第8話 3日目(休) 女神崇拝
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この世界に来てまだ3日目なので実感は湧かないが、10日に1度の休みの日が訪れた。
僕は朝早くから神殿へ向かって歩いていた。街の一番奥で毎日鳴り響いている鐘のすぐ右隣が神殿なので、僕ひとりでも道に迷う心配はない。神殿に向かっている理由は昨日報酬を受けとる際にシーラさんからこんな提案を受けたからだ。
「おつかれさま、リョータくん。明日はゆっくり休むといいわ」
「ありがとうございます。右も左もわからないし、ファットさんもいないので何処にも行くアテないですからね」
「それなら神殿に行ってみるといいわ。スキルや特性を確認してもらえるから、もしかしたら得意なことが判るかもしれないしね。それに祝福してもらえば少なからず能力の底上げも期待できるから、最初だけ案内してあげる」
そんな会話を思い返しているうちに鐘の塔にたどり着いた。そこから神殿の方へ曲がると遠目にシーラさんと聖職者のような佇まいをした年配の女性とが何か立ち話をしてるのが見えてきた。自分でも不思議なのだけれど、何をもって聖職者っぽいと認識できたのかはよくわからない。漠然とした雰囲気なのか、清潔感なのか、認識できていないだけで実は神聖な何かに気圧されているのか……
そしてシーラさんはいつもと変わらず少し癖のあるフワッとした短い髪と愛嬌のある顔立ちにもかかわらず仕事のできる女性という感じが出ている。それはきっといつもと同じ立襟のブラウスの所為で……いや、もしかしたら私服という概念がこちらの世界には無いのか……いや、普通に考えて今日も業務の一環できっと休日手当も発生しているのだろう。
こちらの世界の宗教的なことは全くわからない。礼儀作法もわからないし禁忌も判らないし、神殿がどのような役割を担っているかも朧げにしかわからない。シーラさんと一緒というのはとてつもなく心強い。ファットさんも言っていた、大抵のことはシーラさんに任せておけば間違いないのだ。
そんなことを考えているうちに、シーラさんも僕が歩いてきているのに気が付いたようだ。僕はワザとらしく慌てたように小走りで駆け寄る。
「おはようございます、お待たせしてごめんなさい」
「おはよう、リョータくん。紹介するわ、神官長。うちの母よ」
えっ
「神官長のイェルダです。娘がお世話になっています」
えっ
「はじめまして、こちらこそ……お世話になっています?あっ、リョータです」
神官長は興味津々といった面持ちで2,3歩左右に動きながら僕のことを確認すると、またシーラさんと話し始めた。
「良い趣味しているわねシーラ、くくっ」
「やめてよ、かーさん。はやく悩める新人君の秘めた才能を引き出してあげて」
「わかったわ。ついてきなさい」
正面奥の本殿に入ると白いタイルを叩く足音だけが高い天井に吸い込まれていくような静謐さを湛えていた。なんとなく女神様に会った時と同じ空気を感じて不安になり左右を見回すが、ちゃんと壁もあるし木のベンチも並べられているのが確認できた。そして正面には……あの時の女神様とはたぶん違う女神さまの石像が祀られていた。
神官長は女神さまの石像を背にしてこちらに向き直り、
「さ、はじめるわよ」
そう言って僕の額に右手の人差し指と中指を押し当てて目を閉じた。
が、すぐに指を離すと虚空に視線を彷徨わせてこう言った。
「確認のしようがないわね」
「どういうこと??」
シーラさんが食い気味に聞き返す。
「ほんとに面白いぐらい真っさら。こんなの初めてよ」
「能力が隠蔽されりいたり封印されているという可能性は?」
「ここは神殿よ。不自然な魔力の流れがあればすぐにわかるわ」
「それではすでに枯渇してしまったと言うの??」
「そんな荒らされた形跡もないわ、ただただ真っさらなだけ」
その後も親子二人で喧々諤々やっていたが専門的な言葉なのか翻訳が効かない言葉が多くなってきて話についていけなかった。が、とにかく何も取り柄が無い役立たずだということだけは自分でも理解できた。
結局結論は出なかったようで諦めて帰ることになったようだ。神殿を出たところでシーラさんは思い出したように、
「そういえば……かーさんので祝福でなにかいいのをお願いできない?」
「せっかく娘が連れてきたのだからいいわよ。なにがいいの?」
急に話を振られてもぜんぜん理解が追いつかない! 確かに祝福の話も聞いていたけれどすっかり忘れていた……こんな時はあれだ! お勧めを1人前だ!
「あの……祝福って何ですか? よくわからないのでお勧めのものをお願いします。」
神官長は少し間を置くと、
「記憶を失っている事を忘れていたわ。ごめんなさいね。祝福というのは一定期間、本人の能力を増幅させることができる補助系魔法よ。補助系魔法には、ほんの短い時間だけ劇的に増幅させるものもあれば、一日ぐらい持続して能力をそれなりに増幅するものもあるわ。そして神殿で掛ける祝福はほんの少しだけだけど一年ぐらい持続させて増幅するものがほとんどよ。効果は力が強くなるとか、足が速くなるとか、色々あるけれど……」
そういいながら神官長は僕の事をもう一度観察するとため息をついた。
「リョータくんは根本的に能力が足りていないから、どれも効果がほとんど見込めないわね。これでも持って行きなさい」
と言うと、短いつぶやきとともに何かを額に押し当てられ、そしてすぐに離すと手渡された。それは薄い木札のようなものだった。
木札の表には「恋愛成就」とだけ書いてあった。
……体のいい厄介払いというやつなのだろう。
帰路についた僕とシーラさんは鐘の塔の前で別れることにした。
「わざわざお時間頂いたのに本当にすいませんでした」
「いいのよ。15歳になってもスキルが全然無いなんて前例がないのだから、もしかしたら明日にでも聞いたこともない素敵なスキルが身につくかもしれない……じゃない?まぁ、気落ちせずに明日からも頑張ってね。それじゃギルドに寄って帰るわ」
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わからない事ばかりですが優しく教えていただけたら嬉しいです。