第6話 1日目 反省会場
初投稿です。よろしくお願いします!
今週末の投稿はここまでです。
来週末にまた書き溜めた分を投稿していきます。
「よう坊主、しけた面してんな」
宿に戻るとファットさんが先に夕食を食べていた。白く濁ったお酒のようなものも飲んでいるようだ。
「最初はだれでも失敗するんだ。いちいち気にしてたら飯がまずくなるぞ」
僕の失敗を見てきたかのように一方的に話を続けていく。
「今日の稼ぎはいくらだったんだ?」
「銀貨5枚でした」
「なら今日はぐっすり眠れるな。でもまぁ晩飯に酒を追加できるほどの稼ぎではないがな」
女将さんが僕の分の晩飯を運んできてくれた。よく見ると朝飯のジャガイモが硬そうなパンに替わっている以外は全く同じメニューだった。そういえば今日は昼食を食べなかったな。こちらの世界では1日2食が一般的なのかもしれない。
「安い宿の飯が旨かったら誰も出ていかなくなっちまうだろ?それで栄養は足りてるから黙って喰え」
僕が食事になかなか手を付けなかったのをファットさん勘違いしたようでそんな悪態をつくと、女将さんがファットさんを上回る大声で言い返してきた。
「タダ飯喰らいが偉そうなことを言うんじゃないよ!メニューはギルドで決めているのさ。文句があるならいい飼い主を見つけてさっさと出ていくんだね」
「へいへい」
ファットさんが降参するように両手の平を耳の横へ上げると、女将さんは機嫌良さそうに厨房へ戻っていった。
失敗続きだったとはいえ昼食抜きで一日働いた後の食欲には抗しがたく、しばらくは無言で朝食と同じメニューを貪っていた。朝食には無かった黒くて硬いパンは少し酸っぱい味がしたが、脂と塩に塗れていれば空腹の僕にとっては何も問題はなかった。
隣でお酒をチビチビと舐めていたファットさんは僕の手が止まりはじめる頃合いを見計らって話をはじめた。
「俺は明日から旅に出る。その前に聞いておきたいことがあれば全部言え」
少し小声になったファットさんが真剣な顔になる。せっかくだから今日の失敗を取り返すためにも聞けることは全部聞いておこう。
何を質問しようか考えていると、外から4の鐘が聞こえてきた。
当然ながら僕とファットさん以外にはまだ誰も帰ってきていない。
そういえばさっきシーラさんに教えてもらった便利屋の心得をファットさんにも聞いてみよう。
「便利屋の仕事で大事なことって何ですか?」
「おい坊主、ふわっとした質問をするな。そういう質問をして何か答えを得られたとしてもそれが本当に知りたかった答えなのか?もっと具体的な確実に知りたいことがわかる質問をするんだ。ちなみに大事なのは洞察力な」
驚くことにシーラさんと同じ答えだったが、確かに依頼主に漠然としたことを聞いてもその答えで仕事のすべてが理解できるとも限らないな。知りたい内容で具体的なものを聞く練習だと思って聞いて行こう。
「えーと、では財布の中身の硬貨の種類と価値を教えてください」
「そうだ、そういう質問をすればいい」
財布から取り出した硬貨を机に並べながら説明してくれた。
「今日の報酬の銀貨は銅貨100枚の価値だ。金貨は銀貨100枚の価値だ。大硬貨は価値が10倍だ。重さが10倍だからな。そこから上はお目にかかることは無いから気にするな。坊主の全財産は、ちょっと待てよ……全部で2,480ファーレルだな。」
半奴隷を解除するには全然足りないけど、ちゃんと働いてさえいれば10日後にこの宿を追い出される心配は無さそうだ。
「では、着替えとかっていくらぐらいで買えますか?これ1着しか持っていなくて」
「それなら女将に頼んでおけ、嫌味は言われるだろうがギルドの制服が支給されるからな。坊主が着ているその服だ」
驚いたことに買わなくていいらしい。
「怪我をしたり病気になったりしたらどうしたらいいですか?」
「普通は神殿に行くんだが、どうせ金が足りないからシーラちゃんに泣きつくんだな。損得勘定によっては助けてくれるかもしれねーぞ」
そうだろうとは思っていたけれど労災って概念はないみたいだ。
「便利屋ギルドの仕事で注意が必要な仕事ってありますか?」
「このふたつには気を付けろ。ひとつは依頼主が便利屋ギルドに依頼を出し慣れていない時。」
先に行ってくれよ!ファットさんに言っても仕方ないけど!
「ははは、今日はそんな感じでした」
「依頼を出し慣れていない依頼主と依頼を受けるのが初めての便利屋の組み合わせか!
お互い災難だったな!まぁ誰が行っても同じように失敗しただろうし、下手にうまくいくとどんどん依頼が雑になっていくからギルドとしてはこれで良かったんだろ」
酷い話だとは思ったが依頼を受けるのが初めてだった僕の躾としてもちょうど良かったのだろう。手のひらで転がされている気分だ。
「もうひとつは今まで指名依頼で他の誰かが受けていた仕事がこっちに廻ってきた時。」
「なぜですか?依頼主は慣れているんですよね?」
「指名依頼が途切れるってことは何かしらトラブルがあったと考えてるのが普通だ。トラブルの原因が解決しないまま便利屋だけ変えても状況が良くならない場合が多い。ギルドはそれなりに原因に心当たりがあるはずだから根掘り葉掘り聞くんだぞ。」
なるほど問題が無ければわざわざ指名を止めて、一から仕事を教えなおす手間をかけるはずがない。
「あと、いままでのその仕事に慣れた便利屋と比較されて仕事が下手だ雑だ遅いと文句言われることもあるからな」
酷い話だけど、依頼する側からしたらそう見えるんだろうな。とにかく仕事に関してはシーラさんに何でも聞くこと、これに尽きるようだ。
仕事以外で困ったらどうしたらいいんだろう……
「ファットさんがいない間、本当に困ったときは誰に相談すればいいですか?」
話が長引いたせいもあり追加で注文したお酒をあおっていたファットさんがその手を途中で止めると、少し意外そうな顔をした後にいつもの悪いキメ顔に戻った。
「いい質問するようになったじゃないか坊主。普段の面倒事はギルドのシーラちゃんに任せておけばいいが、本当に身の危険を感じたらバーリエル商会のソフィアに泣きつくんだ。デカいから多分すぐにわかるはずだ。バーリエル商会の紋章は牛の頭だから覚えておけ。俺の名前を出せば……まぁその見た目だ俺の名前を出さなくてもきっと匿ってくれるだろうよ。何なら今から行って買い取ってもらうか?」
やっぱりファットさんの中でも僕が奴隷になるのは確定なんだな。
「いえ、泣きつくのは最後の手段で」
「そうか、便利屋ギルドは明後日が休業日だから顔を出しに行ってこい。そして3か月ゆっくり悩め。それが過ぎたらもう悩む権利もなくなるんだからな」
「ははは……」
「ちなみに俺がいる間でも、本当に困ったらソフィアに泣きつくんだぞ。同じ半奴隷の俺に泣きつかれても何もできやしないからな」
酔いが回って呂律が回らなくなってきたファットさんを部屋まで送り、自分のあてがわれた部屋に戻ると疲れと満腹感からすぐに意識を手放し、僕の長い長い異世界1日目は終わりを告げるのだった。
初投稿です。よろしくお願いします!
わからない事ばかりですが優しく教えていただけたら嬉しいです。