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3/18

I'm into you.

今日は市内散策という名のデートです。


(済みません、少し変更です)

3話です。

 今日は休日だ。日本語を教えなくて良いからゆっくりと出来る……訳もなく。


「早く行こうよ、優司!」

「はいはい」


 クリスに市内へ連れて行かれている。理由は昨日の帰り道、


「え? 市内を歩きたい?」

「そうよっ」

「なんで、また……?」

「久しぶりに日本に戻って3ヶ月経つけど、やっぱりこの町も含め忘れている所もあるわ。『こんな所会った』なんてよくあることだもの」

「ふむ……なるほど?」


 しかし折角の休みだ。家出ゆっくりとしたいものだ、と思っていると彼女は僕の肩を軽くちょんちょんと叩く。


「ん?」

「お願い、優司。あなたにしか頼めないの」


 うるっとした目をこっちに向けて、可愛い表情で頼まれたら断れないじゃないか。


「……はぁ、いいよ」

「やたっ」


 しかしその後に何やら彼女はボソボソと低い声で言う。


「本当は優司から……gentlemanなんだか……草食め……」

「え、何て?」

「何でもないっ、さ、明日があるから早く帰りましょ」


 ということがあって、今電車で市内に向かい到着する。


「わあ、相変わらずの市内ねっ。懐かしい。あまり昔と変わってないわー」

「まぁ、小学3年までいたから、えーと何年だ? 9歳だから……」

「6年間Englandにいたの」

「そうか。もうそんなになるか」

「えぇ」


 彼女はそう懐かしむように言い、僕は彼女のその声に気持ちが揺れ動く。そしてふっと息をはき、


「じゃあ、久しぶりだから色々案内するよ。歩こうかっ」

「! えぇ」


 そして僕達は市内を散策することにした。居酒屋、喫茶店、不動産屋、様々なお店が建ち並んでいる。


「あれ? ここって、こんな有名な塾だったかしら?」

「いや、昔は地元の個人塾だったけど、今やそれに変わってしまったな」

「そっか~」


 そしてしばらく歩くと、城址公園に着く。


「久しぶりねー。お父さんとここによく来たものよーっ」

「そうなのかっ」

「お父さんったら城好きだから」

「そうだったのか」

「えぇ、UKの城巡りとかしたわ」

「まぁ、公園としても市内でここまで広い敷地の場所はないからなー」

「えぇ、そうねー」


 木々は揺れて木陰は動き、鳥のさえずりを聞いて僕達はベンチに座る。


「あー、落ち着くなーっ」

「あ、そうだっ。そろそろlunchの時間ね」


 とそう言った彼女はパンと手を叩く。


「しかしここから店屋って近くにあるか?」

「大丈夫よ。実は、ほらっ。弁当持ってきたわ」

「え? 本当に?」

「えぇっ」


 彼女は肩にかけていた鞄から二人分の弁当を取りだした。


「なんかpicnicみたいね♪」


 彼女は楽しそうに鼻歌を歌いながら準備をする。

 さて、どんな料理か……、は!? とあることに気づく。

(英国料理と言えば世界一不味いで有名じゃないか! だ、大丈夫かな~……)


「はい、優司どうぞっ」

「あっ……」


 見るとサンドイッチだった。


「サンドイッチ……」

「そう、イギリスの料理の一つのサンドイッチよ」


(そうか……。サンドイッチも英国料理だったな)

 僕は少し不安に感じていた気持ちを払拭した。


「食べてみるよっ」

「うん!」

「いただきま~す」


 見た目は肉の燻製と野菜とチーズとイギリス風な感じがしたが、そのままがぶっと食べてみると、チーズがあるから濃いかなと思ったが意外にあっさりしている。バランスかもしれない。


「うん。美味しいー」

「良かった~~」


(何だーっ。英国料理いけるじゃないかーっ)

 僕はむしゃむしゃ彼女のサンドイッチを美味しく食べていると、


「こういうのもあるわよ」

「ん?」


 その料理は円形のパンみたいな生地におもむろに魚の顔が飛び出ていた。いや、魚がこっちを見ているんだけど!


「stargazy pie (スターゲイジー・パイ)と言ってUKでは有名な料理よ!」

「……」


 見るからに美味しくなさそうだった。急速に食欲が下がる。パイ……なのか?


「一番力を入れて作った料理だから。はい、食べてみてっ」


 あまり食べたくないが、唯一の救いだったのは大きさが小さかったことだ。とりあえず食べてみた。

 ず~ん。美味しくない……。


「ど、どう?」

「え? うん。個性的な味だね……」

「美味しくない?」


 彼女は不安層にこっちを見る。止めてくれ、見ないでくれっ。どう答えたものか……。


「に……」

「に?」

「日本人には合わない……かな?」


 しばらくしーんとなった。そして僕はチラッと彼女の方を見ると、小刻みに震えていた。

(え、泣いてる?)


「え、大丈……」

「……忘れてたわ」

「ん?」

「始めてEnglandで食べた時のことを」

「え?」

「慣れてて忘れてたけど、……不味かったわね……」

「……」


 そして彼女は一人しばらく俯いて、一つの決心をしたみたいだ。


「私、日本の料理の勉強をするから」

「お、おう……」

「味見審査宜しくね!」


 がっと僕の手を握る。えーー、クリスの面倒がまた一つ増えたーー!!


「美味しかったら構わないけど……」


 と僕は帰り道にぶつぶつ一人呟いていると、


「そういえば今日は日本語教えて貰ってないわねー」

「……まぁ、今日は市内散策だったからなー」

「……そうね」


 彼女はうーんと言いながら歩くと、


「じゃあ、お返しで英語を教えてあげるわ」

「え?」

「『I’m into you.』って言ってみて?」

「ん? どういう意味だ?」

「うーん、『あなたを喜ばす』みたいな意味かしら?」

「ふーん、そうなのか? じゃあ、I'm into you」


 そしたら急に彼女は顔を赤らめもじもじし始めた。


「も、もう一回言ってみて?」

「I'm into you」

「ウフフ~、良いわね。もう一回」

「I'm into you」

「キャッ」


 彼女は一人で盛り上がり、笑顔でこっちを見て英語で言う。


「Thank you!」

“I'm into you.”は“あなたに夢中です。”という意味だそうです。

もう一度読み直すと面白いかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] イギリスの料理まじ不味いんだよなぁ
[一言] 可愛いじゃねぇか(ボソッ いつか逆に日本語を教えられそう......月が綺麗ですねとか!!(主人公がその真意を知らない前提) 可愛いじゃねぇか(大事なことなので二回言いました)
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