幼馴染みに日本語を教える
新連載です
宜しくお願いします
入学して3ヶ月、グループが出来始めてクラスが馴染む頃、うちのクラスには一際目立つ美女がいる。髪は艶やかな金髪で風になびくと日差しの影響で物凄く綺麗に輝く。目は青色以外は比較的東洋人の顔立ちだ。
名を藤澤クリスティーナと言い、僕の小学3年生までの幼馴染みだ。そして彼女はうちの高校に入学するまで英国の学校にいた帰国子女だ。
日常会話程度の日本語は大丈夫だが難しい単語はまだ苦手らしい。だから僕はクラスや図書館で彼女に中学くらいからの日本語を教えている。
しかし最近は少し教える内容が変わった。
「優司ーっ」
「クリスどうした?」
「この小説のphraseを読んでみて」
「……『僕は君のことを前からずっと好きだ。愛している。だから残りの人生を君と歩みたい』」
「キャッ」
甘々のラブコメ小説がハマっていて、その台詞を僕に読ませたがる。
「クリスならこれぐらいの台詞は読めるだろ?」
「いや、まだ読むとなると難しいわね」
「……本当か?」
「えぇ♪」
彼女はニコリと笑う。怪しい……。
「やっぱり日本のマンガは面白いわ~。読みやすいし、ドラマチックで日本語の勉強にもなるし」
「まぁ、そうだな。最近ハマっているマンガは何て名だ?」
「『リボンの髪飾りを君に』、『恋せよ乙女達!』とか、かしらね?」
「知らないな~。少女漫画か?」
「うん、そう」
知らないはずだ。僕は少女漫画は詳しくない。
「あぁいうのlove comedyって言うんでしょ? 日本での恋愛に憧れるわ~っ」
「ああいうのは物語の世界だけで現実にはないぞ」
「えーー、そうなの~~??」
彼女は頭を垂れる。どんだけ落ち込んでんだこいつ?
「どうだ? こっちでの生活は? 慣れたか?」
「うん、大分ねー」
彼女はどういう訳か単身で日本に住んでいる。かつて住み慣れていたこの町でかつ相談しやすい僕の近くのアパートに住んでいる。
そして放課後になりクラスで僕は彼女に日本語を教える。
「やっぱりクリスは文章がまだ苦手だから読んでみて」
「『かつて日本の国内総……せ?』」
「『生産』」
「『生産は世界でもトップクラスのレベルになっていて、アメリカに……』」
「『次ぐ』」
「『つ、次ぐ二位だった。そして国内の……』」
「『需要』」
「『じゅ、需要が高まると……』あー、もうやだっ! つまらないーーっ!! difficult、difficult !!」
「仕方ないだろ? 普段使わない日本語を習っているんだから」
「むーー、面白くないもの」
「……ふう、じゃあどうしろと……?」
「……じゃあ、この文章を教えて?」
彼女からおもむろに鞄から取り出し、本を一冊渡された。どうやら小説みたいで『木の実の華』という題名だった。甘々系とは違うのか?
「どこから読めば良い?」
「うーんと、このbookmarkを挟んでいるところから」
「……ここか」
「『麗らか』って何て読むの?」
「『うららか』だな」
「どういう意味?」
「意味……か」
意味と言われると難しいな。日本語だと『気持ちよさそうな晴れ晴れとした』感じだが、英語なら……えーと、
「beautiful……かな?」
「え?」
彼女は急に僕の方を見て、目を見開いて顔を赤らめる。
「やだ、優司ったら。こんなところで何言っているの?」
「は? どうした急に」
「急にbeautifulなんて言われても、困っちゃうわ~~」
「何のことだ?」
「だから私がbeautifulなんでしょ?」
「いや、麗らかの意味が英語でbeautifulってだけで……」
「え?」
「麗らかの意味がっ」
「I see ……」
急にクリスは明らかにテンションを下げた。どんだけ嬉しかったんだ?
そしてしばらくその小説を進んでいく。流石自分の読みたい本。徐々にだが進んでいく。
「ねえ、優司っ」
「ん? 何だ?」
「ここは何て読むの?」
「これは……」
『彼女の柔肌にまるで雪の上をゆっくり滑走するように僕の手が滑らかに下へと徐々に降りて行く』
(……これだから文学は!)
そして彼女は僕の肩をゆさゆさと揺さぶる。
「ねぇ、優司。これどう読むの?」
(……とりあえず単語を教えるか)
「……えーと、どれが分からない?」
「これ」
「『柔肌』だな」
「どういう意味?」
「そのままだ。『柔らかい肌』だな」
「じゃあ、これ」
「『滑走』スキーをイメージして、これは『滑り降りる』感じだ」
「なるほど? じゃあこれは?」
「『滑らかに』と読んで、引っかかりが無くてよく滑る感じだ」
「ふーん、なるほど。じゃあ意味は?」
きた。
彼女は明らかに好奇な目でこっちを見る。
(どう説明したら良い……)
「ねぇ、優司ってばー、どういう意味?」
「だから……」
彼女の耳元で僕は言った。
「女子の肌を男が触るという意味だ」
「? physical contactってこと?」
「ん? physical contact?」
「あー、肌の触れ合いのことね」
「あぁ、そうだな」
「日本人もそういうのあるんだ。無いと思ってた。ちょっとどんな感じかやってみてよ」
(え? この文面通りにか!?)
「え? ここではちょっと出来ないなっ」
「何よーっ。日本の小説なんだから、日本人なら普通なんでしょ? ほら早くっ」
ほれほれ~っと誘ってくる。
「セ、セクハラじゃないからなっ」
「ん?」
僕は周りに悟られないように彼女に近づき、彼女の短いスカートから出ている太ももをぷにっと手で押さえる。
「ふえっ!?」
彼女は大きい声を出し、周りがざわっとする。僕は慌てて手を離す。
「……そ、それは気が早いわ……」
彼女は照れながら言う。えぇ……、ミスったのか?
そして帰る時に説明をしたら、彼女も納得した。
「なんだ。romanticな内容だったのね……」
「……」
なんか少し変な空気が流れる。
「もう、いきなり太もも触るもの。びっくりしちゃった」
「悪い……」
「まぁ、私が言ったことだし、別に構わないんだけどねーっ」
「……」
「あ、そうだ優司」
「なんだ?」
「この日本語は大丈夫?」
「どれ、聞かせてみて?」
「『少しおっちょこちょいでエッチなあなたが好きです』」
「……良いんじゃないか?」
「そかっ」
そして僕達はいつものように帰って行く。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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