れー、1年7組ー」
僕も始めはそう応援する。しかし相手は3年2組。流石は強い、年季が違う。引退したバレー部が何人もいるそうだ。
うちのクラスも苦しい状況だ。
「頑張れー、1年7組ー」
「頑張れーー、3年2組ーーー」
流石は3年生、最後だから応援も頑張るなー。そして競技に視線を戻すと、試合中のクリスとほんの一瞬だが目がちらっとあった。
言うのか、あれを……。昨日の会話が浮かぶ。
『本当に頑張るんだろうな』
『もちろん♪』
すぅ~~、
「I'm always next to you , Chris!」
その時何人かの生徒からどよっとした感じが伝わった。何だー?? そうだクリスは……何か急に動きがきごちないんだけどーーっ?
おい、どうしたっ? 頑張れるんじゃなかったか!? くそっ、もう一回だ!
「I'm always next to you , Chris!!」
また数人がどよっとして、クリスの動きがおぼつかない。そしてボールが敵の方に行き、こっちにアタックが飛んで来て、クリスの方にボールが来る。
「クリス、危な……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「負けちゃったわー」
「怪我はしてないか?」
「こけただけだから大丈夫よ」
「そうか」
「それよりあなたがコートに入ってきたんだもの。びっくりしちゃった」
「なんか身体が勝手に動いてだなーっ」
「ふーん、そうなんだ」
家への帰り道、しばらく静かに歩く。
「……私のこと心配してくれたの?」
「え?」
彼女は上目遣いでこっちを見る。
「……それは」
「それは?」
「~~~~~」
「……」
「まぁ、『知らぬが仏』だな」
「えー、何よそれーーー!?」
「それよりクリスッ、I'm always next to youの意味教えろよ」
「えっ、それは~~」
彼女はもじもじする。
「?」
「やっぱ秘密!」
「あ、おいこらっ。待てってーっ」
“I'm always next to you”は“あなたの隣にいつもいるぞ”の意味でしたー。
意味が分かって叫んでいたら、優司はさぞ恥ずかしかったでしょう。