ショッピングセンター
不定期で済みません
少しケンカします
12話です
先月末に悪戦苦闘したクリスの宿題をなんとか終え、夏休み明けて早々校内テストが始まった。
(僕はまだ余裕だが……)
クリスの方をちらっと見たら、各テスト時間の後半になると案の定机に項垂れている。
(まぁ、あの山のような宿題を終えてテストじゃあしんどいわな)
僕も今回に関しては赤点を取らない限り、細かくは言わないことにしている。
そして二日間のテストを終え、2学期が始まった。
「小山ーっ」
僕の名前を呼びながら一人の男が明るく僕に近づいてくる。久しぶりに見る顔だ。
「一色」
なんか久しぶり過ぎて少し戸惑ってしまった。
「どうかしたか? 夏休みボケで親友の顔を忘れたか?」
「はは、まさかっ」
そうだよ、まさかまさか。顔は覚えていたさ。
「夏休み何かしたか?」
「いぃや、ずーっとクリスの世話だよ」
「藤澤さんの世話ねーっ?」
一色はなにやらニヤニヤしている。
「あんだよ?」
「例えばどんな世話をしたんだよ?」
「例えばー、ってそりゃあ宿題見たり、あいつが作るご飯の味見したり、一緒に図書館行ったり」
「ふむふむ、なるほどねー」
相変わらずニヤニヤが止まらない。気持ちの悪いやつだ。
「な? 世話しているだろ?」
「小山君……君は何も分かってないなーっ」
「は? 何をだよ?」
「君の中では藤澤さんのお世話をしているかもしれない。しかし世間はそうと認めてくれるだろうか」
「な、何でだよ?」
「いいかい? まぁ、宿題を見るのは世話のうちかも知れない。しかしだ、彼女の手作りご飯を食べたり、一緒に出かけたりするのは果たしてお世話と呼べるだろうか」
「……」
「つまりそういうのは一般的にデートと呼ぶぞ」
「! いや……デートでは、断じてない」
「なぜかな?」
「それは……」
確かにデートじゃないと言い切れる証拠が見当たらない。
「つ……」
「つ?」
「付き合っていないから……」
「……まぁ、それはそうかもしれないけど、付き合っていなくてもデートはするだろ?」
「え!?」
僕はハシゴから落ちる人のように驚いた。
「?」
「そ、そうなのか?」
「うん、まあね?」
「……」
「知らなかった?」
「……」
僕はあまりの思い違いに拍子抜けをする。
「そっかそっかー、小山君はこの夏休みを有意義に過ごした訳だ」
「……」
「小山も一つ恋愛の勉強になったし良かった良かった。では、アディオスっ」
「あ……」
僕はもやもやしたまま授業を受けることになった。
そして放課後になり、いつものように日本語を教える。
「日本のテストって覚えることがあって大変よー、もう飲まないとおれないわっ」
そう言いながら、アップルジュースをごくごく飲む。
「……」
「どうしたの優司? 魂が抜けたような顔をして? 何かあった?」
「……え? いや、別に?」
「あっ、そうそう。今週の休みにshopping centerに行きたいんだけど、まだ広くて中を歩くの慣れていないから、一緒に来てくれない?」
「あぁ、構わな……」
──そういうのは一般的にデートと呼ぶぞ
一色の言葉がよぎる。
「一人で行くのは無理か?」
「What? どうして?」
「いや、いつも一緒にいちゃあなんか周りから付き合っていると勘違いされるだろ?」
「……何、私と一緒にいるの嫌なの?」
「いや、そういう訳ではないが」
「いいわ! shopping centerには一人で行くから!」
そして早々と荷物を片付けて、クラスのドアまで行き、クリスは僕に向かって叫ぶ。
「バーカ!!」
クラスは少しザワついて、それからクスクスと笑い声が聞こえた。
それからというものクリスはあまり口をきいてくれない。多少の必要用件と日本語の勉強以外は会話はしなかった。
そして休みになり、家でゴロッとする。
(暇だな……)
いつもクリスといる時間を作っていたから、それがいざ無くなるとかなり暇になるものだ。
「まぁ、くつろごうじゃないか」
僕は布団の上をゴロッとする。
「……」
(クリス大丈夫かな……?)
なんかしばらく考えていたら気になってきた。
僕は外服に着替え、家を出る。
「ちょっと出てくる」
「あら、どこに行くの?」
「ちょっとモールに」
そしてとりあえずクリスのマンションに急いで向かった。
ピンポーンと鳴らしても出ない。
「買いものか!?」
そしてショッピングモールに行き、クリスの行きそうなところを探しながら走った。
「はぁ、はぁっ」
(クリス、クリスっ、どこだっ!?)
しばらく回ったが見つからない。
(今日は来てないのか?)
そして、僕は諦めてモールの中を歩いて帰っていた時に、一つの集団を見かけた。
4人ぐらいのカラフルな髪の人達が団体で固まっていた。
ちらっと見ていたら、集団の真ん中辺りにうつむいて顔が見えない子がいて、そこからふらっと揺らいだ金髪の髪が見えた。
あれは……、
「クリス!?」
「え? ……優司!?」
なんとそこにいたのは紛れもなくクリスだった。
「あ!? 何だてめー!?」
一人のピアスを顔中にライオンのように大量につけた金髪の男がこっちに近づいてくる。
「何だよ、彼女の何なんだよ!?」
威圧してくるこの男、正直言って怖い。しかし、そうか。クリスのやつ絡まれているのか。
「まさかお前みたいな陰キャが、この金髪の彼女と知り合いなのか!?」
「! あぁ、そうだ」
「ほう、じゃあてめーとどういう関係なんだ!?」
「それは……」
言葉を考えあぐねていると、なぜかクリスも顔をあげてこっちをジーッと見てくる。
「た……」
「たぁ!?」
「た、大切でかけがえのないパートナーだ!!」
「ちっ、なんだ野郎がいたのかよっ! 皆帰ろうぜ!」
そして僕達はしばらく無言で帰る。
(パートナーとか言っちまったよ。何か気まずいなー)
「あ……」
「ねぇ」
「ん?」
「私悪そうに見える?」
「え?」
「何か日本のギャルに見られたみたいなの」
「そ、そうだったのか……」
まぁ、確かに金髪の女子なんてこの町ではほとんどいないからなー。
「髪、染めようかしら?」
突然クリスはとんでもないことを言う。
「だ、駄目だっ。折角の綺麗な髪が勿体ない!」
「! そ、そう……」
「あ……」
また変なこと言ってしまった……。
「……you are my super hero after all」
「ヒーロー? そんな大したもんじゃないよ」
「……」
少し傾いた太陽が明るく照らす道を僕達は一緒に歩いた。
“you are my super hero after all.”は“貴方はやっぱり私のスーパーヒーローね”という意味です。
ついでに『shopping mall』はアメリカ英語で、『shopping center』はイギリス英語だそうです。




