第5話 1日目 薬師補助
初投稿です。よろしくお願いします!
書き溜めた分をもう少し投稿していきます。
材料の芝が籠いっぱいになったので作業場の裏手に行きハンナさんに声をかける。
「芝の収穫終わりました」
「あぁご苦労様、これだけあれば今日は足りそうだ。で、薬草の方は?」
「薬草ですか??」
なにか薬草の名前らしきものも言っているが自動翻訳が効かないのか聞き取れない。
「聞いてなかったのかい?芝と共植えしていた薬草を先に抜いただろう?」
「あれも使うんですか??」
そう答えると、ハンナさんは慌てて裏庭の方に駆け出していく。
なんとなくまずい事になったと後を付いていくと、片隅に捨てられた雑草を手に取りながらハンナさんはあきれ返っていた。
「こっちは全滅だね。ご丁寧に根絶やしにしてくれているから、種を蒔くところからやり直しだ。人の話も聞かずに勝手なことをするんじゃないよまったく」
これ僕が悪いの?
「……すいませんでした」
そんなに大事な薬草ならもっとちゃんと説明してくれよ。と思いながらも立場上強くも言えずに謝っておくと、ハンナさんは別の場所から採ってくると僕を置いて立ち去り、5分ほどで戻ってきた。
「手間採らせやがって、さぁ次の作業を急ぐよ。次は材料を磨り潰す行程だけど嫌な予感しかしないから今日は見てるだけにしときな」
ハンナさんは芝をソバ粉を作るような石臼にセットし、薬草は丼程度の大きさのすり鉢へ放り込む。どういう原理なのかよくわからないが石臼は勝手に動きだし石臼の周りから緑色の汁が滴ってきた。すり鉢の方は、ハンナさんが丁寧に薬草を潰している。見ている限りは僕にもできそうな気がしないでもないけれど、また何か失敗したら今度こそ追い出されそうなので黙って見ておくことにしよう。
ハンナさんは磨り潰しながら時折薬草の説明をしているようだが、薬草の名前はうまく変換が効かないので理解できず、ついつい聞き流していまう。そんなことが何度か続くうちにハンナさんはため息をつくとその後は作業に没頭していった。
遠くからまた鐘の音が聞こえてくる。
非常に気まずい時間が続いていたが、ようやく材料の準備は揃ったようで大きめの空のフラスコを一列に10本づつ入る木枠にセットしていく。あんな不安定な木枠にどうして入れるのだろうと思いながら見ていると、材料から出た液体をすべて小ぶりな寸胴鍋に放り込み撹拌しだした。よく見ると寸胴の下に竈などはなく火にかけたりはしないようなので、なにかオママゴトっぽくて滑稽に見えてしまう。
そうこうしているうちに、レ―ドルのようなものでフラスコに移し替えていき、コルクで栓をしていった。中の液体はほとんど透明なのでありがたみも湧いてこない。
ハンナさんは少し疲れた様子で、
「あとはこうやって見て、薄く緑色がかってきたら呼んでちょうだい。魔力を込めて濁りを取らないと赤くなって使い物にならなくなるんだよ。3の鐘までは掛からないはずだから、それまで目を離すんじゃないよ。」
木枠を持ち上げながらそう言って作業場から出て行った。
イライラとしながら作業をしているハンナさんがいなくなると、ようやく嫌な緊張が抜けて一息つくことができた。こちらの世界では今まで一度も時計を見たことが無いので、きっとこういう待ちの仕事の指示もアバウトにならざるを得ないのだろう。
どれだけ待ったかよくわからないが、ようやく緑色に色付きはじめてきた。
「ハンナさーん、色変わり始めましたよー!」
と大声で呼ぶと、ようやくかい?と言いながら作業場に入ってきた。
そしてフラスコを見ると烈火のごとく怒り出した。
「どうしてこんなになるまで放っておいたんだい!これじゃ全滅だよ!」
「えっ、まだ薄い緑色じゃないですか?」
「どこを見てたんだい?こうやって見ろと言わなかったかい?」
ハンナさんはそう言うと、木枠の横からフラスコが10本重なるようにして覗き込んでいた。慌てて同じようにのぞき込むと確かに濃い緑色でわずかに赤味を帯びていた。
