第3話 1日目 奴隷制度
初投稿です。よろしくお願いします!
書き溜めた分をもう少し投稿していきます。
待合室に戻ると、ファットさんが先に戻ってきていて座っていた。
「おう坊主。宿に行くぞ」
「ちょっと待ってください、受付に……」
「大丈夫だ、話はつけてある。もたもたするな」
受付の方を振り返ると、お姉さんは苦笑を浮かべながら肩口で手をひらひらと振っている。話が付いているというのは本当のようだ。
宿は本当にすぐ道向かいで、簡素ではあるもののギルドと同じように清潔感に溢れていた。
「そういえばファットさん、ギルドってもっと雑然としていると思っていたのですが」
「ん?坊主は冒険者ギルドと勘違いしてないか?あっちは血気盛んな連中が毎日のように大騒ぎしているんだ。実際クエストによっては莫大な金が手に入るんだからこっちとは大違いだぜ」
「便利屋ギルドは違うんですか?」
「あぁ、大違いだ。こっちは死ぬような危険な依頼はないが、まぁ誰でもできるような仕事だから報酬は微々たるものだ。1日働いてもこの宿に泊まれば幾らも残りはしないぞ」
そんな話をしているうちに、宿の女将さんが顔を出した。
「ファっくん?何しているんだい?特級便利師に逆戻りかい?」
「うるせーよ、家が焼けたんだ。あとこっちの坊主は道連れだ。3か月面倒見てやってくれ。あと朝飯もな」
「あぁそういうことかい。がんばんな。1泊銀貨3枚で朝晩の食事つきだよ」
「坊主、財布をよこせ、後で朝飯でも食べながら説明してやる」
「あ、お願いします」
外国のホテルで旅慣れした友人に縋るように財布を預けた。ファットさんが乱暴に財布の口を開くと、中からは大小色違いの硬貨が顔を覗かせていて、その中から大きい銀貨を3枚取り出した。
「10日分だ。前払いしてる分だけはサービスしてやってくれ」
と言い残し財布をこちらに投げてよこすと食堂の方へ歩いて行った。財布を受け取り慣れない手つきで財布の口を紐で縛り直していると既にファットさんの姿はなく、慌てて追いかけていくと窓際の席に着いたファットさんが手招きをしている。
すぐに朝食は運ばれてきた。
「今日の朝食はサービスだってよ。言ってみるもんだな」
言われてみれば今日泊まる分の朝食は明日の朝の分だ。ファットさんはこう見えて実はいろいろ細かいところに気が付く人なのかもしれない。
「ちなみに俺は1泊しか泊まらねぇから完全にタダ飯だな。ははっ」
……ただ自分の食い意地に正直なだけだった。
大きめの深皿には蒸かしたジャガイモと厚切りのベーコンと目玉焼き、そしてマグカップぐらいの深い椀には玉ねぎの沈んだスープが湯気を上げている。そういえば昨日は朝にビールを一本飲んだだけだ。湯気から香る塩と油の匂いに惹かれ食事に手を伸ばす。
「そういえば15万ファーレルって、さっきの大きい銀貨何枚になるんですか?」
「15万ファーレルなら金貨15枚だ。金貨1枚で大銀貨10枚だから……大銀貨なら1,50枚だな」
「ちょっと待ってください!さっき宿代10日分で大銀貨3枚でしたよね?ぜんぜん返せる気がしないんですけど!」
「何か勘違いしていないか?まともに働いて返せるわけないだろう。半奴隷の3か月は借金を返して更生するための猶予期間だというのは建前だ。実際には飼い主を決めるのにそれぐらいかかるってだけだぞ」
ファットさんはベーコンにフォークを刺すと大きな口でかぶりつきながら、救いのない話を続ける。
「奴隷だって飯を食うからな。次の仕事が決まっていない奴隷を3か月も縛って置いておくには金がかかりすぎるから、それまでの間半奴隷として自給自足させておくんだよ。奴隷取引所には明日にも俺たちのプロフィールと最低価格が貼り出されるんだろうな」
思っている以上に救いのない話だった。これならすぐに奴隷になれとまで言われないだけ前の世界の奨学金の方がよほど良心的だった。
「ちなみに奴隷はどんなところに買われていくのですか?」
「多いのは農場だな。使い減りしない程度に一生肉体労働だ」
「それはキツイですね」
「そうでもないぞ?犯罪奴隷なら鉱山行きとかだかんな。あっちはどう働かせたってすぐにくたばるから使い減りなんて気にしてくれないぞ」
下には下があることを理解することで心が救われることもあるんだな。
「もう少し夢見れそうなマシな未来とかないですか?」
「運が良ければ貴族や商会の奴隷という線もあるが、貴族はまず無理だ。念のため聞いておくが坊主は実は元貴族とかじゃねぇよな?」
「全然ちがいますよ。どうしてそんなことを聞くんですか?」
「坊主には生きてるっていう気配とか匂いが足りないんだよ。それでなくても癖のない黒髪ってのは珍しいんだ。生まれが俺たちとは違うんじゃねぇかって疑われても仕方ねぇんだよ」
貴族はよほどのことがない限り貴族出身の奴隷しか買わないらしい。
「商会の方は?」
「大きな金が動く商会には奴隷でないと務まらない仕事があるんだよ。奴隷は飼い主に不利益を働いた時点で死刑だからな。ただ信用が第一の仕事だから代が変わるタイミングでもなければ席は空かないぜ」
皿に付いたバターと塩気をジャガイモに擦り付けながら話題を変えてみる。
「ファットさんはどうなるんですか?」
「俺か?俺なら冒険者パーティーにポーターとして買われるのが関の山だな。1年ぐらい生き延びることができればラッキーだ」
「えっ?」
「高ランク冒険者ほど金を持っている。そこに付いていく奴隷だ。分不相応に危険な場所へノコノコ付いていくのだから、何か特別なことがなくても真っ先にくたばるに決まっている」
そんなの犯罪奴隷と変わらないじゃないか!自分のことではないのについ感情的になってしまう。
「拒否はできないんですか?それより3か月の間に逃亡することだって可能なっひぃっ」
何が起こったかわからなかったが気が付くとファットさんに胸ぐらをつかまれて引き寄せられていた。
「さっきさら何度も言っているが勘違いしてねぇか?こんなところで逃亡しても街の中ならすぐに見つかるし、町の外に出たら冒険者でもない俺たちはすぐに魔獣の餌だ。そんなこと誰でもわかってるから半奴隷が自由に朝飯なんて喰っていられるんだよ。そもそも奴隷制度っていうのは能無しが飢え死にしないように親を探してくれるようなもんなんだぞ」
「……すいません」
「いいんだ、記憶がなかったんだよな。ちなみに逃亡奴隷はその場で死刑になるか犯罪奴隷に落ちるかのどちらかだ。これからは軽々しく口に出すんじゃないぞ」
納得はできないものの、怒鳴られたことでようやく冷静さを取り戻しフォークを皿に向けると、既にすべて食べ終わってしまっていた。口の端を舐めるとベーコンの塩気と油気がやけに美味しかったことを思い出すことができた。
「それじゃ、あとは部屋に荷物を置いたらギルドに戻るんだな。受付で今日の仕事を聞いてこい」
「ファットさんは?」
「俺は別口だ。うまく稼げたら坊主も買ってやるぞ」
そんな軽口を残して足早に表に出ていった。
後に続くように外へ出ると、大通りの突き当りにある塔から鐘の音が鳴り響いていた。日差しも強くなり、人通りも多くなってきたようだ。
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