スライム、合流する
幼きゴブリンに黙祷を捧げると私は落ち着きを取り戻す。
恐らくこの先では同じ事が起き続けるだろう。時間にして数秒にも満たない時間ではあったが、心を乱され続けるというのは余りにも未熟というものだ。
言い訳がましいとは思うが、あのゴブリンは私を喰らおうと襲ってきた。抵抗がなければ私が逆の立場になったいた事は想像に容易い。それ故に私のした事は間違ってなどおらず自然に沿った出来事なのだ。
「……またか?」
私の魔力探査に反応が出る。
強さで言えば先程のゴブリンより少し強い程度。
何も落ち着いた瞬間に襲ってこなくても良いだろうとは言えない。むしろ、よく私が落ち着くまで襲われる事がなかったなとすら思える。それ程にスライムは良い的と言うべきか、餌なのである。
だが私はそこいらに居る只のスライムでは無い。
「グギャー!」
「虚しいものだな…。」
やはりというか、私がスライムである事を前提にゴブリンは襲いかかってくる。私がスライムである事に間違いは無いが、その事が目前にまで迫ってきているゴブリンの不幸だろう。
目の前のゴブリンの体格は先程の個体より大きく、また素早いと感じることが出来た。しかし、それでも私の元に攻撃が届く事はないだろう。
ゴブリンは嗜虐的な笑みを浮かべ持っているナイフで攻撃をしてくる。
当然その攻撃を受けるつもりはなく、ゴブリンのナイフを目前に控えた私は自分の体を少し横にずらす。
すると何が起こるかと言うと、ゴブリンはナイフの振り下ろしだけで私を仕留めるつもりだったので、その体が硬直をする。
硬直した隙を逃すはずも無く、私は持っているナイフをスライム体のバネを用いてゴブリンの首へ目がけ一閃した。
直前まで動かなかったスライムに躱されるとは想像もつかなかったようで、ゴブリンはなんの抵抗もなく私のナイフによる一閃を迎えた。
ぼとりと音を立てて首が地面と接触すると、ゴブリンを構成していた体が霧のように無くなっていく。
そして最終的に遺ったのは先程とは違い、魔石とナイフの二つだけである。今回は耳が残らなかったが、その原因は分からない。
私は頂きますと心の中で捧げ、魔石を摂取し、ナイフを自身の体内へと収納した。
今度は魔石を摂取した事による変化を感じる事はなかったが、無駄にはなっていないということは無意識的に判断できた。
「大丈夫か!?スライ…?」
「ふむ。私は何ともないが?それよりもイータの方が大丈夫か?」
魔石を摂取し、体に変化が見られないと判断した頃にイータの声が響く。張り詰めた空気が流れかけるが、イータの私を呼ぶ声の所為かそれが霧散した。
よく見るとイータのスライムボディは欠けていて、削ぎ落とされたようにすら見えた。
「俺は体がほんの少しばかり削られただけの事よ。核から増やせば…。ほら元通りってな。」
「それならばよかった。」
「それよりもゴブリンに遭ってないみたいでよかったぜ。珍しく集団のゴブリンを見かけてよ。戦ったのはいいが、数が多くて何匹か逃がしちまった。無事で何よりだぜ。ガハハ。」
「…ふむ。それよりブルー達はどうしたんだ?」
「逃げた奴がこっちに向かったんでな。俺らと戦ったゴブリンをぶちのめして、急いでこっちに来たんだ。アイツらも直ぐにこっちに来るだろ。」
「そうか。」
どうやら先程戦ったのはイータ達が逃がした個体だったようだ。
イータから見ると逃したと言えるが、ゴブリン達からすると自分達の取り分が少なることを考えて別行動をしたというところだろう。
イータの言葉を聞き、本人が来た方向を共に見ているとブルー達が追いついてくるのが見えた。
「ピギィ!」
「おう、お前ら。どうやら逃した奴を追い抜いたみたいでよ。お疲れだったな。」
「ピギィ?」
「あぁ?あれからゴブリンにゃ会ってねえって?この一本道だ。俺一人なら兎も角、お前ら三匹で見逃すはずはねぇだろ。俺の知らねぇ場所を作ったかそれとも…。」
「その事だが…。」
別段隠す事でもないので私はイータ達が逃したであろうゴブリンの個体を屠った事を報告する。勿論イータの懸念する事もなにきしもあらずだが、過剰な警戒は精神力を削るので必要がなければしない方が良いだろうという考えたからだ。
「マジかよ…。弱くてもゴブリン一匹やれりゃ一人前じゃねえか!つってもスライムでそんな事が出来んのは俺らしか居ねぇけどな!…別に疑ってるわけじゃねぇが、もう一匹殺ってるのを見せてくれねぇか?ジジイに報告する必要があるしよ。」
「それくらいなら構わない。」
「おう。そんじゃあサクッと殺って戻ろうぜ。心配しなくても苦戦したら助けてやるからな。ガハハ。」
「善処しよう。」
道すがら一匹のゴブリンを見つけ、私が1匹で交戦する事になった。イータ達は何があっても助けに入れるようにしてくれていたが、私がゴブリンを一撃で仕留めたせいでその機会は訪れなかった。
その様子を見てブルー達から何やら歓声が上がったようだが、逆にイータは考え込んでしまう。そしてイータは住処に戻るまで一言も言葉を発しなかった。
ちなみに私達五匹で行動している時は何者にも襲われる事はなかった。