「何のために依頼を掛けたかわかりゃしないよ。邪魔しに来たのなら今すぐ帰っておくれ」
取り付く島もなく追い出されてしまう。
外に出ると、また遠くから鐘の音が聞こえてきた。
3回鳴ったのできっとこれが3の鐘なのだろう。
4の鐘まで働いて戻って来いとシーラさんに言われて出たので今すぐ帰るのはとても気まずいが、先にハンナさんからのクレームがギルドに届くとさらに状況が悪くなりそうなので諦めてギルドに戻ることにした。
「早かったわね。状況を説明してくれる?」
シーラさんは淡々とした口調でそう言うと、奥の部屋で僕の話を聞いてくれた。
薬草を知らずに駄目にしまったこと、ポーションの変色を見逃し全滅させてしまったこと、すこし言い訳がましい言葉も織り交ぜながら最後まで説明するとシーラさんは目をつぶってコップの水を一口飲むとこう言った。
「私はリョータくんが出かける前に、わからないことは何でも確認するように言いましたよね?」
確かに言っていた。
「これから便利屋を続けて行くうえで一番大事なのは洞察力です。依頼者がなぜ仕事を頼むのか。何をして欲しいのか。なぜそんな指示をするのか。常によく聞いて考えて、それでもわからないことは確認するのよ。」
たしかに材料集めの時、うまく変換がかからなかったが薬草と言っていた。薬草なら雑草ではないのは明らかだ。前の世界の芝生のイメージで勘違いしたのは言い訳にならない。
ポーションの見方の説明の時も、不安定な木枠をわざわざ持ち上げながら「こうやって」確認しろとも言っていた。一度も真似して持ち上げなかったから理解できなかったのは明らかに僕の落ち度だ。
「日常的に発生する仕事なら割高なギルドに依頼せずに人を雇うわ。わざわざ割高なギルドに依頼するのは、危険を伴う仕事か突発的な仕事だからよ。危険な仕事の方は冒険者ギルドの方に行くから、便利屋ギルドに来る依頼のほとんどは突発的な仕事ということよ。ここまで理解できた?」
漠然と雑用だな、説明が足りないなと思っていたが、そう言われてみれば便利屋ギルドに来る依頼は突発的に発生する慣れない仕事ばかりなのだと気が付く。
「便利屋ギルド員は慣れない仕事をその場で理解しなくてはならないということなんですね。」
シーラさんはようやく笑顔を見せてくれた。
「そういうことよ。だからすこしでも理解できないことは何でも聞かないと駄目なのよ。慣れない仕事をさせているのは依頼主もわかっているのだから、聞けばちゃんと説明してくれるわ。」
「はい、本当にすいませんでした。」
「ちなみにハンナさんは、なぜ本職のポーション作りでわざわざ便利屋ギルドに依頼をしたと思う?」
そんなことを考えたこともなかった。
「きっとハンナさんはきっと腰かどこかを痛めているはずよ。だから屈んでする仕事を嫌がったのだと思うわ。さすがに専門作業の抽出や練合までは任せなかったようだけど。」
イライラして見えたのは、腰が痛いまま腰を屈めて乳鉢で作業していたかだったのか。薬草を駄目にした後ろめたさから、そんなことまで考える余裕を無くしていた。
この仕事は向いていないな。他人とのやり取りが苦手だった僕には荷が重すぎる。
「本当にすいませんでした。やっぱり僕はクビなんでしょうか?」
恐る恐る聞くとシーラさんは少し苦笑しながらこう言った。
「そんなわけないでしょ。本当に理解できていないようね。」
シーラさんは一呼吸置き、それからファットさんの顔真似のような悪い笑み浮かべると、
「一番最初に説明したはずよ。便利屋ギルドは成功報酬じゃないの、実施報酬よ。はい、今日のお給料。」
そういって銀貨を5枚渡してきた。
「今日は宿に戻ってゆっくり休みなさい。明日も頑張るのよ。」
初投稿です。よろしくお願いします!
わからない事ばかりですが優しく教えていただけたら嬉しいです。