撫で撫で
またクリスの部屋に行きます。
羨ま~。
5話です。
夏休みだー、の前にまだ1週間ほど学校に登校する必要がある。
「テスト終わったからもう夏休みの気分だったわ」
「まだ学校だぞっ」
「oh, no……」
「さて日本語の勉強始めるぞ」
「分かったわ……」
「どうした? やけにやる気なさそうだな」
「テスト終わってまだ1日しか経ってないわよ」
「じゃあ、今日はやめるか?」
クリスはうーんと考えて、
「じゃあ、私を労ってみて」
「えー、何でだよー?」
「難しい日本語を頑張って勉強した私を労るのはあなたの役目よ」
机にもたれて上目づかいでこっちを見る。
(こいつ、ちょっと難しい言葉を)
「はいはい」
僕は彼女の綺麗な金髪の頭を手でポンポンと優しく叩いた。
「ちょっと、何今の?」
「え? 何って労ったつもりだけど」
「……もう一回やってみて」
「え? こうか」
「……そうね。次は撫でてみて?」
「えっ、何で……」
「あー、もう少しで元気出そうだったのにーっ」
「ったく……」
僕は彼女の頭を撫で撫でした。
「もう良いか?」
「もう少しっ」
「もう良いか?」
「もう少しっ♪」
「……」
「『良い子、良い子』って言ってみて」
「……良い子、良い子」
「うふふっ、良い感じね」
そしてしばらく撫でてると、
「よし、元気になったわっ!! やりましょう勉強!」
ということになった。
(はぁ、良かった)
とはいえ、(教材にしてもよい)読みたい本が彼女のアパートにあるという訳で、まずは帰ることになった。
「わざわざ学校で労らなくても良かったのでは……」
「そんなことないわっ。大事なことよ?」
そうかな?
「ところでクリス。また恋愛小説ではなかろうな?」
「え?」
彼女はぎこちない歩きになる。
「またかー」
「だ、大丈夫よ。次はそんなにromantic過ぎる内容じゃないから。lightよ、light」
「本当かよ~?」
「えぇっ」
そして彼女の部屋に入り、座卓の近くに座る。彼女の部屋は一見すると、普通の部屋だが、細かくみると日本らしいグッズが散りばめられている。
クリスは日本と英国とのハーフで半分は日本人の血が入っているからか、純日本人じゃないからか、物凄い日本が好きだ。こっちに帰って来たのもそのせいだろう。
「お茶置いとくわねっ」
「お、ありがとう。……あっつ!」
「ふふ、そんな慌てなくて大丈夫よ。それでさ~、その小説はとても面白くてさ~、あれ? どこに置いたかしら?」
「何だ? 見つからない……のか!?」
スカートが短いから、その~……あれがチラッチラッと見える。そして僕はバッと急いでよそを向く。ジェントルマンですから? ピンクなんて見てないですよ? ごそごそいう音が気になってチラッと見る。見えてます。お尻の型に少し食い込んだピンクの可愛らしい布がっ。ちろちろっと目が動く。
「あったわー。やっと見つかった。……どうしたの? 変な目になってるわよ?」
「いや、別に?」
彼女は不思議そうな顔をしながら座卓に来る。
「この本なんだけどっ」
「なにー? 『あなたの心が揺れる時』?」
「そそ。眞衣ちゃんに進められたの」
「ふーん、どれが分からない?」
「ここなんだけど……」
なになに、『雄一は彼女と一緒にいられてとても幸せな気分になり高揚した。』
「これは高揚だな」
「どういう意味?」
「気分が上げ上げになった、みたいな感じかな?」
「なるほど……じゃあ、ここはどういう意味?」
『雄一はまるで気持ちの中に沈んでいくように……』
急に暗くなったな。雄一に一体何があったんだ? その前後ぐらいの文章から僕は読み始めると続きが気になってなかなか面白い。ペラペラと先を読んでいると、
「優司……」
「え?」
「今開いているページはさっきの文章とあまり関係ないんじゃないの?」
「あ、いや……えーと、そのどこだっけ? 『雄一は彼女を勇気を振り絞って誘った』だっけ?」
「あっ、もーー、私がまだ読んでない所じゃなーーいっ」
僕はつい先読みしてしまい、クリスに喧々と怒られた。
「全くもうーっ」
「悪い悪いっ」
「これはお仕置きが必要みたいねっ」
「え?」
「さ、目をつむって」
「いや、それは……」
「そうしないともっとヒドい目に遭わせるから」
ため息をはき、僕は仕方なく目をつむる。何でそんなことしないと……、ん? 髪に何やら柔らかい感触が……、
「……you always take care of me , thank you~♪」
「……」
僕は優しく心地よいこのお仕置きをしばらく受けることにした。
翌日。
「あら、優司。今日は勉強しないの?」
「だって、お前。今日の放課後から練習しないと」
「何の練習?」
「さぁ、クリスちゃん。バレーの練習に行きましょ」
「え? What?」
だってお前、数日後にはあれがあるんだぞ、クラス対抗の球技大会が。
“you always take care of me.”は“貴方はいつも私を世話をしてくれる”という意味です。
知らなかった人はもう一度読んでみて下さい。




