雪も楽しみだけど
「うっわ」
朝起きて窓を開けた先の景色に目を丸くする。
どうりで寒いと思ったはずだ。
昨日のニュース見てなかったけど、今日だったか。
やった!
心の中でガッツポーズする。
少し下を見れば真っ白な庭が目に入って思わずにま、と口の端が上がる。
窓から離れるとすぐクローゼットに近づいて目についた服を引っ張った。
早く早くと自分を急かす。
「あ、おは……」
階段を下りた先、目の端に見えた彼女に手を上げるだけの挨拶をして玄関を出た。
「すっげえ~!」
初雪だ。
目についた、まだ誰にも触られていない真っ白な地面にダイブした。
冷たい。痛い。でも気持ちいい。
わはっ、と笑いながら腕と足を動かして人型を大きくする。
満足するまでやったら起き上がって、自分がつけた跡を見つめた。
「…………バッカじゃないの」
後ろから呆れた声が聞こえる。
ふり返ればさきほどの服装にコートを足した彼女が腕組みをしながらため息をついていた。
「去年もやったのにまだ飽きないの?」
「いやあ、当分飽きることねえと思うわ、俺」
にかっと笑う。
なんせ幼い頃自分が住んでいた地域は雪なんか降らなかった。
彼女と昨年結婚してここに移り住んでから初めて雪の実物を見て、触って、感じた。
「もう、顔赤いわよ」
呆れていた表情が苦笑に変わり、近づいてきたかと思うといたずらっ子のように笑いながら鼻をつまんできた。
「ふがっ」
「ふふっ。まったく、どれだけ雪が好きなの?」
くすくすと面白そうに目を細める。
普段は滅多に笑わないクールな女性なんだけど。
去年もこんな風に俺が雪にダイブして、彼女がその俺を弄って笑っていた。
俺が痛そうに目を瞑ればすぐ離して、今度は労わるように撫でてくれる。
「顔赤くなってる。早くうち入ろ」
あったかいごはん、できてるよ。
その声色はいつもより優しい。
言うなり背を向けて家の中に入っていく彼女の後ろ姿を見つめる。
――どれだけ雪が好きなの。
好きなのは、雪もだけど。
それだけじゃないんだなー。
俺が成人して結婚しても子どもっぽいのはさておいて。
クールで大人っぽい奥さんが、そんな俺を見て笑ってくれて。
あまつさえ鼻をつまむというような意地悪さえしてきて。
おまけに意地悪に慣れてないから最後には優しくなって。
そんなことした自分に照れて、俺を置いて先に家に入ってしまうという。
まったく、去年と同じこと。
うん、俺やっぱり当分飽きることねえと思うわ。
来年もこうなるといいな、とすでに来年の冬を楽しみにしつつ、すっかり冷えた体を温めるため彼女が待つ家に足を踏み入れた。
あー、欲を言えば。
来年にはもう一人家族が増えたらいいなー、と思ってるんだけど。